93 殲滅
神の力を宿し生まれ、5歳の時、創造神により神界に保護され育てられる。神界で磨かれたその力は、既に神の域すらも超えているのではと、12柱の神々は囁く。
戦いの準備は、ほぼ整った。
アルティスの下に集った十万の軍隊の一人一人も、
自分がどんどん強くなるのが楽しくなってきた様で、訓練は順調。
武器の他にも、防具の用意もなんとか間に合った。見違える程の軍隊が出来上がりつつある。
悪魔軍が現れるであろう地点は特定出来ている。
そもそも、次元転移装置を稼働させるには、色々な条件が揃わなければならない。
その条件に合う場所は限られている。
更に大人数の部隊を纏めて出現させられる場所は、そう多くはなく、
7箇所にまで絞り込む事が出来た。
その7箇所の先は全て同じ所、すなわち悪魔の領域だ。
各所に、部隊を配置し、戦いの準備は完了する。
「間も無くだよ?皆んな準備は良いかい?」
「で、アル。1200年厄災はいよいよ明日に迫っておる。いよいよだな。
悪魔共が1200年厄災を狙う理由だがな、そろそろ教えてくれても良いのではないか?」
1200年厄災。それはエーテルが1200年に一度、1ヶ月間冬眠状態になる事で、
マナ供給が極端に減り、天変地異……災害が1ヶ月続く厄災であった。
「ま、そう言うのが1200年厄災なんだって。エーテルが原因で災害が起きてたんだね」
エーテルが冬眠に入るその時、神々やアルティスは力が出せなくなる……
そこを悪魔が狙うのは必然と言える。
1200年に一度の事なのに、その時期が近々に迫っていたのが、アルティス達にとっては不運だったと……
逆に悪魔にとっては絶好のタイミングだったのだ。
「エーテルが冬眠状態になるのか?アルティスも力が出せなくなる……そんな状態で戦えるのか?」
不安そうに顔を曇らせるリヴァルド王。
「壁に耳ありってね、これ以上は話せない。でも心配しなくても良いよ?
奴らにも、分かっていない事がある」
「うむ。これ程の不利が分かっているのに、アルティスはまるで動じる様子がないな?
わしらはお前を信じるしかな様だな」
アルティスの瞳の星がふらふらと泳ぎはじめた。エーテルが冬眠状態に入る様だ。
いよいよ1200年厄災の幕が上がる。
「さあ皆んな!次元転移の穴を開け、一斉に攻め込むぞ!」
「あ、アル貴方こっちから攻め込む気?」
「驚いた?」
「あなたいつも受け身だもの。やられない限り、此方からは手を出さないかと思ってたわ」
「もう宣戦布告されてるからね?わざわざこっちで戦い、民に犠牲を出す事はない……そう思わない?」
「でもどうやって、悪魔の次元に行くの?」
「まえに、世界樹の近くの悪魔の拠点から、次元転移装置を持ってきたんだ。
それを、カインが仕組みを解明して、何台か複製してくれたんだよ。
まさかこっちから来るとは思ってないでしょ?あいつらきっと慌てるよ?
さ〜て……そろそろ始めるとしますか?用意は良いか〜?全部隊突撃〜!!」
いよいよ戦闘開始だ……いや、結果的には殲滅でしかなかった。
先頭を切って入ってみると、目の前に数え切れない程居るのは、最下級の悪魔ガーゴイルだった。
ガーゴイル達は、未だ心の準備が出来ていないところに、7方向から突如現れた敵軍に慌て、
更に統率が乱れていた。
しかし、最下級の悪魔ガーゴイルとはいえ、肌が闇の様にどす黒く、蝙蝠みたいな翼に、2本の角。
見慣れない者には非常に不気味で、威圧感がある。
(皆んな、ちょっと足がすくんじゃってるかな?俺だって初見は〝気持ち悪!〝だったもんな。
先ずは俺が、戦いの火蓋を切るか?〝
軍の先頭に立ったアルティスは、ガーゴイルの足元に、無数の大きな法術陣を浮かび上がらせる。
瞬時に魔方陣から、青白い光の炎が巻き上がった。耳を劈く風切り音を残し、
聖なる炎は上空1000m近く迄到達する。
ガーゴイルは、漆黒の翼を広げ空中に逃れ様とするが、一瞬で炎に焼かれ、跡形もなくなる。
ガーゴイルの身体の細胞から、邪気で埋め尽くされた魂までを、
聖なる力の光で消滅させる。その攻撃だけで1万近くのガーゴイルが消えた。
「す……すげ……アルの奴、エーテルが使えないんじゃなかったのか?
いつもと変わらないじゃないか?どうなってる」
アルティスの友人、副団長のカーマイルが、目を丸くして呟く。
「ん?今のは、俺が構築して皆んなに伝えた、あの聖なる魔法だよ?効果抜群だったろ?
魔法騎士団の皆んなも出来る様になったじゃ無い。一つずつで良いからやってみようか?さあ、打てっ!!」
アルティスの見せた攻撃魔法……いやこれはもはや殲滅魔法……
〝〝〝〝おおおおおお〜〜〜〜!!!!〝〝〝〝
萎縮しかかっていたアルティスの軍隊の目に輝きが戻り、雄叫びが上がった。
皆んなの心に戦う魂が甦った様だ。
〝ズゴ〜ン!ズゴ〜ン!ズズズズゴ〜ン!〝見る見る数を減らす悪魔の軍勢。
形勢を巻き返そうと、地面から続々湧き出てくる人型メフィストフェレス。
「さあ〜て、今度は俺の出番かな〜」
そう言うと、伝説の魔王アシュリーは走り出し、一瞬で音速を超える。
音もなくアシュリーの後には、メフィストフェレスどころか、何も残らなかった。
「さっすが、アシュリー。ルシファーの代行とまで言われるフェストメレスを、ああも簡単に……」
「メフィストフェレスな?アルティス?」
「そ?アシュリーが勢いをつけてくれた今がチャンス!お前達も続け〜!剣士軍団の出番だぞ!
正のエネルギーの光魔法が付与された剣を存分に使ってな」
〝シュンシュン!ズシャン!〝
「うひゃ〜何なん?この剣?すんげえ切れ味!」
「切っても切っても、直ぐ再生しやがってた悪魔が、再生せずに消えやがる!」
正のエネルギーの光魔法を付与した剣の威力は絶大だった。
拮抗するかと思われていた戦いだが、蓋を開ければアルティス達の圧倒的優勢。
悪魔達は次第に防戦一方になる。
「アルティス様の言ってた事は本当だったな?」
「当たり前だ!俺のダチだぞ?あんな純粋な奴は他にはいね〜!
嘘なんてつくもんかよ?あいつが嘘つくのは、フィオナ姫にだけだぞ?バレバレの嘘だけどな?」
バカ話が出来る程余裕の人族。今まで人族の攻撃が、悪魔に全く通用しなかった事で、油断しまくりの悪魔。
当然の結果だった。
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。p




