6 初ミーティング
「どう?そろそろ今の生活にも慣れたかしら?」
「まあね」
初レッスンから2週間、香奈太はほぼ毎日なんかしらのレッスンを受けに放課後は事務所に通っていた。
ダンスは以前習っていたおかげでスムーズに進んだが、他にもボイストレーニングやトークレッスン、さらにはコンプライアンスに関する授業まで設けられている。
これは香奈太が芸能人初心者であり、芸能科に通っていないからこそつけられたものだ。
芸能科だとコンプライアンスについての授業はカリキュラムに組み込まれている。
「なによ、その気の抜けた返事は。聞いたわよ、夢叶と学校でも仲良くしてるらしいじゃない」
「あいつ、普通科の教室まで突撃してきたんだよ。おかげでクラスの奴らから質問攻めになって大変だった」
「あ〜、夢叶はその辺気にしなさそうね」
ちなみに夢叶というのは、ユメのことである。
ユメはダンサーネームで、本名は中谷夢叶と言う。
普通科の教室に芸能科の生徒が訪ねてくることなど滅多にない。
しかし、夢叶は事務所で再開した翌日、すぐさま香奈太の教室にやってきた。
しかも、その後も数日に1回は昼放課に来て一緒にご飯を食べていく。
いつの間にかクラスメイトとも仲良くなり、今では普通に受け入れられていた。
なんなら、陰キャムーブをかましている香奈太よりクラスに溶け込んでいるまである。
「レッスンの方はどう?ついていけそう?」
「まあ、大丈夫なんじゃない?でも、忙しすぎて服を作る時間がまったく足りない。特に用事ないからってスケジュール全部○で出したのは俺だけど。まさか、全部に予定入れられるとは思わなかった」
この2週間、香奈太の服を作る時間は急激に減っていた。
家に帰ったら速攻で制作することで、なんとか以前依頼された分は消化したが。
デザインは隙間時間に書き溜めているが、それだけでは香奈太の創作欲求は満たせなかった。
新たな出会いが多く、刺激を受けてアイデアは増えるため、作りたい欲が増える一方なのである。
「はあ!?まさか香奈太、先週オフなかったとか言わないわよね?」
「え?母さんと事務所で契約してから、1日も休みないけど」
「普通にアウトじゃない!マネージャーは何してるの?」
「いや、マネージャー会ったことないし。つか、いたんだ」
それを聞いた瞬間、真桜の動きが止まった。
荷物を持って降りる準備をしていた香奈太も、不思議に思って手を止める。
ちなみに、今2人がいるのはフライトプロダクションの地下駐車場。
学校も休みの今日は、朝からDirectAimのミーティングがあったので、香奈太は真桜の通勤用の車に同乗してきたのだ。
「……マネージャーを、知ら、ない?」
「うん」
「なん、いや、うぁー!そういうことか。香奈太ごめん、わたしのせいね。そりゃ存在を知らない人に会おうとはしないわよね」
「ふーん、マネージャーいたんだ」
「ええ、うちの事務所では、レッスンを含めたタレントのスケジュール管理や移動経路の確認とかをマネージャーに任せてるの。DirectAim専属のマネージャーが二人いるわ」
これ以上ゆっくりしているとミーティングに遅れそうなため、車から降り、歩きながら話す。
駐車場は事務所の地下にあるため、エレベーターに乗って目的の階まで上がる。
「へー、え、仕事多くない?」
「そんなことないわよ。グループ内でマネージャーが何人もいる方が面倒くさいの。これまでほかのメンバーは個人でついてたマネージャーがいたんだけど、他のタレントのマネと兼任だったから引き継いでもらったわ。デビュー前の5人グループに着く人数としては多いぐらいなんだけど、DirectAimはメンバーがメンバーだからね」
などと話しているうちに、会議室に着いた。
1つノックをして、そのまま中に入る。
中には6人の人がいて、そのうち見覚えのない2人がマネージャーだろう。
とりあえず会釈だけして、席に着く。
「皆さん、おはようございます。全員が揃うのはこれが初めてね。一応自己紹介をしましょうか。
私は神崎真桜。DirectAimのプロデュースを担当するわ。楽曲制作や、振り付けの依頼、グッズ販売からメディア露出まで、グループの総合的な決定は最終的に私がすることになるの。
