表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DirectAim  作者: うぇざー
15/18

15 急変(2)

「よし、じゃあ、さっきのとこの続きからいこうか!」

「はい!」



「「「「「……え?」」」」」


 練習の再会を告げるナイターの声に元気に答える声が部屋にひびいた。

 それ自体は、何一つおかしなことではないが、その声を発した人物が問題だった。


「えっと、シーちゃん?」

「どうしたんだい、ユメ?それに皆も」

「いや、お前がどうした。なんで急にそんな元気になってんの。怖えよ」


 不思議そうに首を傾げる柊に、五十嵐がすかさずつっこむ。

 当の柊は何を言われているのか、よくわかっていない様子。

 だが、口調だけでなく、その雰囲気も普段の柊とは似ても似つかなものになっている。

 はきはきした話し方に、まっすぐ伸びた背筋、ぱっちり開いた目。

 きっと、元の柊を知らなければ、なにかスポーツでもしている爽やかな好青年だと思うことだろう。

 それほど、今の柊は自然体だった。

 だからこそ、急な変化が違和感でしかない。


「俺は別にどうもしてないよ。皆も特に問題がないなら、早く練習をしよう!時間は限られてるからね。ほら、ナイターさんも」

「う、うん。そうだね、正直違和感はすごいし滅茶苦茶気になるけど、シレくんがそういうなら、始めようか」


 まだ周りの困惑は抜けきらないが、本人は1ミリも気にしていない。

 時間に限りがあることもたしかなので、とりあえず練習を再開する。

 しかし、そこでもまた、柊に驚かされることになった。

 特に、ダンスに通じているナイター、ユ㐅、香奈太は目を疑った。

 先ほどまでと踊り方がまるで違うのだ。

 軽やかでとらえどころのなかった動きが、エネルギッシュではつらつとしたものになっていた。

 普通本人も意識できないような小さな癖までもが、まるで別人のように変化してしまっている。


(なにがどうなってるんだ?)


 柊以外の全員が戸惑いつつも、時間は流れていき、その日の練習が終わる。


「じゃあ、今日のレッスンはここまで!一応これでこの曲の振りつけは、フォーメーション含めて終わりだよ。次のレッスンからはまた新しい曲に入るから、こっちのブラッシュアップは自分たちでも進めといてね」

