8 夜月家訪問
「お邪魔しまーす!うわー!カナちゃんち懐かしい!」
「「お邪魔します」」
「……おじゃまします」
はしゃぐユメに、礼儀正しく挨拶をする高岡と五十嵐。
柊も遅れて挨拶を口にする。
香奈太は何も言わずに、スタスタと廊下を歩いていってしまう。
それらの音が聞こえたのか、廊下の扉が開いて1人の男が出てきた。
「あ、父さん、ただいま」
「おかえり、かなくん。それにみんなも、いらっしゃい」
香奈太の父・徹がまだ玄関にいる4人を見て歓迎の笑みを浮かべた。
今、DirectAimのメンバーは全員で香奈太の家に来ている。
こうなった理由は、数十分前に遡る。
***
初ミーティングが終わったあと、香奈太たちは話し合いをする場所に悩んでいた。
「事務所の部屋は空いてねえよな」
「個室は基本的に予約制だからね」
「ファミレスかカラオケはダメなの?」
「俺はともかく、ユメや先輩たちは周りに騒がれるんじゃないか?まだDiAのこと話せないから、なんで一緒にいるのか訊かれたら困るし」
「……芸能人に囲まれてる謎の人物、カナタ」
「やめてください。絶対いやですよ」
ぼそっと恐ろしいことを言わないで欲しい。
容易に想像出来るところが特に嫌だ。
幸い、発表前のことを公共の場で話せるはずもなかったので、その案はなくなった。
しかし、そうなると本当に話し合いをできる場所がない。
5人が集まれて、素顔を見せても騒がれず、話も聞かれない場所。
「あ」
「ん?夜月くん、どこか思いついた?」
「そうですね。皆さんてこの後の予定って、どれくらい空いてるんですか?」
「僕は今日はもう何も無いよ」
「オレもねえな」
「おれも暇だよ?」
「……ぼくも」
「じゃあ、ちょっと歩くことになるけど、いいですかね?」
「いいけど、どこなんだよ」
「俺ん家です」
というわけで、全員で歩いて香奈太の家に来たのである。
今は、とりあえずメンバーをリビングに通して、お茶を出しているところだった。
「なるほど、それで話し合いをしに家に来たんだね。じゃあ、僕も居ない方がいいかな」
「あ、いいよ。俺の部屋でやるし」
「かなくんの部屋、今、人入れれる状態だっけ?」
「……あ」
入学式までの間、ろくに宿題がないことをいいことに、服を作ることに没頭していた香奈太。
なんなら入学式当日も徹夜して遅刻しかけていた。
その後は、レッスン漬けの日々。
部屋がどんな惨状になっているかは、推して知るべしだ。
「大丈夫。どうせ僕も仕事が入ってるから、それをやるつもりだったしね」
「咲は?」
「午前中いっぱいは部屋に籠るんじゃないかな。録り溜めるって言ってたから」
「ならいっか」
香奈太が納得すると、徹はごゆっくりと言って、部屋から出ていった。
その様子を眺めていたユメが口を開く。
「カナちゃんのお父さんってなんの仕事してる人なの?」
「なんか、音楽のMIXとか音作ったりとかそういうの」
「録り溜める、と言っていたのは?」
「妹が小5なんですけど、歌い手やってるんですよ」
会話に加わってきた高岡にそう返す。
咲は1年ほど前からALLMOVEに歌ってみたと言われる動画をあげている。
歌ってみたとは、様々な曲を自分の声でカバーしたものである。
夜月家には防音室があり、そこに籠って収録をしているはずなので、こちらの話が聞こえる心配はない。
そう説明をしていると、何かを考えていた五十嵐が香奈太を見た。
「……なあ、お前の妹の活動名、キサヨだったりする?」
「え、そうですけど」
「やっぱり」
一人納得している五十嵐。
他の4人は、突然の発言に不思議そうにしている。
香奈太にいたっては、会ってすらいないのになぜ、と恐怖さえ感じていた。
「澄ちゃん、知ってるの?」
