11 夜月家訪問(4)
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「まあ、呼び方はなんでもいいつったしな。それより、今日決めることは決めたんだよな?もう解散か?」
「いや、みんながいいなら、採寸をしたい」
真緒から渡されたリストの内容は全て消化したが、帰ろうとする五十嵐に香奈太が待ったをかけた。
香奈太は全員分の衣装を任されている。
制作時間も限られているので、出来るだけ早く作業に取り掛かりたい。
そのために、まず最初に採寸を済ませなければならないのだ。
採寸さえすませてしまえば、仮縫いまでは香奈太一人でも進められる。
「次いつ集まれるかわかんないし、今日のうちにやっときたい」
「いいけどよ。それプロフィール書いてるうちにやっとけば良かったんじゃね?」
「……たしかに。まあでも、この短時間ではどうせ全員分は終われなかったし」
「あ、そ。で、オレらはどうすりゃいい?」
「踊る時に着る服だから、できるだけ正確に採寸するために、薄着になって欲しい。さすがにここでやるのはあれだから、俺の部屋でやるか。1人づつになるけど、誰からやる?」
「んじゃ、オレからで」
「わかった」
五十嵐を連れてリビングから出て、二階にある香奈太の部屋に行く。
ドアを開けると、中に入るよう促す。
「確かに、ここに全員来るのは無理だな」
「普段はもうちょっと片付いてる」
「どうだか」
部屋の中は、布や型紙などがとっちらかっていた。
机の上には鋏がそのまま置いてあったり、まち針が刺さった針山が放置されていたりと危険極まりない。
一旦危ないものだけ仕舞い、布などは最低限のスペースを開けるためにベッドに放っておく。
その様子を五十嵐が呆れたように、眺めていた。
「あ、ちょっと服脱いで待ってて」
「どうした?」
「みんなの好みがわかんないとデザイン決めにくい。待ってる間暇だろうし、デザイン張渡しといて、いいと思ったやつ教えてもらおうと思って。ちょっと渡してくる」
「おう」
五十嵐を部屋において、階段をおりる。
デザイン張と言っても、香奈太はもっぱらデジタルで描く派なので、タブレットを開いて見れるようにするだけだ。
「あれ?恋那ちどうしたの?」
「いや、みんな暇だろうから、見といて貰いたいものがあって。このタブレットで――」
「キャーーー!」
香奈太がリビングに入って説明を始めた途端、二階から甲高い叫び声が聞こえてきた。
さらに続くドタバタと階段を駆け下りる音。
バンっと扉が壊れてないか心配になる音を立てながら勢いよく開いた。
「パパー!なんかお兄の部屋にやたら顔がいい変態がいる!」
「んふぐっ!ゲホッゲホッ、あはは!」
「あれ、お兄?」
勢いのまま叫んで部屋に入ってきた咲が香奈太たちに気づく。
ちなみに、変な笑い方をしたために咳き込みながらも爆笑し続けているのは、高岡だ。
ユメと柊は呆然としている。
「ふっ、やたら顔がいい変態。澄ちゃんが、あはは」
「結弦くん笑いすぎ」
「いやー、ごめんね。さすが兄妹だね。2人とも澄ちゃんへの感想がセンスありすぎだよ、ふっ」
(意外と笑い上戸だな、この人)
メンバーの意外な一面を知った気がする。
とりあえず高岡はしばらく戻れなさそうだったので、放置して咲に視線を戻す。
さすがに初対面の人の前で叫んだのは気まずいのか、微妙に高岡たちが視界に入らないようにしていた。
「えーっと、お兄帰ってたんだね。おかえり」
「ただいま。で、お前は俺の部屋に何しに行ったんだ?」
「ちょっと、サムネの写真用に髪飾り借りようと思ったんだけど。まさか知らない人がいるとは思わないじゃん!?しかも、服脱いでるし!」
「すまん。採寸の準備してもらってた」
「採寸?えっと、なんの人たち?」
「……バイトの依頼人?」
一応家族とはいえ、未公表のことは隠した方がいいかもしれない。
そう思い、濁して答える。
まあ、香奈太がアイドルグループのリーダーをやることになったのは知っているため、あまり意味がないかもしれないが。
そもそも、彼らを家に連れてきた時点で、メンバーが知られるくらいは覚悟している。
歌い手をやってるだけあって、そこらの小学生よりよほどネット上のマナーはわかっているので、大丈夫だろう。
「え!?この人たちも?」
「そうだけど」
「モデルと俳優とダンサーがアイドルやるの!?」
案の定、咲は一瞬で察してしまった。
しかも、3人のことも知っていたらしい。
その時、再びドアが開いて服を着直した五十嵐が入ってきた。
「そいつら3人は知ってんのに、オレは悲鳴あげて逃げられるって納得いかねぇ」