「ありがとうございました!」

「う、うん。じゃあ、お疲れ様」


 気にする様子を見せつつも、そう言い残してナイターは部屋から出ていった。

 全員で礼をしてそれを見送る。

 ガチャ、とドアが閉まり頭を上げたあと、即座に柊以外の4人がお互いをうかがう。

 そして始まる、無言の押しつけあい。

 笑顔で全く譲る気のない高岡に、こちらもひたすら嫌そうな顔で訴えてくる五十嵐。

 ユメはそんなふたりと香奈太を交互に見てはおろおろしていて、頼りになりそうにない。

 しかたなく香奈太が部屋の端で休んでいる柊に近付いていくと、3人もそれぞれ片付けなどに動き出した。

 だが、聞き耳て立てているのが丸分かりである。


「あー、シレくん。ちょっといい?」

「なんだい、コナタ?」

「その、休憩の時、なんかあった?」

「なにか、とは?休憩の時はコナタもずっと一緒にいただろう?」

「そうだけど、そうじゃなくって」


 相変わらず、こちらの戸惑いを欠片も理解して無さそうな様子で、柊が首を傾げる。

 その仕草は、本当に自然体で、わざとやっているようには見えない。

 そもそも、柊がそのようないたずらをするとは思えなかった。

 だからこそ、どう聞いていいものかわからない。

諦めて、直球で聞いた方が早い気がする。


「自覚ない?」

「なにの?」

「いつもと全然雰囲気違うけど」

「もしかして他のみんなもそう感じているのかな?」


 柊が部屋を見回すと全員が大きくうなづいた。

 近くで何気なくスマホをいじってる風を装っていた五十嵐や、そわそわしてるのを隠せず歩き回っていたユメが、ようやく体をこちらに向ける。

 部屋の端のカメラをとりに行っていた高岡も、電源を切りながら近づいてきた。


「そうだね、さっきの休憩が終わった時からかな。何か心当たりは?」


 最初に香奈太に押し付けたのはなんだったのか。

 何事もなかったかのように、高岡が会話に加わってくる。

 リーダーなら上手に聞き出してくれるかと思ったけど、思ったより直球で言ったから諦めた、とは高岡の談。


「……ない」

「は?」

「え?」

「戻った?」

「……?」


 そして、再びの柊の急変。

 少し眠そうな目や独特なテンポで言葉少なに返される返事など、香奈太たちが知る柊になる。

 特に何かきっかけとなることがあったようには感じられなかった。

 心当たりがないと言いながらのこの変化に、やはり揶揄っているのかと、4人が柊を疑って見る。

 しかし、なおも柊に変化の自覚は無いようで、何故見られているのかを不思議がっているようだった。


「二重人格?」

「それなら、自覚がなかったり記憶が引き継がれてのはおかしくねえか?あんま詳しくないから分かんねえけど」

「シーちゃんは今なんか変わった感覚あった?」

「……力が、抜けた?」

「力が抜けた?」

「え、じゃあさっきのは、やる気モードだったってこと?」

「……?」


 色々と可能性をあげていくが、どれもしっくりこない。

 やはり、何がきっかけで切り替わったのかだけでも分からないと、本人も把握してないことを解明するのは難しい。

 なにかヒントになるものはないか、と周りを見ると、高岡がなにか考え込んでいた。


「結弦くん、なんか分かった?」

「いや、さっきのシレくんの様子をどこかで見たことがある気がして……」

「あ?前にも練習でこうなったことあんのか?」

「いや、練習のときではなかったと思うんだけど。いつ見たんだったかな?」


 以前にもああなったことがあるのなら、なにか分かることがあるかもしれない。

 期待の目を向けて待つことしばらく。

 高岡がパッと顔を上げた。


「あ、わかった、王恋の弟くんだ」

「誰だよ」

「王様早瀬は恋に勝てないっていう、春からやってるドラマがあるんだ。それにシレくんが、ヒロインの弟役として出てるのだけど、それがまさにさっきのシレくんのまんまなんだよ」


 聞くところによると、4月から始まったドラマに柊が出ているらしい。

 人気少女漫画家が脚本を担当したとかで、話題になっていたドラマだ。

 ストーリーとしては、地味だけど芯の強い女の子が、弟の先輩で俺様な年下の男の子と恋に落ちる。

 もっと間に細かい恋の駆け引きなりなんなりがあるらしいが、特に興味もないので割愛。

 それよりも、柊はドラマの中で、ヒロインの弟を演じている。

 設定としては、ヒーローからサッカー部のキャプテンを引き継いだ人気者。

 校内人気はヒーローと1位2位を争うほどモテるが、彼女に一途、といういかにもなヒーローの親友ポジションだ。


「よく知ってたな」

「話題になってたし、シレくんが出てるって聞いたから、少しだけね」

「シーちゃん、サッカー上手なの?」

「……ううん。ドリブルとシュートだけ永遠に練習させられた」


 その時のことを思い出したのか、柊の空気が重くなる。

 だんだん話が逸れてきたため、話の軌道を修正するべく口を開く。

 決して面倒くさくなったわけではない。


「で、結局、さっきのは急にその演技をし始めたってことなの?」

「うーん、僕にはそう見えたかな。演技と思えないほど自然体ではあったけど」

「まあ、そこは本職の力ってことなんじゃねえの?なんで急に演技し始めたのかは謎だけどな」

「……演技してた?」

「やっぱ自覚ないんだな」

「ねえねえ、じゃあさ、休憩のときを再現してみようよ!」

「……再現?」

「うん!そうしたら、どのタイミングでシーちゃんのスイッチが入ったかわかるんじゃない?」


 ユメの提案で、全員で休憩時間の再現をしていく。

 といっても、智和もナイターもいないし、何かを話してたかなんて、人間そこまで詳細に覚えてなどいない。

 真剣なのかふざけているのか微妙なまま、全員なんとなく思い出しながら動いているだけだ。

 だが、ある瞬間、本当に柊のスイッチが切り替わった。


「もしかして、シレくんが急変したのって――」


この度は作品を呼んで頂きありがとうございます。

何かしら反応を貰えると、作者が喜びやる気が出ます(*^^*)

ストックが切れたので、更新頻度が下がるかもしれないです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