年始祭(1)
今日の為に用意した瞳と髪の色と同じ藍色と雪色で統一したドレスと装飾品。
大きく楽器の音がホールに響き渡る。「オルメタ夫妻並びにレイド公子様、レイニア公女のご入場」騎士がそう言って扉を開ける。ホールに入ると騎士団の方が「これより新たな門出を祝して、年始祭を開始する。」ホールに低い声が響く。
年始祭の幕が開けた。
パートナーがお兄様だからか周りの目が気になる。それもそうか。次期当主、容姿端麗、アカデミー主席卒業生、最年少近衛騎士、おまけに次期団長確定。これだけの肩書きがあれば誰だって言い寄りたくなる。そうこう考えているうちに、挨拶回りも終盤に、と言っても挨拶するのは、お父様の知り合い、お母様のご家族、お兄様のお友達だけで、他は寄ってくるだけだけど。
「ガデン・レイ・シナティス皇帝陛下並びにエイモン皇子、カリオペ皇女、トイナウト皇子のご入場」騎士が戸惑いながらも声を出している。いろいろと言いたいことがあるのは、私だけではないみたいでお兄様や他の貴族達もポカーンとしている。
まず、普通は年長順に発表するはずのところを側室の子であるお二方から紹介し、皇后様の子であるトイナウト様を後回しにしたというのに、さも当たり前のように、ホールを見回している皇帝陛下。いつものようにいらっしゃらない第二皇子、皇女の母イザベラ妃。皇后様。当のトイナウト殿下は、俯いているだけ。
この状況じゃ無理のないことだけど、噂はほんと見たいね。噂というのは、全皇后であるアヴェリン様の子であるトイナウト様のことを腹違いの弟妹や皇帝夫妻が嫌っているというものや、トイナウト殿下は陛下も手を焼くような暴君だというものだ。この噂は、陛下が普通は、第一皇子を連れていくような行事に、側室のしかも平民出身の母を持つエイモン皇子を連れて行ったり、公の場にトイナウト殿下を出さないことで信憑性を帯びてきているものだ。まぁ、トイナウト殿下の様子を見るに少なくとも、前者の噂は本当のようね。噂の真相なんてどうだっていい。
庭園に逃げずに大人しく陛下達を待っていたのは、天使の正体を突き止めるためよ。遠目じゃ分かりにくい。『お兄様、陛下に挨拶を、早く行きましょう』そう兄様を急かす。「待て、父上の話聞いてなかったのかよ。家族全員で、陛下達がお座りになってから、挨拶行くって言われてただろう」小声で必死になって伝えてくる兄を見て、今朝のことを思い出す。『そうでしたね』すっと表向きの『公女様』に戻る。陛下達がお座りになったらしくお父様達に呼ばれ挨拶に向かう。
「帝国の太陽、ガデン・レイ・シナティス皇帝陛下御一行に挨拶申し上げます。」「表をあげよ」そう言われ、ゆっくりと顔を上げた。そこには、使用人の立ち位置に立ち、俯いている天使がいた。あの日見たままの可愛らしくどこか儚げな少年。あまりの衝撃に思わず目を見開く。天使の容姿ではなく、立ち位置に。何度確認しても天使は哀しそうな顔で俯いている。幾ら陛下が天使を嫌っていても、こんな扱いはあんまりだ。
呆然と立ち尽くしていると陛下が「今日もカエラム公子は、欠席なのか。」「まだ幼いもので。建国祭には、参加させる予定です。」カエラム公子とは私達兄妹の末っ子でまだ公の場に出たことがなく、がなく、社交界では天使皇子よりレアで、3歳という喋ることのできる歳にもなり社交界に出さないのは、オルメタほどの大貴族では、珍しいことで、公爵家皆が溺愛しているのでは、という噂がたつほどだ。噂というか、事実だが、母様は、親バカなのでカエラム以外の家族も溺愛している。
「おぉ、噂には聞いていたが、久方ぶりに会うと人が違うように愛らしく育ったな」『まさか陛下に褒められるなど、光栄にございます。』「お主は、8つだったな、どうだうちのエイモンは」この人は何を言ってるのか。意味がわからない。私が、争いの火種になるであろう人と結婚?ふざけている。
第一私は、まだ8歳だ。結婚なんていつかはするとしても今は早すぎる。婚約破棄なんてことになって仕舞えば公爵家に傷がつく。うまくかわさないと。
『お言葉ですが、今は勉学に集中し、国を支えていきたいと考えておりまして、誠に僭越ながらお断りさせていただきます。』「ほう、勉学か。口が上手くなったな。それに比べ、トイナウト、お前はレイニアの2つ年上なのになの
にもできや、しないな。このままでは、国を任せられん。」なんて事言うの。天使が悲しむ。「申し訳ございません。もっと上手くできるよう、精進します。」相変わらず哀しそうな顔。何か言ってあげたいけど、私が口をだしたところでなにも、変えられない。
ごめんなさい、天使。ところで、天使は、俯いているから、私だと気づいてないのかしら。それとも忘れてる。ぐるぐる考えていると「失せろ、目障りだ。」陛下がそう言い放つとトイナウト様は、泣きそうな顔をし、エイモン様は、声を隠さず笑う。これが皇族だなんて、信じたくない。「申し訳ございません、陛下」そう言って天使は、とぼとぼ歩いて行った。




