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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
13/30

さらなる受難

今日は一日指さされては何かを噂されることが続いていた恭介は、大層機嫌が悪かった。

教室に居てもどこに居ても、あいつだろうとか言われるのが嫌で、恭介はさっさと生徒会室に逃げ込んだ。

さすがに12月に入り、文化祭まで1カ月をきったので、生徒会室も何かと慌ただしい。

しかし、昼休みは基本的に月嶋、風見、似鳥と恭介、羽賀がいるだけのことが多かった。

「早いな、恭介」

部屋に入るなり、月嶋が顔を上げて声を掛ける。

「もう、散々なんです」

かなりムッとした口調で応え、恭介にしては珍しく、乱暴な調子でソファに腰を下ろす。

「理由は、今日決まったあれかな」

月嶋の言葉につい月嶋を睨みつけてしまった。


登校してくると掲示板の前に人だかりができていた。

「なにあれ?」

「あ、いよいよ決まったか」

一緒に来ていた羽賀がそちらに足を向ける。

「ちょっと待ってよ」

恭介もそちらに向かい、人ごみの後ろから掲示板に貼ってある紙を見た。

『ミスポール学園選抜決定』

表題にはそうあった。

その下に名前が6つ書いてある。

「げっ、俺の名前」

恭介がそう叫んで、一歩退いた。

「あーあ、やっぱりな」

「これって何!」

「説明あっただろう。文化祭の最後のパーティーの時に、各学年2人ずつ選抜された奴が女装するって。男子校だけどミス決めってとこだな」

人ごとだからか、羽賀はやけに面白そうに言う。

「ずっと投票を受け付けてただろう」

確かに知っている。投票箱の設置も投票用紙を指定のサイズにカットしたのも俺たちだ。文化祭の行事は生徒会の仕事なんだから。

でも、まさか自分が関係があるなんて誰が思うか。

「俺じゃなくたって、もっと小さくて似合うやつはいるじゃないか。竹永とかさ」

「あいつも選ばれているよ」

「ほかは、まだ、いるだろう。なんで、おれ・・・」

愚痴ばかり口を衝いて出る。

「まあ、あきらめるんだな。お前って、実は結構人気あるのよ。知らなかっただろう」

知るか。

「ついでにお前相手もいないから、断れないからな」

聞き捨てならない羽賀のセリフに羽賀を見る。

「また、知らなかったのか。この日までにダンスパーティーの相手が決まっていれば、この役は免除なの。女の子の相手を女のカッコした奴がしてもしょうがないだろう。もともと女子がいないから始まった伝統なんだし」

「まじ。しらなかった・・」

それで、みんな相手探しに必死だったのか。いや、ただ単に彼女が欲しかっただけか。

なんだか無性に落ち込んでしまう恭介だった。


朝のことを思い出して、恭介はさらに落ち込んだ。

「月嶋さんは知ってたんですよね」

「何を?」

「相手がいれば、女装免除だって」

恨みますの目つきで語る恭介に月嶋は堪え切れずに笑いだした。

「相変わらず、恭介は迂闊だよ。情報はちゃんと収集しないとね。知らないっていうのは受け付けないって最初に教えただろう」

笑っても年相応にならずに大人っぽい月嶋にこんなときだというのにまたちょっと見惚れてしまい、恭介はどぎまぎする。

「でも、恭介かわいいから何着ても似合うよ」

横合いから茶々を入れるのは、玲だ。

「似鳥さん・・・」

「玲」

名前を言いなおされて、ぐっとつまる。最近、この人は下の名前を呼べと強制しているのだ。

「似鳥さんはどうなんですか、2年の・・」

「玲」

うーと顔に描いて、恭介は

「玲さんはどうなんです?」

と言いなおした。玲は、ちょっと不満そうに溜息を落としたが、一応それで今は良しとしたようだ。

「僕は選ばれてないよ」

玲の言葉に羽賀と顔を見合わせてしまう。

「玲は、このまんまでも女装しても変わらないからつまらないんだと。男装している麗人のようだと思われているらしいぜ」

目の前のソファでくつろいでいる風見が答える。

「これからが大変だな」

いきなり真面目な顔になり、恭介を見つめると風見が言った。

「何がですか?」

「恭介、もう少し、学校行事に身を入れてくれ」

月嶋がため息をつき、願うように言う。

「嫌だなあ。おれ、身を入れてやってますって」

「手伝いは助かっているよ。二人ともよくやってくれるし」

じゃあ、何のことだろうと思っていると

「ミスに選ばれると当日、エスコートする人を選ばないといけないんだよ」

恭介の隣に立って、玲がにっこり微笑んだ。天使のような笑みだが、悪魔のような言葉を聞いた気がする。

「なんで!!」

「女子が少ないから始まった伝統行事だって言ったよ。まあ、お祭りだからちょっと変わったことをっていうことなんだろうけど」

「これは投票で決まったわけだし、結局は人気のある奴が選ばれる。ということは、お前のもとには希望者が殺到するってことだ」

トドメの言葉を風見がさらりと述べて、恭介はそのまま机に突っ伏した。

「なんでおれ・・・」

情けない声しか出ない。

それで、今朝からあんなに騒がれてんのか、俺。

頭を抱えて、困った顔の恭介の頭上から、

「僕にしない、恭介」

隣に立つ玲が真剣な顔で言った。

「玲さん、な、何を」

顔を上げて玲を見ると視線が合う。真剣な顔で見つめて、玲はなおも言った。

「僕にすれば誰にも手出しさせないけど」

みんなが一瞬驚いた顔をし、沈黙がその場を支配する。

「玲、それはいいアイデアだ」

静けさを破ったのは、風見だ。

「恭、お前、俺ら3人のどれかにしとけば、誰にも手出しはされないぜ」

風見がさらりと怖いことを言う。

どれかって・・・。

「おれ、羽賀にします。羽賀、いいよな」

隣に座って、関係なさそうな顔してお茶をすすっていた羽賀は、恭介を見ると

「やだ」

ときっぱり否定した。

「なんで」

「おれ、相手居るから」

「い、いつの間に・・・」

さらに落ち込みに拍車がかかった恭介だった。

「確かに、いい考えだ。恭介も現実から逃げずによく考えてみるんだね。確かに僕たち3人から選べば、だれにも追いかけまわされずに済むのは間違いないよ」

月嶋までにトドメを刺されて、しばらく立ち直れないかもしれないと恭介は本気で思った。


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