25 褒めて褒めて〜
神の力を宿し生まれ、5歳の時、創造神により神界に保護され育てられる。神界で磨かれたその力は、既に神の域すらも超えているのではと、12柱の神々は囁く。
「何をなさっておられるのですか?」
「うん、少し待ってね」
山のあちこちから、何やら煙のようなものが上がる。
焦げ臭い匂いも立ち込めてくる。次第にここの地面も熱くなってきた。
「あっ、やばっ!山火事になっちゃうな?これ」
添えていた左手を離すと、空に向ける。あたりが暗くなり、やがて雨が降り注ぐ。
煙が湯気に変わった。
〝ズッ……ズズズ、ドォ〜〜〜〜ン!!!」
10分程経っただろうか?遥か遠い山の上で、爆炎と土埃が激しく飛び散った。穴が貫通した様だ。
「よっしゃ〜!で〜きたよ〜」
手から出ていた光が消え、湯気が晴れてくると、山にポッカリ穴が空いているのが確認出来た。
「溶かして開けたから、ゆっくりと冷えれば、壁の硬い安全なトンネルの、出来上がりだよ?」
一同、顎が外れそうな程、口をあんぐり開けている。
「…………こんな時、私は何と言ったら良いのでしょうね……」
驚き呆れるハート。
「褒めて褒めて〜」
「凄いですぞ!アルティス様!さすが我が主人……とか?」
「とか、要らない」
驚き腰を抜かしていた、フェイト領の役人達から、一斉に笑い声が溢れ出した。
「魔石にミスリル?それって凄く無い?」
「領地を建て直す目処が立ったって、皆んな喜んでたよ」
「そうなんだ。アル時々居ないと思ったら、
ちゃんと領主の仕事もしてたのね?見直したかも……」
「惚れ直した?」
「話を戻すけど……」
「お、おいっ!」
「へへっ……大好きよアル……」
〝プシュ〜〝アルティスが、真っ赤な顔でひっくり返った。
「何、驚いてるのよ?」
「俺もヒナ大好きニャ〜〜〜」
立ち上がったアルティスは、尻尾を千切れんばかりに振っている。
あれ?尻尾無かったんだっけ?アルティスは?
「なに猫になって、口とんがらせてキスしようとしてるのよ〜」
「イ・イ・ジ・ャ・ナ・イ・ノ誰も居ないし」
「や〜よ、猫とじゃね〜 ファーストキスが、猫となんて笑えないわ」
「キリッ!」
「どしたの〝キリッ〝とか言って?ゆるキャラ2頭身猫のままじゃない。
まさか戻れないとか……アハハハハハ」
「えっ?」
「あ、そうそう、話は変わるんだけど、今度の祝日、私に付き合って欲しいの。
南の隣国、ストゥール王国の王女エレノアなんだけど、彼女、私の友人なのね。
で、その日、あの子の15歳の誕生日で成人になるのよ。
お祝いのパーティーに出席するんだけど、貴方にエスコートして欲しいの」
「無〜理〜」
「も〜 チュ〜して貰えなかったからって、拗ねないの!」
「へへっ……そうじゃなくてね、その日はね、フェイト領の学校、最初の3校の校舎が出来上がり、開校するんだよ。
ちょっと外せないから、後で追いかけるよ。それで良いよね?
夜会までには、間に合うと思うからね。だからチュ〜してね」
「もう学校出来るの?仕事早いわね。分かったわ。なるべく早く来てね。
ストゥール王国迄は、転移装置ですぐ行けるからね。
夜会だけ出るんだったら、最初から正装で来てよ?
婚約するんだから、今後ちゃんとした服も必要になるわね?
私が貴方の服を、沢山揃えてあげるね。
貴方お金無いみたいだから……あ〜なんか楽しみ」
「チュ〜無視すんな〜!」
「夜会間に合うかな〜? ハートさん、正装お願い」
「もう用意出来ておりますよ?急ぎお召し替え致しましょう」
「アルよ!」
「あ、陛下。どしたのそんなに慌てて」
「陛下ではなく、父と呼ぶ様に言っただろ。
お前には親族がいないのだから、異例ではあるが、花嫁花婿共々、
我ら2人が、後見人になると決めたのだからな……って、
そうじゃなく、フィオナ達と連絡が取れんのだ。
定期連絡係が、転移装置で行き来するはずだったのだが、向こうの装置が反応せんのだ」
「ん?ちょっと待って……」
目を瞑り、集中するアルティス。
「ん〜ん?フィナの気配が、分からないな」
「いや、他国なのだから、そりゃ無理だろうに」
「フィナだけは、何処に居てもわかるんだけどな……嫌な予感がする……すぐ向かうよ」
「転移装置は使えんぞ。アルの転移も、行った事も気配も分からなければ、無理なんだろ?
空を飛んで行くと、どれくらい掛かるのだ?」
「南方の国だよね?先ずはハルステインの南端、マハヤの港町は分かるから〜
そこまで転移で行って、後は大勢の気配を辿って、転移を繰り返せば……
ストゥール王国の、王都迄いけると思う。ハートさんそこまでの地図お願い」
「アルティス殿ここに」
「兄上」「ハーゲンさん!用意がいいね。サンキューです」
「数分で行けるから任せて。 あ〜〜父上? なんかちょっと恥ずかしいな」
「うむ。頼む。 それと〝父さん〝の方が良いんだが…」
「ハハハ……じゃあリヴァルド父さん……行ってくる!」
照れくさそうに、頭を掻きながらアルティスが消えた。
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