「ああ、前なんかの時に流れてきて、声の幼さに似合わず上手かったから印象に残ってた」
「いや、でも、なんで、五十嵐先輩はそれが妹と結びついたんですか?」
「前から、香奈太の歌声聞くたんびに、なんか聞き覚えがあると思ってたんだよ。キサヨのコーラスで時々入ってる男声、お前だろ」
「そうですけど。え、そんな特定の仕方あります?ハモリしか歌ってないし、MIXで多少声変わってるのに」
「まあ、それが澄ちゃんの特技だからねぇ。それにしても、夜月くんは歌も上手なんだね」
ドン引きしている香奈太に高岡がのほほんと言う。
そういえば、前も同じことがあったような。
初対面の時も入学式で聞いた声で特定したと言っていた気がする。
いくら声を仕事にしていると言っても、耳が良すぎるだろう。
しかし、この歳で売れる者とは、そういうものなのかもしれない。
もう香奈太は考えるのをやめた。
「まあ、わかりました。もう妹のことはいいので、話し合いを始めましょう」
「ああ、でもその前にいっこ。お前その敬語やめろ。呼び方ももっとラフでいい」
「はあ」
「お前がリーダーだろ?メンバーとの間に距離があんのはよくない。あと、プロデューサーにはタメなのに、俺らには敬語で話されると変な感じがする」
五十嵐の言葉に納得する。
たとえ5人の中で最も経験が浅いとしても、立場としてはリーダーなのだ。
堂々としてないといけない。
真桜に関しては、香奈太にとってはプロデューサーより母親という意識がどうしても高くなるので、しょうがない。
「じゃあ澄令くんで。お二人も下の名前で呼んでもいいですか?」
「もちろんだよ。僕も香奈太くんって呼ばさせて貰うね」
「ん」
「ありがとう、結弦くん、玲くん」
残りの年上2人にも聞くと、快く頷いてくれた。
「ま、そもそもそういうの気にしないから、夢叶と玲もタメでいいからな」
「僕も、気楽に話してくれると嬉しいな」
「はーい!おれ敬語って苦手だから、遠慮なく!」
「……わかった」
グループ内は全員敬語を使わないということで落ち着いた。
これから共に過ごす時間も増えるので、最初に壁をひとつ壊してくれた五十嵐に感謝だ。
「じゃあ、リスト通りに色々決めてこうか」
香奈太が真桜から貰ったリストを取り出した。
全員でそれを覗き込む。
「えーっと、メンバーカラー、プロフィール、あとソロ曲?」
「あ、 時間足りないと思ってたけど、そうやるんだ〜」
「何が?」
「普通ね、アイドルグループのソロって、本人を表すような曲調だったり、歌詞だったりを作曲家さんと話し合いながら作ってもらうんだって。でも、それってすごい時間も手間もかかるから、ある程度人気がでないと作って貰えないらしいよ。だから、最初っからソロ曲貰えるとは思ってなかったし、今からで間に合うのかなーって思ってたんだ」
ユメはアイドルのバックダンサーをやっていたことがあるらしく、その時に色々聞いたらしい。
だから、真桜がソロ曲の話をした時に驚いていたのだ。
だが、今回香奈太たちがやるのはユメの知るやり方ではない。
真桜から貰った説明によると、既にソロ用の曲は出来上がっている。
しかし、誰がどれを歌うかは決まっていない。
用意された曲の中から、歌いたいものを自分で選べということらしい。
「特殊なやり方とはいえ、それだけ期待値が高いってことかね。ま、貰えるもんは貰っときゃいいだろ」
「澄ちゃんのいう通りだね。折角頂いた曲を大事に歌おう」
「ねえ、おれ曲聴きたーい!」
「じゃあ、最初にソロに関して決めるか。全曲一通り聴いて、そっからどれがいいか選ぶのでいいか?」
「うん!」
この度は作品を呼んで頂きありがとうございます。
何かしら反応を貰えると、作者が喜びやる気が出ます(*^^*)




