表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人形医師アリスと不思議な診療録

作者: 入多麗夜

自動人形のアリスが人形医師として頑張るお話です。

『名称:アリス・ウェールズ』

 番号:Hw-06

型番:ヒト型 性別:女 

製造年:不明 メモリー: 一部破損


起動:正常|

 




 脳内に語り掛けてくる音声。


 眩しい光と共に、アリスはベッドから目を覚める。


 黒い髪はベッドの上部両端に綺麗にグルグル巻きで縛られていた。下を見ると、犬のポーロが「ワン」という人鳴きをし、1階へと走って降りていく。


 「あんのやろーーーっ!待てーーーー!」


 アリスは無我夢中になり、ポーロを追いかけようとする。しかし、彼女は自分が髪を縛っているという事を忘れてしまい、「ドン!」と強い衝撃音と共にベッドへ引き戻されてしまう。


 「っつーーーーー!!」

 

 アリスは腰を軽く打ってしまい、しばらく蹲っていた。

 

 「ワン!ワン!!」


 ポーロの鳴き声から1階から聞こえてくる。きっと腹が減っているのだろう。アリスはポーロにいたずらされた髪を1束づつ解いていく。


 所々ポーロのよだれが髪に纏わりついていた。


 「あーあ、ポーロの奴め……。また朝に風呂入らなければ行けないじゃん……」


 アリスはそういい、髪を全て解いた後、ようやく1階へと降りる。すると、ポーロは「ワン!ワン!」といい、アリスの脚の間に入っていった。


 「はいはい、分かっているわよ。でもその前に私に謝らなければいけない事あるわよね!?」


 とアリスは少し強い口調で、ポーロの方をじっと見る。

 しかし、ポーロは彼女の言う事を全く聞かなかった。さらに挙句の果てには窓の方へと歩いていき、足を舐めていた。


 「全く……自由人め。」

 

 アリスは半分呆れたような顔をする。どこまで言っても私達、自動人形とは違い「生物の犬」なのだ。

 

 ポーロ用の白い食器をキッチンの下に置き、餌を6分目位まで餌を注ぐと風呂場へと向かった。

 服を脱ぎ、風呂場の折れ戸を開く。


 彼女が風呂場の中に入った事が分かると、物凄い勢いの足跡と共に、キッチンへと走っていく音が聞こえてた。


 「はぁ、うちのポーロは……」


 彼女はシャワーを浴びながら嘆いていた。


 アリスの飼っているペットのポーロは中々の悪戯好きだった。


 彼女の休眠モード中には髪をむしゃくしゃと食べてみたり 、風呂に入っている時に服を持ち去ったり等と中々肝が据わっている犬であった。そんな悪行に 彼女も半分程うんざりはしていたものの許してしまっていた。


 2人の出会いのきっかけは、ある森の中だった。彼女はずっと埋められていた。たまたま近くを通った、当時野犬だったポーロによる気まぐれの穴掘りによって彼女は再起動された。


 彼女は外傷は無かったものの、メモリーの一部に損害が出ている『オロストドール』(不良品)だった。幸いにも、彼女は過去の部分のみが破損していただけで『オロストドール』の中では比較的軽度の方であった。 その後、彼女は街の公的機関を頼り、『オロストドール』の為の保護を受けつつ、ポーロと共に日常生活を送っていた。


 アリスは自動人形で『オロストドール』であっても、その見た目はまるで本物の人間のようだった。

 それは、型番のせいだからだろうか。機械とは思えないような綺麗な構造をしていた。


 自動人形は、人間が滅びる直前から活動していた人形だった。人間の活動地帯は飢饉や生物兵器によって活動環境が著しく制限されてしまったので、その地域に変わって活動をし続けて欲しいと願い、作られたのが『自動人形』だった。自動人形は 数万体と作られ、人間の活動領域外に出向いていた。やがて人間が滅びるとマスターを失った自動人形は各地へと散らばっていった。


 彼らは人間が残した街や数多の文化遺物等を分析していき、何の因果か自動人形にも自我が芽生えていった。

 

 アリスはシャワーを流しながら自分の右手を見る。


 あまりにも出来過ぎた右手。

 彼女の身体は既に自動人形の精密度として逸脱していたが、その最たるものと言えるのが右手だ。そう彼女は『人間の右手』を持っていた。そして『それ』は、人間でいえば「神経のようなもの」と完璧につながっている。

 

 どうして?何故?と聞かれても分からないとしか答えられない。


 彼女は記憶が無いのだから。


 アリスは風呂から上がり、外出用の服装に着替える。


 「アリスーー!」


 アリスが外に出るとそこには、茶髪で左目の眼帯を付けた女の子が経っていた。

こが


 「ねぇねぇアリスー、左目治ったか見てほしいんだけどー?」


 そういって彼女の元に寄ってくるのは、エミリーだった。

 エミリーとアリスは友達であり、彼女が『オロストドール』だと知っていても、近づいてくれた心優しい自動人形だった。エミリーは比較的高品質なパーツで作られているので艶が出ていて、状態も綺麗だった。

