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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
15/30

告白(2)

後ろから風見が自分の名を呼ぶ声が聞こえたが、恭介はそのまま走り去る。

誰とも顔を会わせたくなくて、北ウイングの洗濯場に逃げ込んだ。

電気も点けずに部屋の隅にうずくまった。

なんでこんなことに。

浮かんでくる言葉は、一つだけで、それがぐるぐると頭を巡る。

膝を抱えて、膝小僧に額を付けると涙が出てきた。

もう、部屋に帰れない。

一度、泣けてくると止まらない。次々と涙が出て、膝を濡らした。

風見さんが俺を好き?

『俺のモノに』と風見さんは言った。それってそういう意味だよな。俺と風見さん・・・。

まったく想像がつかなかった。風見さんのことはいい先輩だと思う。

それ以上は、考えられない。

このまま、ずっと隠れていたい。

想いを寄せられても自分の中に答えはない。

どのくらいそうやっていたのだろう。そのうち涙は出なくなったが、心が痛いことには変わりがない。

もう、今までのようにはできない。

風見さんとの生活はあまりに自然で、居心地が良くて、一緒に居ても何の苦もなかった。

また、溢れだした涙を恭介は腕で乱暴に拭った。

どうして、誰も彼も俺を・・・。

人生もてる時が一度はあると聞いたことがあるけど、こんなことだったら来なくていいのに。

恭介は、なおも溢れてくる涙と行き場のない想いを持て余した。




「そこに誰かいるのか」

声がして、灯りが点った。

いきなり明るくなったため、恭介からは何も見えず、目を瞬かせる。

「恭介」

驚いたように名を呼ばれる。

「月嶋さん・・・?」

やっと目が慣れてきて、恭介は入口に立つ月嶋が見えた。

「こんなところで何をしている?もう、消灯だ」

月嶋の言葉に恭介はかすかに首を横に振る。

ほっといて欲しい。このまま見逃して。

しかし、恭介の望みはむなしく、月嶋は恭介に歩み寄る。

「泣いているのか」

目線を合わせるためにしゃがみこんで、月嶋は恭介の頭をなでた。

「どうした。巽と喧嘩でもしたか」

その言葉にも恭介は首を横に振る。

「もう、消灯時間を過ぎている。部屋に戻らないか」

「部屋には帰れません。」

初めて恭介は口を開いた。

「何故?」

それにも恭介は首を横に振り、

「聞かないでください。そして、このまま俺をほっておいて」

言えない。月嶋さんは風見さんの友達だ。

「それはできない相談だ。僕は、寮長で監督責任がある。それに、恭介が泣いているのにほっとけない」

「泣いてません」

手が伸びてきて、頬の上をなぞられる。

「これは、涙の痕っていうと思うが」

恭介は顔を伏せる。

「話して。僕以外に相談にのれない話じゃないのか」

鋭い。

確かに、他の誰にも相談できないだろう。でも、この人に相談するのもどうなのか。

「巽に告白でもされた?」

月嶋のセリフに恭介は勢いよく、顔を上げた。

「どうして・・」

「図星か」

月嶋は大きくため息をついた。

しまったと思った時には後の祭りだ。

「気づいていないとは思っていたけど、やっぱり気づいてなかったのか。でも、巽は告白するつもりもなかったと思ったけど」

この人はなんでも知っているんだ。でも、どうして。

「恭介。なにがあった?」

「どうして、知っているんですか」

質問に質問で返す。

「巽は、あまり生徒会室には寄ってこないんだ。最近はよく来るだろう。もちろん、文化祭の準備が佳境っていうのもあるけど、理由は恭介だ」

その言葉に瞳を見開く。

「特に、玲があんなことするから、もう気が気じゃなかったんだろう」

それって、最初の日のこと?

「玲、恭介に謝っただろう?それも巽が謝らせた。恭介が錯乱するほど怯えてる、お前のせいだと言って」

告げられた事実に、恭介は身体が震えた。

玲は確かに驚かせたことを謝ってくれた。それは、こういう意味だったんだ。俺、自分のことしか考えていなかった。

「で、何があったんだ。あいつは、言うつもりはなかったはずなのに」

恭介は、三年に絡まれた出来事をかいつまんで話した。そして、風見が告げたことも。

「こんなことが続くんじゃと言ったんだね。あいつは」

月嶋は、恭介の隣に腰を下ろした。

「今回、ミスに選ばれて山ほど言い寄られていると思うけど、身に危険があったことは?」

恭介は首を横に振った。確かに、告白もされたし、手紙は恐ろしいほどだったが、身に危険があったことはない。

「去年、玲がミスに選ばれていてね」

唐突に、月嶋はそう云った。

「そりゃあ、すごい騒ぎだった。あの顔だから、もう誰も彼も熱に浮かされたようになって、部屋に連れ込まれそうになったり、いきなり押し倒されたりね。玲はああ見えても結構、武術の心得なんかもあって、自分で全部撃退したり、できるだけ僕らが側にいたりした。巽はそれを思い出したんだろう。僕たちでできるだけ恭介が一人にならないようにしようと言いだして」

月嶋の言葉に恭介は、月嶋を見た。確かにここのところ3人の誰かが側にいる。

「ついでに、ヤバそうな連中も見張ってたな。玲とね」

その言葉の裏は、恭介に手を出そうとした連中は、その二人が黙らしたということだ。

「でも、いい加減に嫌になったんだろう。後を絶たないから」

「だからって」

「そうだね。でも、巽のモノになったら、誰も手出ししないだろうし、それに堂々と恭介を守れると思ったんじゃないかな」

俺を守る。風見さんが。

ますます、いたたまれない気持ちになる。そこまで思ってもらって、でも、俺に返すものはない。

「部屋もどる?戻っても恭介が嫌だと言えば、あいつは何もしないよ」

恭介は首を左右に振った。

風見さんは俺が拒めば何もしないだろう。それは信じられる。だけど、気持ちを知ってしまった以上、今までどおりなんか振る舞えない。意識したらかなり残酷な仕打ちになるだろう。

「月嶋さん。今日は俺を月嶋さんの部屋に泊めてもらえませんか」

恭介のすがるような申し出に月嶋は再び溜息をついた。

「いいけど、僕も一人だよ」

寮長だから一人部屋だろう。ベッドがあいているはずと思って頼んだ言葉だったのだから、それが何なんだろう。

困った顔をしている恭介を見て、月嶋は立ちあがった。

「それも、いいかもね」

意味不明なセリフをぽつりと漏らす。

つられて立ちあがった恭介は、月嶋の後に続いた。


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