「!その声は、もしかして声優の五十嵐さん!?ちょ、待って、五十嵐さんまでアイドルって。いやそれよりも、私は五十嵐さんを変態呼ばわりしたってこと!?」
「あれ、ちゃんとすみくんのことも知ってるみたいだね?」
「……声優の顔を知らない人は案外多い」
情緒が不安定な咲の横で、意識を取り戻したユメと柊が普通に会話を始める。
そのさらに横では、五十嵐を見て笑いが再発した高岡を、五十嵐が叩いていた。
カオス。
「あれ、みんな揃ってる」
「どうしたの、父さん?」
混沌とした場に、今度は徹が入ってきた。
もはや事態の収拾をつけるのを諦めて、タブレットをいじり出していた香奈太がそれに気づいて、声をかける。
「お昼になったから、ご飯を作ろうと思って。みんな、食べてくよね?」
「ん、もうそんな時間か。まだ終わってないし、食べてくと思う。なんか手伝おうか?」
「じゃあ、スープお願い」
再び混沌を放置して、香奈太と徹はキッチンへと向かった。
食べ盛りの男子高校生が5人もいるので、分担して作る昼食はかなりの量になった。
それぞれがどれくらい食べるか分からないため、大皿を用意し、自分で取り分けてもらうことにした。
出来上がったのは山盛りのスパゲッティ。
家にある材料で量が担保できたのが、これくらいだった。
一応、味付けは4種類あるが、その量はあまり見ないぐらいに多い。
それらをみんなで食べるため、椅子が足りないダイニングではなく、リビングに手分けして持っていく。
「だから、五十嵐さんは絶対こっちのが似合うんだって!というかその組み合わせはどう頑張ってもダメ!」
「そうか?そこまでおかしくもねえだろ」
「僕も咲ちゃんが正しいと思うな」
「おれもー!」
「……ぼくも」
リビングに戻るとなぜか全員でテーブルを囲んでいた。
よく見れば、香奈太のタブレットを覗き込んでいるようだ。
「咲、距離詰めるの早過ぎない?」
「あ、お兄!ねえ、五十嵐さんファッションセンス皆無なんだけど!」
「それは知ってる。そんなことより、昼めしできたから、テーブル空けて」
「こいつら……」
「場所を借りるだけでなく、昼食まで、ありがとうございます」
「遠慮せず食べてってね」
わいわい小皿に取り分けながら7人でテーブルを囲む。
途中ユメがカルボナーラを気に入りすぎて独り占めしようとしたり、五十嵐が高岡の皿に鷹の目をしれっと入れてたりと、騒がしくしながらも大量の麺はしっかり全員のお腹を満たした。
***
「今日は突然だったのにありがとうございました」
「いいえ〜、これからかなくんがお世話になるしね。いつでも気軽においで」
「今度は絶対私が勝つからね!」
「はっ、もっと上手くなってから出直しな」
昼食後、無事に全員の採寸が終わり、家を出る頃には日が傾きかけていた。
香奈太の部屋で採寸している間、残りのメンバーと咲はテレビゲームでずっと遊んでいたため、かなり仲良くなったようだ。
特に五十嵐はゲームがかなり上手で、咲は1度も勝てなかったらしい。
大人気ない。
各々暇の挨拶をして出ていくのに、香奈太も着いていく。
「わざわざ着替えてまで送ってくれなくても、調べれば道はわかるよ?」
「どうせランニングのために出るし、ついでだから気にしないでいいよ」
「へー、毎日走ってんの?」
夜月家から駅までは、歩いて20分くらい。
距離にしても1.5km強。
駅前のうるささはないが、歩いて行ける距離でかなり利便性の高い場所なのだ。
「一応。言っても、始めたの2週間前だけど」
「あ、アイドルやることになったから?」
「まあ、ある意味?レッスンで久しぶりに踊って、体力落ちたせいで思い通りに踊れなかったのが、嫌で」
「ふーん、真面目なこって」
そうこうしているうちに、あっという間に駅前に着く。
もう案内はいらないだろうと判断し、香奈太が立ち止まった。
「じゃ、お疲れ様」
一言告げると、高岡たちが何か言う前にさっさと立ち去ってしまった。
その姿は帰宅を急ぐ人々に紛れて一瞬で見えなくなる。
このままここにいても仕方が無いので、4人は改札に向かって歩き始めた。
「どう思う?」
「悪い子ではなさそうだけど、まだなんとも」
「だよな」
「ゆづくん、すみくん、どうしたの?」
「なんでもないよ」
「ふーん?あ、そうだ!今日カナちゃんが見せてくれたあれさー」
今日一日で少し距離の縮まった4人が、楽しそうに喋りながら、駅構内を歩いていく。
この後、電車ではしゃぎすぎたユメが五十嵐に怒られることになるのだが、それはまた別のお話。
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