77 それじゃあ……チュッ!
神の力を宿し生まれ、5歳の時、創造神により神界に保護され育てられる。神界で磨かれたその力は、既に神の域すらも超えているのではと、12柱の神々は囁く。
「そっちの偽フィオナ?暴れてるけど、お前は妊娠してないの?」
「に、偽?私だって本物のフィオナよ。妊娠?そんなのしてる訳が……あれ?ちょっと遅れてる?
この世界に来てチヤホヤされて、楽しすぎて忘れてたかも?」
「チヤホヤって、俺達になりすましてたのか?変な事してないだろうな?
もういいから帰んなよ。帰れるんだろ?」
「まあな。ほらそこ、同化して見難いけどよ。穴見えるだろ?あれが次元の穴さ」
上空20m程上の方を指差す。
「あれか?あれ危ないな?早いとこ塞がないとまずい事になりそうだ。
お前あそこまで飛べるか?連れてってやろか?」
「馬鹿にするな。あそこまで飛ぶなんて、楽勝だ!」
「帰る気になったか?」
「はっ!そんなわ……」
「ねえ、こっちの私。あんたも妊娠?」
「そうよ」
偽フィオナは偽アルティスにしか見えない様にウインクする。
「分かったわよ。あんたら、とんでもなく強そうだし、産まれてくる子供の為に、ここは引くわ。
ね、アル……何て嘘〜〜」
その言葉に油断してしまったフィオナは、偽フィオナに捕まり、偽アルティスに向かって投げ飛ばされた。
「そいつ穴に飛ばして、あっちの世界にやっちゃって!」
慌ててフィオナを抱き抱え、穴に向かう偽アルティス。
しかし、その時既に、穴の前にはアルティスが待っていた。
「チッ。なんてスピードだよ」
「悪い事は言わない。フィオナを離せ……」
アルティスの氷の様な瞳。吸い込まれそうな怒りのオーラー。
「い、いくらお前が早いからといって、手出ししたらお前の大切なフィオナが、傷1つ付かないとでも?
果たしてお腹の子は無事かな?分かったら、そこを退け!」
苦渋の表情をして、道を開けるアルティス。
「じゃ〜な〜」
次元の穴にフィオナを落とす。フィオナは別世界に投げ込まれた。
すぐさま、後を追うアルティス。
「ギャ〜ハハハッ!フィオナよくやった!」
「危なかったね?あいつ聞いてた以上だったよ?あの穴早く塞ぎなよ!封印の石あるんでしょ?」
「おう、そうだな。どこやった?え〜と、え〜と……」
探す事3分。
「お〜有った有った」
「たっだいま〜〜」
「な……向こうの穴は魔獣の森……どうやってこんなに速く」
「聞こえたぞ。それが封印の石?」
一回転し、手のひらで偽アルティスの、みぞうちを打ち抜き、穴に飛ばす。
〝グギャア〜〜〝
情けない声を出しながら穴の向こうに飛んでいく偽アルティス。
「さ、どうする?」
「……行きます……穴迄連れて行って貰えます?」
「飛べないんかい?うちのフィオナは少しなら飛べるぞ?まあ良い、はいよ」
そつと抱き上げ穴まで連れていくアルティス。
「お前達がそんなじゃなきゃ、少し話したかったな。あっちの穴は低くて2m位だったけど、落として大丈夫か?」
「うん。平気」
「じゃあな」
「うん……それじゃあ……チュッ!」
「あ〜あの子、どさくさに紛れてキスしてった〜」
「ん?最後はあんまり臭くなかったな?少し反省してくれてると良いけどな?」
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「フィオナ〜〜 何処だ〜!」
「アル〜 変な化け物に囲まれてるよ〜」
〝ガシュ!バシッ!ザン!ザン!ザン!ガシュ〜……〝
風は感じるが、フィオナには早すぎてアルティスは見えない。見る見る魔物だけが倒れていく。
フィオナの周りの魔物数百体は、あっという間に片付いた。
「まだまだいるな〜こっちに向かってる。魔物の森だからか?周りに人の気配は無いな?広域魔法をかけるぞ!」
「ここ魔法が使えないんじゃなかった?」
「ハッ! ……ダメだ〜使えん!しゃあない、フィオナ驚くなよ?」
「え、何?」
〝クッ……クッ…… グワォォォオオオオオ〜〜〝
アルティスの周りに電気が走り、髪が逆撫でられる。
アルティスの顔に、光るタトゥーのようなものが浮かび上がる。
その模様でアルティスの顔が龍の様にも見える。
「そ、その顔……」
〝ニッッ〝
と、笑うアルティス。両手をあげて唸る。
〝おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!〝
天から数え切れない程の稲妻が降り注ぐ。
焦げ臭い匂いと共に、魔物の群れは消えた。同時に顔の模様も消えた。
普段のアルティスが戻ってきた。
「あ、アル?あれは……?」
「話は後。帰るよ?」
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「アル。どこ?魔除けの石は?速くしないと囲まれるよ?」
「ゲフォゲフォッ……あんのやろ〜〜」
「大丈夫?」
「何とかな?」
「速く魔除けの石!」
「必要無い。良く見ろよ?魔物の死体だらけだ……この短時間で、
あいついったい何体……いや何万体か?やったんだよ?」
「まるで歯が立たなかったね?ほんとなら話ししたかったって言ってたよ?」
「チッ!甘い奴……だけど良い奴なんだろな?殺しにかかった俺達を無事こっちに帰すなんて……」
「そうだね。ちょっと見習う?」
「ふざけんなよ! ハハハハ!完敗だな?俺もあいつみたいになれるかな?」
「そうね。上には上がいるって事。やり直しね?潜在能力は同じなんでしょ?」
「あいつなら、あの化け物に勝てるかな?」
「……だと良いね?あれはやばいよね……」
〝殺す〝と言っていたものの、アルティスの身を案じる。
この2人も、アルティスとフィオナだけあって、根はそこまで悪い奴じゃないのかもしれない。
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




