第2話:スキル“スマホ”起動
王都から放り出され、人気のない林道をとぼとぼ歩いていたユウト。
手には、乾いたパンと水筒一つだけ。
(夜までにどこか宿を見つけないと……)
身体は疲れていたが、それ以上に心が擦り減っていた。
家族にも、国にも見捨てられた。
理由はただ一つ――“ゴミスキル”だったから。
「……“通話”って、何ができるんだよ……」
ふと、頭の中に声が響いた。
――《スキル起動条件達成。神明機器“スマホ”のロックを解除します》
「えっ!?」
驚きで立ち止まると、ユウトの前に光が集まり、形を成していく。
手元に現れたのは、見たこともない不思議な板状の物体。
それは、黒い光沢のある画面を持ち、自らの意思で浮かんでいるかのようだった。
「な、何これ……魔導具?いや、違う……」
画面にはこう表示されていた。
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《神明機器:スマホ》
――かつて神が世界に干渉するために用いた“神具”。
保有者:ユウト・ガリュード
使用者権限:制限解除中
主な機能:
・鑑定(対象のステータスを確認)
・翻訳(あらゆる言語を自動翻訳)
・召喚(※ポイント消費)
・編集(※ポイント消費)
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「……“鑑定”? でもそんなの、王国で数人しか使えないはずじゃ……!」
ユウトはおそるおそる近くの木をタップしてみた。
すると、画面にその木の情報が表示される。
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《対象:ツルシオの木》
分類:植物(広葉樹)
状態:健康
材質:硬め。弓や杖の材料として適正あり。
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「な……これ、“鑑定”だ……! しかも、超細かい……!
本来なら名前とか弱点ぐらいじゃなかったっけ、、」
理解が追いつかない。
けれど――たしかに、これは“ただの通話”じゃない。
“スマホ”という未知の神具が、ユウトのスキルの正体だったのだ。
「俺……とんでもないスキル、持ってるんじゃ……?」
ユウトの心に、わずかな希望の火が灯った。
そのとき、茂みの中から唸り声が聞こえた。
「……グルルル……!」
出てきたのは、狼のような魔物。
体長は2メートル、鋭い牙と爪を持ち、旅人を襲うことで知られる危険種。
「う、うそだろ……!? なんでいきなり魔物が――!」
恐怖で足がすくむユウト。
しかし、スマホが再び反応した。
――《戦闘アシスト起動:鑑定完了。フェングルの弱点は“視覚”および“音”》
「……!」
スマホが示した戦術を頼りに、ユウトは咄嗟に足元の小石を拾い、相手の目に向けて全力で投げた!
「当たれぇっ!!」
石は命中し、フェングルが目を押さえた瞬間、ユウトはその場から必死に逃げ出した。
なんとか森を抜け、斜面を転がるようにして脱出したユウトは、荒い息を吐いた。
「……助かった……“スマホ”が、助けてくれた……!」
追放された少年は、知らぬ間に“神明の力”を手にしていた。
それは――
世界の常識を塗り替える、最初の一歩だった。