第二話①セリーナ・ウィンガⅠ・ポイズンⅣ・ハーフドラゴン
「俺と、ここを抜けだそう。」
俺はセリーナに手を差し伸べる。
正直、抜け出して得するのは俺だけかもしれない。セリーナの持つ竜の力を借りてここを脱出する、セリーナのためと言うのは無理がある。
ただ、ここで死ぬまで一人でいるセリーナを見捨てられないのも確かだ。
セリーナはこれまで人が望むからといってたった一人でこの牢屋にいた。食事も許されず、ただ死ぬことを待っているだけ。そんな彼女を外に連れ出したかった。
電車での一件もそうだったが、俺は人がむざむざと死ぬのを見過ごせない。
生きることへの強い執念があるからこそ、他人の死が解せないのだ。エゴと言われてもいい、偽善と言われてもいい。目の前で人が死ぬ、知っている人が死んでしまう、それは二度と御免なのだ。
「勝手ですね.....あなたが生きていても死ぬ人は死にます。」
「だったらセリーナ自身が死ぬことだって悔やまれるべきだ。」
「そもそも、あなたが抜け出すのを手伝うだけじゃないですか。
一緒に抜け出そうっていう正義ぶった発言も気に食わないです。
それでも、私と抜け出したい言うんですか?」
「ああ、もちろんだ。」
「いったい....なんで.....」
「エゴだよ。」
「えっ?え、ご?」
「ああ、こっちじゃ伝わらないのか?
自分のためってことだよ。抜け出したい、生きたい、
そして......セリーナを救いたい。
救いたいってのも俺の気持ちだ、セリーナのことを考えてるわけじゃない。ただ、セリーナを見過ごせないんだよ。」
「......いきなり現れておいて、なにを......」
彼女は、泣いていた。
どうしようもなく、これまで吐き出せなかった感情があふれ出ているようだった。
いままで俺が言ってきた言葉だって、マンガやアニメの受け売りだ。かっこよく、こころに響く薄っぺらい言葉。それでも俺の気持ちをセリーナには伝えられたはずだ。
「何度だって言う、ここを抜け出そう。」
もう一度、俺は彼女に手を差し伸べる。
何もできない、なんの役にも立たない俺だ。チートスキルで戦えるわけでもなく、外れスキルを使ってぶっ飛んだことが出来るわけでもない。他人の力を借りることしかできない。
ただ、その他人を動かせるなら俺はなんだってやる。
毒耐性なんて毒ありきのスキルだ。毒竜が体に宿るセリーナと俺の相性は抜群、最高のヒロインのはずだ。まず、彼女にここを動いてもらいたい。それが俺の願いだ。
「本当に、あなたは死なないんですよね...?」
「ああ、なんせ毒耐性だ。
いまここに立っていられることが一番の証明だろ?」
セリーナは、手を俺に預ける。
「あなたに、ブスジマさんに、私を託します。」
セリーナは笑って、俺の手を握った。
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「それで、どうやって抜け出すんです?ブスジマさん。」
「明日、俺を出すためにこの牢屋が開く。
そのときにセリーナの持つ瘴気で騎士を気絶させよう。」
「.....自分は大丈夫だから人は殺せと?」
「いやっ、そうじゃなくて.....」
「冗談です、瘴気の濃度くらい調節できます。」
「そうなのか?だったら...」
「でも、長時間は出来ません。竜の力を抑え込むのだって力が必要ですから。
逆に、無理をしすぎれば竜の人格が私に代わって出てくるでしょう。」
「そんなのあるのか。」
「はい、ときどき私とも心の中で会話しますが、乙女なので出てきた時は優しくしてあげてください。」
「竜が乙女なのかよ....。」
「竜だって乙女です。私も乙女なのでブスジマさんの対応しだいじゃ八つ裂きにしちゃいます。」
「これは冗談で?」
「さあ、どうでしょう?」
不敵な笑みを浮かべるセリーナは、さっきとはまるで違った。
なにか、生きる目的でも見つけたように。
「じゃあ、その薄くなった瘴気で出来るだけ早く脱出しよう。
城の構造とかわかるか?」
「それも知らずに抜け出そうって......」
「悪かった、悪かったから!」
「ブスジマさんが必死なのはわかってますので、今更です。」
「えぇ....」
「さっそくですが、城を出るのには私の瘴気と、空を飛ぶ力を使おうと思っています。」
「空を飛ぶ?」
「はい、竜なので。」
そう言うとセリーナは腕に翼を生やした。
背中からでないところを見るとワイバーンかハーピーのようだが、これでもドラゴンらしい。
セリーナが翼をばさばさとするだけ強風が起こる。
翼の面積の効果以上の風だ。魔法かなにかが関わっているのだろう。
「何から何まで....ありがとな。」
「......!
ま、まあ何も出来ないブスジマさんですもんね。私が手を貸すのは当然です。」
セリーナは照れながら翼をバサバサする。
強風すぎて吹き飛びそうだ。
そのとき、牢屋の扉のほうからドアを開ける音が聞こえた。
おいおい待て待て、まだ“今日”のはずだ。
「ブスジマさん、殺されるのは明日じゃないんですかっ!?」
「俺にもわからない......どうなってるんだ?」
足音がどんどん近づいてくる。
俺は、セリーナの手を握る。
「俺から離れるな.....。」
「ふふっ、離れないでくださいでは?」
そんな冗談にも突っ込めなかった。
目の前に現れたのが、あの勇者だったからである。
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