 

 アリスは彼女の左目をそっと触る。


 「うん、痂皮かさぶたが黄色くなっているね。後1週間程で治ると思うよ。薬品取ってくる。」


 とアリスは靴を脱ぎ、居間へと戻る。


 そう、彼女は『人形医師』だった。

 

 『人形医師』とは文字通り、人形を治す医師である。

 人間が居た頃の自動人形の扱いはとても酷く、使い捨てのような感覚で大量生産&大量廃棄を繰り返してきた。


 やがて人間がいなくなり、自動人形が自我を持ち始めると自動人形の人権が飛躍的に上昇し、自動人形の為の職業という物が増加した。『人形医師』も数多ある内の1つだった。


 しかし、人権が上昇したとはいえど『オロストドール』(不良品)を中心とした差別は消える事はなかった。『人形医師』はそんな自動人形を正常な状態に戻す為、治療活動を続けていた。

 

 アリスは居間の棚の中から人形用軟膏剤の茶色の瓶を取り出す。人形用軟骨剤は、ヒアルロン酸をお湯で10分の1に希釈した物を使っていた。


 ヒアルロン酸は元々人間用の美容として使われていたが、自動人形と人間の構造はほとんど変わらないので、私達が使っても問題がない代物だった。ヒアルロン酸は鶏から抽出しており、街の中心部で「医療薬品」として売られている。

 

 彼女は待たせているであろうエミリーを思い、少し急ぎ気味で玄関に戻る。エミリーは玄関の上がり框で、背中を向けて座っていた。


 「取ってきたよ。眼帯を外してくれない?」

 「うん、わかった。」


エミリーは静かに頷き、そっと眼帯を外した。眼帯の下からは徐々に黄色くかさぶたになりつつある左目が現れた。


 「目が腫れているように見えるけど、正確には左目下の瞼。エミリーのタイプは人工皮膚があるみたいだし、初診の時に触っても機械の崩れるような音が聞こえなかったから心配はしなくていいわよ。」

 「良かった~~!!」


 エミリーは少し安堵していた。

 

 話を聞いてみると、見た目の状態が酷かったせいで左目の摘出になるかと思っていたらしい。少し大げさのように聞こえるかもしれないが、『オロストドール』の認定が下されると、社会的に厳しい立場に置かれてしまう。なのでエミリーが杞憂になってしまうのは当然であった。


 「ねぇねぇ、アリス。あの悪戯っ子は元気にしてる?」

 「ポーロ?元気にしているわ。今日も本っ当に酷い悪戯にあったわよ。朝起きたら髪をベッドの端に縛り付けてっ…」


 アリスが話すのに夢中になっている傍らにエミリーはポーロの名前を呼ぶ。


 「おーい、ポーロ~!出ておいで~!」


 と居間に目掛けて大声で呼ぶ。ポーロはそれに返事するかのように「ワン!」と人鳴きをし玄関へ走ってくる。

 そのままポーロは、エミリーの胸元へ大ジャンプする。


 「よ~しよしよし。偉いぞポ~ロ。」


 するとアリスは半分呆れたような顔をする。


 「何でエミリーには優しくて私にはあんな事をするんだよ……」 

 「それはきっとあれだよ。 『ツンデレ』って奴じゃない?」


 エミリーは犬を抱きながら自慢げに答える。『ツンデレ』はエミリーがアリスと共に通っている学校で覚えたようで、実際に昨日教わった内容だった。


 「ツンデレって言われても……それって人間に使う言葉じゃなかったっけ?」

 「えっ…!そうだっけ…!?」


 エミリーは学校で教わった内容を思い返そうと頭を悩ませていた。


 「ほ、ほら!人間も犬も同じ生き物じゃない!人間がツンデレなら犬もツンデレよ!」

 

 とエミリーは妙に道理が通る回答をした。

 

 「流石はエミリー…妙な所で頭が回るよね。」

 「えへへ。」

 「褒めてないわよ。」


 とアリスはエミリーの頭を軽くチョップをする。


 「そういえば、アリスは今日学校の予定は?」

 「あー…待っててね……。特にないわよ。どうして?」


 エミリーはふふふと笑いの笑みを浮かべて1枚のチラシを渡す。


 「実はですね!遠方から使節団が来ているみたいなんですよ!!どうやらレアな自動人形やパーツも取り扱ってるらしく!良かったら見に行かない!?」


  エミリーの趣味は希少性の高い部品を集めて家に飾る事であった。実はアリスも自動人形の治療の際には、エミリーが収集した部品の一部を活用して治療している時もあった。


 「分かったわよ…趣味に付き合うよ。だけど集めた部品、治療に使うかもしれないからよろしくね。」

 「当たり前じゃない!治療をしてくれたお礼よ。それに私達友達でしょ!友達を助けるのなんて当然の事よ。」


 と妙に偉そうに鼻を高くするエミリーだった。アリスは少し唇が緩み ニッとした顔をする。


 「さぁ、出かけましょう。」


 アリスは扉に鍵をかける。

短編は初めてです。高評価して頂けば励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