99話 異変の前兆?
次の階層に移動すると理紗が一時間の休憩を申し出た。
「ちょっと魔力使い過ぎちゃって。レオ、白の絨毯出してくれない?」
軽食をつまみながら休憩するらしい。
理紗は宙に浮かぶ白の絨毯の上に横になると、うつ伏せで寝転がる。
そして突然飛び起きると……。
「レオ、この絨毯って最近使った?」
「夜、寝る時に使ってる。もしかして臭かったのか?」
理紗との勉強会の後、自分でも勉強を進めれるように睡眠時間を削って文字を学んでいた。
こいつの疲労回復効果は重宝していたんだが、仲間が使うことを考えていなかった。
その言葉を聞くと理紗は顔を赤らめる。
「……臭く、はないけど。何でもない! 気にしないことにするわ」
「いや、気になるなら俺がなんとかする。ちょっと待っててくれ」
【何でラブコメ見せられてんだよ俺たち】
【このプレイは逆も可能でしょうか? 自分、有り金全部溶かせます】
【拙者の使い古しでよければ】
【天誅】
亜空間から聖剣と身体を洗う用の壺を取り出す。
そして壺に魔力を込めながら傾けると、勢いよく水が流れ落ちる。
聖剣の力によって、流れ落ちた水は大きめの水球へと形を変えた。
「これでよし。とりあえず全部洗うか? こっちに来てくれ」
理紗たちがいる方に声をかけるが魔法の絨毯はこっちに来ない。
それどころか理紗や紬の後ろに隠れてしまった。
「あの、レオさん。この水って安全なの?」
「毒は入ってないぞ?」
その言葉を聞いて理紗と紬が背後にいる魔法の絨毯に語りかける。
そしてしばらく放置されると、紬が一つのショートソードを取り出してこちらに歩み寄ってきた。
あれは、俺がコーティングしたやつとは別のものだ。
「安全性を確かめられないと入れないって。レオさんも魔法の絨毯が破けちゃったら困るでしょ?」
……それもそうか。
今まで肌着は手洗いで済ませていて、このやり方は自分の体を洗う以外には使ってはいなかった。
絨毯が傷んでしまったら元も子もないなと少し反省する。
「分かった。じゃあ何で剣なんか持ってるんだ?」
「ん? それは簡単だよ。こうするの」
紬が右手で握っていたショートソードを水球に投げ入れる。
すると水球の中を移動する剣に変化が起きた。
【……おい。剣が削られていってね?】
【何これ? 勇者の力加減間違えた?】
【モンスターを放り込んだら仕留められそう】
「一応聞いておくけど、デスパレード中、レオはこの中に入っていたのよね」
「いや、あの時はこいつの機嫌悪かったからもっと激しかったな」
「今の光景を見て魔法の絨毯に洗濯を勧められる?」
「…….すまんかった」
理紗の追及に大人しく頭を下げる。
だが魔力の回復は疲労回復効果も高い、白の絨毯の専売特許。
状態異常回復の特化の緑ではあまり回復は見込めない。
理紗は緑の絨毯で休んでもらって、休憩時間を伸ばそうとしたのだが断られた。
「わざわざ回復が遅い方で休むのは非効率よ。私はこれでいい」
「だけどそれが臭うんだったら……」
「臭わないから変な心配しないの!」
理紗の勢いに押し切られて頷いた。
紬が用意してくれた食事を食べ終わると、理紗のところから寝息が聞こえてくる。
「レオさんも休んだら?」
疲れてはいないが、俺一人で攻略してしまうと理紗たちの修練にならない。
だけど一時間の休憩の間、何もしないのも勿体無いな。
土人形を取り出し二体の土兵を召喚する。
扉とランドマーク持ちの調査を頼むと、洞穴に向かって駆け出して行った。
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理紗はなにか寝言を言いながら眠り続け、紬も緑の絨毯の上で膝を抱える形で眠っている。
ダンジョンカメラの配信は切っているから、二人の寝顔が全国に晒されることはないだろう。
休憩に入って三十分は経ったくらいだろうか。
洞窟の先に奇妙な魔力の流れを察知する。
……無意識のうちに殺気を送っていた。
聖剣を手に、静かに洞窟の先を見据える。
「──痛っ! もう最悪!」
どうやら理紗が絨毯の外に落ちたらしい。
ぶつけたのかお尻をさすりながら立ち上がる。
その声にびくりと紬が反応した。
「あら……寝ちゃってた。どうしたのレオさん、怖い顔して。何かあった?」
「いや、どうだろうな。洞窟の先に何か変な気配を感じたんだが……」
その気配も今は消え去ってしまっている。
俺の勘違いなのだろうか?
だが一向に戻ってこない土兵が、俺の疑念を確信に変える。
探索を開始して、土兵だったものの残骸は見つけることができた。
活動限界の距離の遥か内側。
そこで粉々になった状態で地面に打ち捨てられている。
【ミミックの報復じゃね?】
【勇者に勝てないから、土兵に八つ当たりした?】
【この階層のモンスターが土兵を破壊するのって無理だよな?】
【多分きついかも。マッドドックの方が力あるはずだし】
【勇者ミミックに呪われてるよ。教会に行って聖水もらわないと】
その後の探索は理紗の提案で、三人一緒で行動していく。
土兵がこんな壊れ方をするのは不自然で、イレギュラーの出現の可能性もある。
警戒しながら進んで行くが、それ以降は何も起きずに、三十一階の探索を終えることになった。
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