9 夜月家訪問(2)
夜月家にDirectAimのメンバーが訪れ、一息ついたあと。
まずは、ソロ曲について決めようとみんなで机を囲む。
いつのまにか真桜から送られてきていたデータから、一曲ずつ流していくのを、全員が静かに聞いている。
どの曲もジャンルはバラバラで、かなり印象が異なった。
1曲目は、アイドルらしいポップス。
王道な明るいラブソングといえばいいだろうか。
2曲目は、打って変わってガチガチのラップ。
歌詞もかなり攻撃的で、早口のところも多い。
3曲目は、暗めのポップス。
病み系の歌詞で、不規則な音の動きをしている。
4曲目は、美しいバラード。
ピアノの旋律と歌がからみあい、切ない感情を表現している。
最後は、かわいくポップなEDM調。
繰り返しのメロディーが多く、音声加工を多様した曲だ。
「……バラバラ」
「見事にな。全く統一感がねぇ」
「で、どれがいい?それぞれ、これが合いそうだなってのは、ある気もするけど」
「えー、おれどれが誰がいいとか、全然わかんないよ?」
「俺もなんとなくの印象と偏見でしかないけど。そもそも適性とかじゃなくて好みで選んでいいだろうし」
「でも、僕も香奈太くんの分析を聞いてみたいかな」
高岡の言葉に他のメンバーも頷く。
なんとなく全員が聞く姿勢になってしまう。
一応、メンバーを知ってからの2週間で調べた経歴なども元に考えているので、分析と言われればそうなのだが、それらはあくまで他人から見たもの。
本人の認識とはかけ離れている可能性もあるので、あてになるかも分からないし、深く考えた訳でもない。
本当に、ほとんど香奈太の印象と偏見だと言ってもいい。
「いや、分析ってほどじゃないんだけど」
「別に絶対にお前の言う通りにするとは言ってないだろ。納得いかねえなら変えるし、あくまで参考にだよ」
「まあ、それなら。じゃあ、わかりやすいとこからいくと、ユメ」
「おれ?」
「ユメは最後の曲が合うんじゃないか。曲調もユメっぽいし、何よりダンスミュージックだからな。一番踊りやすそうだと思った」
「たしかに!」
ライブでやることは決定しているのだから、パフォーマンスもしっかり考慮しなければならない。
ユメほどのダンサーに踊らせないのは、もったいないというものだ。
「次は、澄令くん」
「おう」
「澄令くんは、2曲目。あ、ラップのやつね。澄令くんなら、あの速いのでも噛まずに歌えそうってのと、雰囲気にあうってのが理由」
「確かにあれは相当滑舌が良くないと大変そうかも。澄ちゃんなら、声優のトレーニングで早口言葉とかやってるもんね」
「早口言葉とラップを一緒にしていいのかはわかんねえけど、聞き取りやすい喋り方をってのは、そうだな」
香奈太もラップに関して詳しいわけではないので確かなことは言えないが、少なくともなかなかの滑舌が要求されるように感じたのだ。
その点、五十嵐の声は大変聞き取りやすく、すっと耳に入ってくる声なので向いていると考えた。
「次はシレくん」
「ん」
「シレくんは4曲目のバラード。この曲が一番感情表現が必要そうでしょ。シレくんの過去の演技とその感想とかちょっと調べたんだけど、感情の表し方が好きってのが結構あったから、なんか上手いことできそうっていう」
「……?」
柊が不思議そうな目を向けてくる。
そういうところだ、と香奈太は心のうちで呟く。
柊は普段口数が多い方ではないし表情も動きにくいのだが、瞳で如実に感情を伝えてくる時があるのだ。
ただ、それが歌唱に活かされるかはやってみないと分からない。
「あとは僕と香奈太くんだね。残ってるのはどっちもポップスだったよね?」
「ん、結弦くんは、1曲目の方。一番アイドルっぽいし、爽やかだから」
「僕だけ理由適当じゃない?」
「結弦くんモデルだから、あんま歌とか動きの情報なくて。完全に俺の偏見」
「なるほど」
キッパリ言い切った香奈太に、さすがの高岡も苦笑を浮かべた。
しかし、実際香奈太が持つ高岡の情報は少なく、レッスンも余り被らなかったため技術的な面は全く分からない。
