馬車の中で
お父様がお母様をエスコートして馬車に入る。続いてお兄様にエスコートされて私が馬車に入る。ソワソワしている母に話しかけられないようお兄様に必死に話題を振る。
『今日は、一段とたくさんの女性とお話になられていましたね。婚約者はできそうですか?』
「おちょくるの止めろよ。お前だって陛下にエイモン皇子紹介されてただろ。どーなんだよ。」ニタニタしながら聞いてくる。
お兄様ことレイド・リヴ・オナメルは、見た目と行動からは想像もできないほど出世欲が強く、それと同じくらい家紋を大切にする。だからか、先程私が陛下から嫌われているトイにエスコートされていたのが気に食わないのだろう。おそらく、トイと私の噂が流れ、皇帝から公爵家が見放されることを危惧しているのだろう。我が家は、皇帝の庇護がなければならないほど軟弱ではないのに。
『陛下に言った通りです。勉学に励みます。』「本心は?」『なしですね。側室の、平民との子ですよ?貴族の反感をかいます。まさに争いの火種ではないですか?それに万に一でも婚約破棄になったら困るでしょう?』するつもりなのかよと愚痴をこぼしつつ、私を探っているような兄。黙り込んでいる父。おそらくトイの話を聞きたくてしょうがない母。ここは、地獄なのか?
「お話は終わったかしら?母様、レニちゃんに聞きたいことがあるのだけど!」目を輝かせて聞いてくる母親に多少の煩わしさを感じつつ応える。
『トイナウト殿下のことでしょうか?』
「それ以外にある!?」いつも以上の食いつきを見せている母に呆れる。
『庭園で休んでいたところ、たまたま会った、たまたま意気投合して、たまたまエスコートしてもらいました。公爵令嬢がエスコートも無しに歩いているのは、よくないでしょう?』「適当に答えないの!だってあんなに自信なさそうだった殿下がレニちゃんエスコートしてるときは皇子様って感じだったもの。それに!レニちゃんの事、ニアって呼んでたでしょ!絶対に!なにか!あったんでしょ!」
「俺は反対だね。あの皇子こそレニーの言う争いの火種だろ。」不貞腐れたようにお兄様が言う。
「あら?レイちゃんもレニちゃんの結婚には反対派?私はまだまだ早いと思うの。もっと母様達といてほしいわ。あなたはどう思う?」とお父様に聞く母。そう言う事じゃないとでも言いたげな顔をしている兄。何を考えているのかわからない父。
流石、商人の家系ヴァロワ伯爵家の娘!流石、我が母!話を逸らすのがうまい。お母様こと、レイシア・リヴ・オナメルは、旧姓をヴァロワと言い世界一の大商団の娘である。ちなみにヴァロワ伯爵家より、ヴァロワ商団で名が通っていて、建国のときにはすでにあったほど昔からある商団だそうだ。商人の娘だからなのか、人の話を聞くのが好きで、会話も好きだ。
「レイシアと同じだ。結婚はまだ早い。陛下が下手に進めるようなら私から断っておこう。」お父様が言い、それに続けて、お母様も言う。「私は結婚より、レニちゃんに幸せになってほしいな。」
『私がトイナウト殿下と婚姻を結びたいと言ったら、許してくれますか?』
兄と父は、呆然としてる。やらかした。
「もちろんよ。母様は、あなたが幸せならそれでいいわ。あ、でもまだまだ早いと思うの。殿下は二つ上だし、、、せめて成人してからだと母様嬉しいな!なんて、、、」本当に可愛いな、コロコロ変わる表情、後半につれて、小さくなる声、少しトイに似てる。
『すみません。冗談です。ちょっと気になってしまって。それに結婚するなら、成人後、18歳がいいです。』
そのあとは、適当に話していたら眠ってしまい、気づいたら家に着いていた。