第三話③
俺の目の前には、巨大なトロールが立っていた。
「くそっ!現れやがった!」
これがおそらく先ほどまで言っていたこの森に出る魔物だろう。
いきなりこんな風に出てきたのもトロールを知っていれば納得がいく。トロールは小人にも巨人にもなれるとされる怪物だ。いきなり巨大になれば、突然現れたことにも納得出来るだろう。
そんなことはいい、今はこいつの対処だ。とっととヴァストルートを呼びだすのも手だが、騎士がいる。こいつを活かしておくには....
「く、くそっ!相棒の仇、取ってやる!」
騎士はがむしゃらに剣を振るうが、トロールはそれを一払いに騎士を吹きとばす。
とてもじゃないが騎士には勝てない。
俺はハンカチを片手に騎士の元へ駆ける。
ヴァストルートを呼び出すなら.....
「ヴァストルート!出てきてくれ!」
俺はそう叫んだ途端に騎士の口にハンカチを覆う。
「お”お”いなに”じて——」
一気にここらに瘴気が充満する。
トロールは身を案じてか、すぐにサイズを替え、逃げようとするがもう遅い。
「トロールか、まだ生きていたのじゃなあ。感慨深いわい。」
ヴァストルートは瘴気でトロールを確実に捉える。
瘴気がさらに濃くなる。
トロールは反撃のために棍棒を振り回すがヴァストルートが蹴り飛ばす。
「目ざわりじゃ、消えろ。」
ヴァストルートは瘴気の濃さを一気に引き上げ、トロールに触れずに倒してしまった。
一瞬だったが、もし騎士があの濃さの瘴気を吸っていれば危なかった。
すぐさまヴァストルートはセリーナに戻って駆け寄ってくる。
「ブスジマさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、本名を...」
「ブスジマ!?お前っ」
「あんたは喋るな、まだ瘴気があるから。」
「ううっ、うぐっ!」
俺は騎士の口にハンカチを突っ込む。
ここで死なれたら騎士に聞き出すことも出来なくなる。
「とりあえず.....瘴気がある程度収まってから話そうか。」
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「なるほど.....お前らは王城の脱獄者だと。」
「ああ、こっちが言えることはもう言った。そっちが言えることも話してほしい。」
「お前さん、俺を拷問にでもかければそっちが情報を言わずに済んだだろうに。」
「どうせもうバレてるだろ?」
トロールを倒した後、俺は騎士を家の中に入れた。
確かに俺たちの情報を話す必要はなかったかも知れないが、相手もヴァストルートを見て何するかわからない以上、納得してもらうしかないだろう。
「まあ、状況については理解した。それに命を助けてもらった以上、あんたらに迷惑かけるようなことはしないさ。」
「それじゃあ、俺たちのことは黙っていてくれるか?」
「ああ、トロールに一人やられて俺が仇を取ったとでも伝えるさ。
あの嬢ちゃんのことは黙っておくぜ、命の恩人だ。」
「よかった.....じゃあ、そっちがなぜここに来たのか。どうしてこの村が無人なのか教えてもらおうか?」
「ああ、もともとこの森は魔物が多いことで知られていてな。
しかし、最近は魔物の量が増え続けている。この村に常駐していた戦士だけでは対応しきれなくなってな。収まるまで避難することになったんだ。
俺たちはその原因究明のためによこされたってわけだ。まさかトロールがいるとは思わなかったがな。」
「トロールはそんなに珍しいのか?」
「ああ、少なくともここ十年は見てない。魔物が活発になっていたのもトロールがこの森に来たからだろうな。
なんにせよ、俺たちだけでは倒せなかった。感謝しているよ。」
騎士によるとこのトロールのことを報告したら、2、3日でここの村人は帰ってくるらしい。さすがにそこの報告は免れないようだし、ここに長居は出来なさそうだ。
それに俺たちの脱獄の話はもう王国中に広まっているらしい。ここを出ていくときは少なくともセリーナはなんとかして隠した方がいいらしい。
そんなことを聞いた後、騎士は仲間の遺体を包んで帰っていった。
「ブスジマさん、私は役に立ったでしょうか?」
「騎士も言っていたぞ、『命の恩人』だって。
お前の瘴気は人を苦しめるかもしれないが、同時に人を救うことだって出来るんだ。」
「.....そんなふうに考えたこと、ありませんでした。
消えた方がいいって、ずっと思っていたので。」
「ヴァストルートの力は強大すぎるからな。
力を制御してくれるセリーナが必ず必要なんだよ。少なくとも俺には必要だ。」
「ブスジマさんはヴァストルートだけでも良さそうですけどね。」
「うっ、そんなこと言うなって。
セリーナも大事に思っているから、な?」
(私にはブスジマさんが必要ですけど.....)
「なんか言ったか?」
「いいえ、なんにも。」
「そうか?ならいいんだが。」
何はともあれ、ひと段落付いた。
もう日は暮れ始めているし、今日はここら辺までにしておこう。
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