結果、人柄みたいなところで判断するしかなかったのだ。
「じゃあ、かなちゃんがあの怖い感じの曲ってこと?」
「ああ、あれなんかボカロっぽかったから」
「妹の手伝いで歌い慣れてるって?」
「そういうこと」
歌ってみたというのはボーカロイドが歌っている曲を人が歌い直しているというのが多い。
そして、そういった曲は、本来人が歌うことを想定していないので、不規則で歌いにくい曲も多い。
必然ハモリも不規則になりがちなので、キサヨのバックコーラスをやる香奈太は、そういう曲にもある程度慣れていた。
「で、実際どうする?」
「おれカナちゃんが言ったやつがいい!思いっきり踊りたい!」
「まあ、全員香奈太が言ったやつでいいんじゃねえか?オレも特にどれがいいとかねえし」
「ん」
「そうだね」
「結局そうなるの?ただの素人の感想なんだけど。あと好みとかは?」
「ここにいるみんながアイドルとしては素人だしね。そんな僕たちで決めていいってプロデューサーが言ったんだから、いいんじゃない?好みに関しては、どれもいい曲だなと思っていたし」
「シレくんは?」
「……ぼくもとくにない」
にこりと笑う高岡とぼーっとしたままの柊。
どちらもあまり思考が読めない。
本人がいいと言っているのなら、良いのだろうとは思う。
どことなく違和感を覚えつつも、揉めないに越したことはないか、と話を進めることにした。
「ま、いいけど。じゃあ、ソロ曲の方はさっきので決定で。次は、メンバーカラーとグループカラーか。こんなのあるんだな」
「最近のグループは、決めてるところが多いと思うよ。グッズとか衣装とかにいれて応援しやすくしたり、字幕の色をそれにしてあまり知らない人でも分かりやすくしたりね」
「なるほど。まあ、こっちは、本当に自由に決めていいらしい」
香奈太がタブレットを取り出す。
そして開いたのは、お絵描きアプリ。
普段香奈太が服のデザイン案を描くのに使ってるアプリだ。
その中の色を選択する画面のうち、スペクトラムと書かれた場所を表示する。
「それで何すんの?」
「実際に色を見ながらの方がいいかと思って」
「たしかに!じゃあおれここら辺の色がいい!」
そう言ってユメが指したのは、中央の上方。
柔らかな黄色をした場所だ。
「あー、お前っぽいな」
「うん、明るくてユメくんにピッタリだね」
「じゃあユメはこの色で。黄色な。細かく言うならライムイエローが一番近いか」
「……ライム?」
「そう、果物を指す場合もあるし、西洋シナノキって言う木を指す時もある」
「西洋シナノキって?」
「たしか、西洋菩提樹って言うこともあって、夏の初めに咲く花は匂いがいいからハーブとして使えるっていう木。中世ヨーロッパには自由の象徴とされてたんだったかな」
「へー、よく知ってるね」
「昔、色彩のセンス磨くために色々調べたんだよ」
服のデザインや着合わせを考える時、色というのはとても大事な要素である。
香奈太はそのセンスを磨くために、世界の伝統色などを調べた。
その時に、色が持つ意味もファッションに組み込めないかと、名前の由来なども調べたのだ。
「なんか、かっこいいね!」
「オレらのも同じ感じでいくか。シンプルな色に当てはめずに、良いと思った色をできるだけそのまま表すようにするっつう」
「確かに、そうすればより印象的かもね」
「じゃ、香奈太、よろしく」
「俺も全部覚えてる訳じゃないんだけど……」
なんだかんだ言いながらも、残りのメンバーが希望する色を決めていく。
時々ネットを使って調べたり、全体のバランスを見ながら、全員分のメンバーカラーが決まった。
グループカラー:ガンメタルグレー
ユメ:ライムイエロー
五十嵐:バーントオレンジ
高岡:オパールグリーン
柊:スノウホワイト
香奈太:ウィスタリア
この度は作品を呼んで頂きありがとうございます。
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