2 始まりの日(2)
本日2話目ですʔ•̫͡•ʔ
「ええー、ちょっとくらいいいじゃん。うちらが奢るしさ」
「いえ、待ち合わせしてるので」
「じゃあ、ここが見える場所なら良くない?」
いつものように、香奈太が広場の中心を眺めながらデザインを考えていた時。
ふと聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げると、案の定からまれていたのは、在校生代表挨拶をしていた、高岡結弦だった。
有名人は大変だな、と関係ないとスルーしようとする。
だが、高岡に声をかけている女子の服が目に入り、その考えを改めた。
タブレットを手に抱えたまま高岡たちに近付く。
「ねえ、お姉さんたち、ちょっといい?」
「え、なに、待ち合わせ相手?こっちもイケメンすぎない?」
「ありがとう。でも、俺が用があるのはお姉さんたち。そっちのお姉さんが着てる服さ、スカートも上着も靴も、HighClothesのだよね。なんでトップスだけFlowers なのかが気になって」
HighClothesもFlowers もファッションブランドの名前だ。
名前の通り少しお高めで、シックな雰囲気なのがHighClothes。
一方、Flowers は大人可愛くがテーマのブランド。
全身のほとんどを同じブランドで固めながら、トップスだけ違うブランドのものなのが気になったのだ。
「すごい、よく気がついたね。うちHighClothes大好きなんだけど、なんとなく今日のやつにあう上のがなくて。ブランド揃えるために合わないやつ選ぶよりいっかなーって思ったんだけど、変?」
「いや、 HighClothesってどうしても高級志向に寄りがちで硬いイメージになりやすいけど、トップスのおかげで春っぽさが出てていいと思う。お姉さんの髪色にもあってるし。このふたつのブランドを組み合わせる発想がなかったから、意外だっただけ。すごい良いと思うけど」
「めっちゃ褒めてくれるじゃん、うれしー。ファッション好きなの?」
「うん、自分で作ったりもしてる」
これ、と言ってタブレットに書いたスケッチを見せる。
どうやら、この女子二人もかなりファッションに気をつけてるようで、話が盛り上がる。
今の季節ならこういうのがいい、今年の流行ならこれ、などと香奈太がこれまでためてきたデザイン案を見ながら話す。
「いいなー、この服欲しい!」
「一応、作った服オンラインで売ってる。お姉さんが欲しいなら、これ作って売りに出そうか?多分一週間とかで作れる」
「マジで!?どのサイト!?」
「これだけど……」
流れるように自分の営業に入った香奈太を気にも止めず、二人とも食い気味に尋ねる。
香奈太が使っているのは、自分が作ったものや中古品を売れるサイト"ラクバイ"。
二人に教えると、すぐにアカウントを作ってフォローしてくれた。
香奈太もフォローを返して完了。
さらに、それぞれが欲しいと言った服に合いそうなブランドなどをあげていく。
「マジでためになる。ちょっと気になりすぎるから、今から買いに行こ。ありがとね」
「いや、こちらこそ。なんか作って欲しいものあったら、気軽にDMして。値段は応相談だけど、市販よりは安いと思うから」
興奮しながら去っていく二人を、緩く手を振って見送る香奈太。
まだ時間があるし、またスケッチするか、とベンチに戻ろうとしたとき、不意に声をかけられた。
「ありがとう、助かったよ」
「え?……あぁ、いや、本当にあの人たちと話したかっただけなんで」
急なお礼にきょとんとする。
すっかり高岡の存在を忘れていた。
実際、香奈太に高岡を助ける意図は一切なかった。
先程の女子の格好を見て、ファッションに興味がありそうだと思ったから近付いたのだ。
ファッション好きな人との会話はいい刺激になるし、今日のようにお客さんを増やすきっかけになることもある。
服を作るのにもお金がかかるので、香奈太は万年金欠ぎみなのだ。
「そっか、それでも助かったから。ありがとう、夜月くん。何か、お礼になるものあったかな……」
「いや、そんなって、え?なんで俺の名前知って……」
