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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
11/30

似鳥玲

木曜日の昼休み。

恭介は結局、あれから一回も生徒会室へは行かなかった。

「いいのか?」

羽賀の問いに首を横に振る。

「手伝いなんてなかったし、なんか揶揄われただけなんだ」

机に突っ伏して、恭介は愚痴る。

「でも、この時期の生徒会ってめちゃくちゃ忙しいって聞いたけど」

「誰にだよ」

「一年の役員。同じ部屋なんだ。寝る間も惜しんでなんかやってるぜ」

その羽賀を下から見上げる。

では、月嶋の言ったことも嘘ではないのだ。

それでも、行きたくない・・・。

恭介はまた、机に突っ伏した。

このまま係わりあいにならずに、ずっと普通に、静かに、平穏に学園生活を送りたい。

これが恭介の偽ざる本音だった。

ところが、それが実現するほど世の中甘くないのである。廊下がざわめき、その声が恭介たちにも届くころ、

「おーい、花山。似鳥さんが呼んでる」

教室の出入り口で、クラスメートに呼ばれた。

似鳥さん!

恭介は反射的に出入り口を見ると確かに、似鳥玲が立っており、教室と言わず廊下からも「似鳥さんだ・・」

「どうしたんだろう・・1年の教室なんかに・・」

「誰に用事だって・・」

などと囁く声が聞こえてくる。

このまま聞こえないふりして、ばっくれてしまいたい。

しかし、周りはそれを許してはくれず、席までクラスメートが呼びに来た。

これを無視することは結局できず、恭介は席を立ち出入り口へと向かう。

「やあ、恭介」

いつものように妖艶な表情で玲はにっこり挨拶した。

「どうも」

「話があるんだけど、ちょっと来てくれないかな」

「話ならここで伺いますけど」

二人きりにはなりたくなくて、恭介はかなり冷たい声音で応える。

「いいけど・・」

似鳥はここで言葉を切って、恭介に近づくと彼にだけ聞こえる声で、

「でも、周りじゅう聞き耳をたててるけど、いいの?」

と訊かれた。

確かに、周り中の生徒が遠巻きに興味津津といった風情でこちらを見ている。ざわざわと噂する声も聞こえる。

「どこへ行くんですか」

「ついてくればわかるよ」

そう云うと自分のペースですたすた似鳥は歩き出した。






向かった先は生徒会室だった。

確かにここなら似鳥玲が入って行ってもおかしくはないし、目立たない。

「入って」

促されて、先に部屋にはいると昼休みだというのに、誰もいなかった。

バタンと扉を閉められて、身体がびくりと震えた。どうしていいかわからず、そのまま入り口に立ちつくす。

そんな恭介に頓着せずに玲は恭介と向かい合うように立った。

この人も背は低くない。恭介と同じか少し高いかもしれない。かるく波打つ栗色の髪に、微妙に左右色の違う瞳。

あまりに整ったこの顔で見つめられると落ち着かないし、なんだか怖い。

「この間驚かせたのは悪かった」

その瞳にまっすぐ見つめられ、身動きもできない恭介に玲はいきなり告げる。

謝るところが違う気がする。

恭介は少しムッとした。

「揶揄ったことを謝るべきじゃないんですか」

相手が先輩だと思ってもあまりに不遜な態度に反発を覚え、そんなことを言っていた。

「揶揄った?恭介のこと揶揄ったことなんてないよ」

「じゃあ、あれは・・あれはなんだったんだ」

悪戯じゃないとしたら一体何だってあんなふるまいをしたのか恭介にはさっぱりわからない。

「口の端、舐めたこと?」

あっさり言われて、恭介の方が恥ずかしくなる。玲のことを睨みつけてそれでも頷く。

「揶揄ってない。あの時言ったとおりだよ。可愛かったから」

この人は一体何を言っているんだろう。

「好きなんだ、恭介のこと」

言われたことに恭介は完全に固まった。

「本気・・・」

「本気だよ」

玲は真剣な顔で応える。

「でも、似鳥さんとこれで会うの3回目で、俺のこと知らないでしょう」

「長く一緒にいなくても分かることはあるし、好きになることもある」

「でも、俺、男だし」

「人を好きになるのに、恭介は男女で差別するの」

瞳の中を見つめられ、どうしていいかわからない。

「そういう意味じゃないけど」

「良く知らないなら、これからずっと一緒に居ればいいし。僕は、恭介が好きなんであって、男とか女とか関係ないから」

きっぱりと宣言されて、身の置き所がない。これも揶揄っているのかとちらりと思うが、玲の視線はまっすぐで、どう見ても本気にしか見えない。

「恭介・・」

玲が手を恭介に伸ばすと恭介は後ろに後ずさった。

「もう、驚かさないから。じっとして」

そんなことを言われても困る。一歩一歩後ろに下がり、壁に背が当たる。

「恭介」

玲の顔がゆっくりと傾いで近づいてくる。

キスされる。

恭介は目を閉じると壁に背をつけたままその場にしゃがみこんだ。両手で口を押さえる。

「恭介」

名前を呼ばれて、ビクリと背が震える。

「急がないから、考えといて」

そのまま踵を返すと玲は生徒会室から出て行った。

俺にどうしろっていうんだよ。

恭介は両手で顔を覆った。


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