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続四物語  作者: 六散人
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弐 禍珠 その一

次は私の番ですか。

私はマツイという者です。

神社の宮司をしておりました。


神社といってもピンキリで、参拝客が大勢押し寄せるような大きな社もあれば、地元の住民も滅多にお参りに来ないような、小さなものも数多くあるのです。


私が宮司をしていたのは、後者でした。

全国に数多ある稲荷系の神社で、規模としては中の小といったところですか。

まあ、神社の規模を明確にランク分けするような基準はないんですがね。


何で私が神職になったかというと、家業だったからです。

それが唯一の理由でした。


ただ学校の勉強は不得意というよりは苦手で、大学に進学しようという意欲もなかったので、通信教育で神職の資格を取り、父親の後を継ぐことにしたんです。


神社の経営は、ご存じかどうか分かりませんが、とても苦しいのです。

特にうちのような小さな神社は、氏子からの奉納金や祈祷料など知れたもので、とてもそれだけではやっていけません。


なので副業として、アパート経営をしていました。

それでも食べていくのが精一杯で、四十を超えた今でも、結婚すらできないというのが実情なんですよ。


初っ端からみみっちい話をして申し訳ないんですが、実はこれが今日お話しすることの発端になったことなので、我慢して聞いて下さい。


親父は私が神職になって数年で、ぽっくり逝ってしまいました。

跡継ぎが出来て、安心したんでしょうね。


お袋はというと、私が中学の時に亡くなっていて、兄弟もなかったものですから、親父が亡くなると、文字通り天涯孤独の身の上になりました。

そうすると神社経営という重い荷物が、私の肩に圧し掛かることになったのです。


苦しかったですね。

氏子の皆さんも高齢化していて、子や孫の代になると、徐々に寄進もなくなります。


そういう訳で、私は親父を失くした早々、かなりの苦境に立たされてしまいました。

そこで私は、神社にあった小さい蔵の中をさらって、不要なものは売っ払ってしまおうと考えたのです。

今思えば、罰当たりな話なんですがね。


そしてその時に、蔵の中から見つけてしまったんです。

それが今回お話しする、『禍珠(まがたま)』なんです。


『禍珠』は小さな白木の箱に収まった、直径5cm程の珠でした。

色はやや赤みがかった白で、表面はつやつやと光沢を放っていました。


――何だろう?値打ち物かな?

そんな不埒なことを考えながら、箱の底に仕舞われていた由緒書きを取り出して見ると、なんだか偉そうなことが書かれていました。


曰く、『禍珠』とは、この世の災厄という災厄を取り込む神器である、云々。

――何を大袈裟な。

神職にあるまじきことですが、私は霊験・神罰の類を、一切信じてませんでした。


ですので、その由緒書きを見ても、鼻で笑って済ましていたんです。

それでも一応、祭壇にお祭りしたんですけどね。


ところが、その翌日のことです。

珍しくお祓いを頼みに、人が来たんですよ。


その人が言うには、前夜夢の中に白い珠の姿をした神様が現れて、この神社で厄払いをしろと、(のたま)ったそうなんです。

それを聞いた私は、『禍珠(まがたま)』を白木の箱から出して、その人に見せたんですよ。


そうしたらね、正にその珠の神様だと、その人は驚きましてね。

是非お祓いを頼みたいと言われたんです。


私は少し薄気味悪く感じたんですが、せっかくなのできちんとお祓いをして、既定の料金を頂きました。

すると2、3日経って、またその人が神社を訪ねてきたんですよ。


お祓いが効いたと言って、大喜びでね。

私に抱き着かんばかりでした。


事情を訊いてみると、その方は独立起業した実業家だったんですが、いつも些細なことで、ビジネスチャンスを逃していたそうなんです。

大事な商談の直前に盲腸炎を患って入院したり、別の商談の時には相手先に向かう途中で前方不注意の自転車にぶつかられて救急搬送されたりと、不運続きだったようです。


そこで厄払いでもしようかと考えていたところに、『禍珠』の夢を見て、私の社を訪れたらしいのです。

そしてお祓いを受けた直後に、予想もしていなかった相手から大口の商談が持ち掛けられて、とんとん拍子に契約まで漕ぎつけたんだそうです。


それはもう、すごい喜びようでした。

そしてお礼だと言って、神社に高額の寄進をしてくれたんです。


寄進をいただいて、私も嬉しかったんですが、一方で『禍珠』の霊験については半信半疑でしたね。

単なる偶然だろうと思っていました。


ただ一つ気になっていたのは、その方のお祓いが終わった直後に、『禍珠』がキンと音を出したような気がしたことでした。

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