「ん?新入生の挨拶してた子だよね?夜月香奈太くん」
微笑みを浮かべて首を傾げる高岡に、目を見開く。
あんな挨拶、真面目に聞いてる人がいたのか。
それ以前に、香奈太の見た目は学校の時とまったく違う。
ボサボサで顔の大半を隠していた髪は綺麗に結っているし、うっすら化粧もしている。
見慣れている家族ならまだしも、初めて会った話したこともない人が、同一人物だと見抜いてくるとは思わなかった。
「そ、そうです。あの、お礼とか別にいいんで――」
「結弦わりぃ、遅れた。あ?誰?こいつ」
なんとなく恐怖を覚えて、すぐに立ち去ろうとすると、別の人物が現れた。
美人系である高岡とは違う方向性のイケメンだ。
なにより声がいい。
たったー言だけで背筋がゾワッとした。
同じ男でもクラっと来そうな、頭を揺さぶるような声。
だが、声の主の姿を認識した瞬間、全てがどうでもよくなった。
「この子は――」
「ダッッッッサ!!!!!」
「……あ"?」
「……え?」
「え、なんでその服合わせようと思ったの。色合いからして合わないの明らかじゃん。それぞれはすげぇ良い服なのに、完っ全に殺されてるし。夏用の服の上に冬用の上着を着るってなにごとだよ。今、春なんだけど?それで間とったつもりなの?もはや服に失礼」
ありえない。
もう、顔がいいとか声がいいとかどうでも良くなるレベルでありえない。
その服のデザイナーとブランドに謝って欲しい。
怒涛の勢いで香奈太がつっこむと、高岡が思わずといった様子で吹き出した。
「あはは、たしかに澄ちゃん、そういうセンス壊滅的だもんね」
「てめぇ、好き勝手言いやがって。お前の今日の見た目も大概だっただろ!」
「は?俺のどこがダサイって?」
今日来ている服は、自分で作ったものだが、ちゃんと全体のバランスに気をつけて選んでいる。
ラフではあるが、手は抜いていない。
「ちげえよ、今じゃなくて、入学式の時の。よくあの状態で人前に出れんなって逆に感心したぜ」
「……は、もしかして光崎の人?」
というか、またバレた。
これまで、クラスメイトすらバレたこと無かったのだが。
さすがに気になるのでもう直接聞くことにした。
「……なんで俺ってわかったんですか?」
「声」
「僕は姿勢かな」
「あー、結弦の場合はそっちか。すげえな」
「いや、僕からすると声聞き分けられる澄ちゃんの方がすごいと思うよ。夜月くんは特に姿勢が綺麗だったから覚えてただけだし」
「ふーん、こいつお前から見ても姿勢いいんだ」
「うん、かなり整ってるね」
2人の間では何かわかり合っているようだが、香奈太にはにわかには信じがたかった。
普通他人の声や姿勢など覚えていないし、見分けられない。
見分けられたとしても、顔の印象というのは大きいもので、勘違いだったと思うのが普通なのだ。
だが、そんな香奈太の動揺を他所にどうやら先輩らしい男が、香奈太をジロジロ眺めてくる。
頭からつま先までじっくり観察した後、おもむろに高岡の方を見る。
「こいつにやらせようぜ、あれ」
「え?でも一般人だよ?」
「オレらだって最初は一般人だっただろ。こいつならポテンシャルは充分ありそうだし」
「うーん、まあたしかに」
また、置いてかれたまま意味のわからない会話が続く。
そろそろ離れていいだろうか。
この2人も、何か用事があって待ち合わせていたのではなかったのか。
「あー、お前、名前なんだっけ?」
「夜月香奈太くんだよ」
「じゃあ、香奈太。お前、アルバイトする気ない?頑張り次第では、かなり稼げるぞ」
「なんですか、その怪しすぎる誘い文句。そんなこと言われても――」
「色んな服を見れるよ」
「!」
先程の女子たちの会話から、香奈太が服が好きであることを知っている高岡の言葉に、香奈太が分かりやすく反応する。
その様子から何かを察した男が、さらに付け加えていく。
「そうだな、色んな服を見れるし、着られる。どうだ?」
「………………話を聞くだけなら」
((チョロい))
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