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DirectAim  作者: うぇざー
16/18

16 ボイトレの先生

遅くなりましてすみません

しかも、ちょっと短めです

 キーボードがひとつ置かれている以外何も無い、鏡張りの防音室に香奈太と高岡はいた。


「それで、プロデューサーは知っていたのかい?」

「いや、母さんも予想外だったらしい。これまで、バラエティーとかにも出たことなくて、演技をせずにカメラに写ったことがなかったみたいだな。俺の話で初めて知ったっつってた」


 ボーカルレッスンが始まる前、二人は先日発覚した柊の驚きの症状について話していた。

 ダンスレッスン中、急にキャラ変した柊。

 全員で検証した結果、その原因がカメラであることがわかった。

 柊は、カメラに撮られていると、無意識に演じた役が入ってしまうようなのだ。


「役が憑依する、みたいなことは聞いたことがあるけど、まさか自分でコントロールできないとは思わなかったよ」

「そうだな。だけど、どうにかカメラが回ってても、普段通りでいられるようになってもらわないと困る」


 カメラが原因だと判明した後、意識すれば演技をしないことも可能だろうと試したのだが、何故か柊はそれが出来なかった。

 しかも演技中は思考回路まで役に入っているのか、演技をしているという自覚がないときた。

 何故それで会話や記憶に齟齬がないのか。


「俳優のシレくんを応援してた人たちにも、演技をしていないシレくんが気になってる人は多いだろうしね。シナリオのない現実で演技をしているというのは、少し印象が良くない」

「いつも番宣してるように見えるだろうな。せめて常に同じキャラなら演技だと思われないんだけど。どっちにしろ、まだわからなことが多すぎる」


 柊が先日無意識に役が入っていた時は、ずっと同じキャラクターが入っていた。

 ただし、現在撮影中のドラマの役だ。

 これは、そのドラマの撮影が終わったり、他の撮影が始まった時に、違う役が入るようになる可能性が高い。

 そうなると演技であることを隠せない。

 また、香奈太は雰囲気がガラッと変わることで似合うファッションが変わることも懸念していた。

 症状を改善するか、せめてもう少し理解できるまで、柊の衣装を作るのは遅らせるべきだろう。

 頭の中で今後の予定を確認していると、扉が開いて1人の女が部屋に入ってきた。

 それを見て、高岡と香奈太も立ち上がる。


「瀬戸先生、こんにちは」

「こんにちは」

「高岡さん、朝陽さん、こんにちは。準備は出来ているかしら?では、まずは発声練習から始めましょう」


 高岡が瀬戸先生と呼んだのはDirectAimのボーカルレッスンを引き受けてくれている、トレーナーの一人だ。

 にっこりと笑った瀬戸が、キーボードの前に座り鍵盤にそっと手を下ろした。

 言葉を変えながら音階を上がったり下がったりする、よくある発声練習を瀬戸が弾くのに合わせて歌っていく。


「さて、今日はせっかくですので、お二人で歌うパートの練習をしましょう」


 デビュー曲の中には何ヶ所か、二人で歌うパートがある。

 実はこれ、急遽香奈太がグループに入ることになり一人当たりの歌唱パートが短くなったため、増やされたという経緯があったりする。

 しっかり二つのメロディーに分かれるので初心者には少し難しいかもしれないが、そこは妹の手伝いで歌い慣れている香奈太と、声優のトレーニングの一環で歌の練習もしてきたという五十嵐がハモリのパートを担当することでカバーすることになった。

 歌うパートはいくつかあるが、そのうちの一つを高岡と香奈太の2人で歌うのだ。


「高岡さんはこの音、朝陽さんはこの音から」


 瀬戸が一音づつそれぞれのパートの最初の音を鳴らす。

 脳内で曲の前からの流れを思い出し、最初の音とすり合わせる。


(ん?)


 なんとなく違和感を感じたが、それが何か分からない。


「歌詞は大丈夫ですね。では、いきますよ。1、2、3、ハイ」


 何が引っかかったのか考えようとしたが、瀬戸が手拍子を始めて合図を出してしまった。

 一旦思考を止め、キーボードの音を思い浮かべながら、ブレスをして歌い出しに備える。

 そして歌い始めた一音目、本来綺麗なハーモニーとなるはずの二人の歌声は、絶妙に気持ちの悪い和音となって部屋に響いた。

 自分の音が間違っていることに気づいた香奈太が慌てて修正しようとするが、高岡も香奈太に釣られて正しい音程からどんどんずれていってしまう。

 それでも瀬戸が手拍子を止めないため、そのままパートの最後まで歌い切った。


「ごめん、間違えた」

「ううん、僕も途中からわかんなくなっちゃったから」

「いえ、高岡さんはつられてしまっただけでしょう。朝陽さんは、最初の音から違いましたよ。気をつけてくださいね」


 にっこり笑いながら瀬戸が優しく注意する。

 香奈太も自分が先に間違えたのは分かっていたので、素直に頷いた。


「はい。もう一度最初の音を弾いてもらってもいいですか?」

「もちろんですよ」


 ポーンと瀬戸が弾いた音をもう一度覚えた。

 また、頭の中で前のパートからの流れを繋げ、記憶と比較する。

 またも感じる違和感にちらりと瀬戸を見るが、特にこちらを気にしてる様子はない。

 ひとまず記憶に集中したまま瀬戸の手拍子に合わせて歌うと、今度は二人とも正しく最後まで歌いきることが出来た。


「……はい、一旦音程はいいでしょう。次は細かいところを見ていきますよ。まず、二人とも、まだブレスが浅いですね。もっとしっかりお腹を使って出すよう意識しましょう」


 瀬戸のお手本に習って、へその下あたり、所謂丹田と呼ばれる場所に手を当てて、発声の練習をする。

 どこを使ってどう響かせるのか。

 止まってできないことが、踊りながらできるわけもない、としっかり基礎を叩き込まれる。

 他にも、基本的な歌い方のコツや、毎日やるべきトレーニングなどを教わって、その日のレッスンは終わりになった。


「高岡さんはモデルをやられているだけあって、姿勢も良いですし、段々と身体の中を意識できてきていますね。その調子で続けてください」

「わかりました。ありがとうございます」

「朝陽さんも身体はしっかりしていて良いのですが、色々なところでおかしな癖がついてしまってますね。たしか、ネットに動画を上げているとか?」


 若干硬くなった声音に内心で首を傾げる。

 妹が歌い手で自分も少し参加していることは、最初の時点で伝えてあったはずだ。

 その時は特に何も言われなかったと思うのだが、何か問題があったのだろうか。


「妹の手伝いなので、自分がメインではないですが」

「そうですか。まあ、個人で何をやるのも自由ですけれど、あまりネットでの評価をあてにしないように。あのようなもの素人の馴れ合いでしかありません。あなたがたはプロであることを求められているのです。小手先の技術ではなく、基礎からしっかりとやるよう意識してください。それでは、お疲れ様でした」


 そう言捨てると、香奈太が何か言い返す前にさっさと部屋を出て行ってしまった。


この度は作品を呼んで頂きありがとうございます。

何かしら反応を貰えると、作者が喜びやる気が出ます(*^^*)


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