といってもあなた達の意思を無視するつもりは無いから、気軽に相談してちょうだい」
全員が揃っていることを確認して、真桜の一言でミーティングが始まった。
「はい、じゃあ次、智和さんよろしく」
「あ、僕ですか?DirectAimの専属マネージャーをやらせてもらう林智和と言います。よろしくお願いします。
主にグループ全体の管理と、夜月さん、ユメくんのマネジメントを担当します。次、和佳奈」
「はい!林和佳奈です!私はDirectAimのサブマネージャーですね。
智和さんのサポートと高岡くん、五十嵐くん、柊くんのマネジメントが担当です。
あ、智和さんとは夫婦なので名字が一緒なんです。なので、気軽に下の名前で呼んでくださいね」
真桜の声掛けで時計回りに自己紹介が進む。
その自己紹介のおかげで、香奈太はようやくマネージャーの顔と名前を知ることができた。
智和は、優しそうな雰囲気の男性で、ひょろっとしていてかなり背が高い。
メンバーの中ではモデルの高岡が最も背が高いが、それとあまり変わらないくらいといえば分かりやすいか。
反対に、和佳奈はとても小柄な元気溌剌と言った感じの女性だ。
智和と並ぶと30センチぐらい身長差があるように思える。
そんな凸凹夫婦がDirectAimを支えるマネージャーらしい。
「じゃ、次メンバー、シレからよろしく」
「……梓玲です。俳優です。……あ、芸名は柊シレだけど、どっちでも通じるから好きな方で呼んでいいよ」
「良くないわよ。一応表に出る時は、柊シレでお願いね」
柊は香奈太が最後に出会ったメンバーだ。
茶髪の猫っ毛、垂れ目、甘い顔立ち。
ふわふわとした見た目をしているが、あまり表情が動かず、喋り方も静かなため、何を考えているかが分かりにくい。
元子役で、ここ数年で俳優としての仕事をし始めたため、メンバーの中で芸歴が一番長い。
しかし、この人、ガードがゆるっゆるなのだ。
芸名を使っているのに本名がバレていたり、街中を変装をせずに歩いて囲まれたり。
マネージャーが大変そうだな、と思う。
今後、リーダーである自分も柊に振り回されることになるのだが、この時の香奈太は全く気づいていなかった。
「んじゃ、次オレな。五十嵐澄令、声優。名前は芸名とかじゃなくて本名だから好きに呼べ」
「もう、澄ちゃんはただでさえガラが悪いんだから、ちょっとは愛想良くしなきゃダメだよ」
「うるせぇ。これからグループとしてやってくのに、取り繕うだけ無駄だろ」
「まあ、そうだけど。あ、僕は高岡結弦。僕も本名だよ。普段はモデルの仕事を主にやらせてもらってるかな」
香奈太をアイドルにスカウトした幼馴染コンビが後に続く。
高岡が言った通り五十嵐はガラが悪い。
顔立ちは男前で整ってるし、鍛えてるのか体格も良いが、どうにも不良感がぬぐえなかった。
ただ、そのいかにも悪い男、という雰囲気が好きな女性は多いだろう。
一方で、高岡は正統派の王子様という感じだ。
モデルらしく常に姿勢が良く、物腰も柔らか。
爽やかな笑顔で歌って踊る様子はさぞ映えるだろう。
「はーい、ダンサーのユメでーす!本名は中谷夢叶!よろしくお願いしまーす!」
元気良く挨拶したユメ。
ニコニコの笑顔に童顔なことも相まって、ユメは幼く見られることが多い。
本人はあまり気にしていないので、むしろそれを武器に色んな人の懐に入り込むコミュ強になっている。
しかし、ダンスの時は曲に合わせて色んな表情を見せるので、デビューしたらそのギャップにやられる人も多そうだ。
「じゃあ最後に、カナちゃんどうぞ!」
「ああ。夜月香奈太です。リーダーをやることになってます。よろしくお願いします」
ユメに勢いよく振られたが、香奈太はそれにノることはせず淡々と挨拶をし、軽く頭を下げる。
髪の毛が垂れてきたので、耳にかけながら真桜に視線を向けた。
ちなみに今日は学校ではないので、香奈太はしっかりファッションを楽しんでいたりする。
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