97話 生きとったんかワレ
その後探索を続けるも結果は出ず、数十個の魔石と、スケルトンが落としたぼろぼろの槍が一本手に入っただけ。
体感時間にはなるがそろそろ約束の時間が来そうだ。
一度広間に戻ると理紗たちも帰ってきたところだった。
「レオさん! ランドマーク持ちと次の階層までの扉見つけたよ」
「……そうか、良かったな」
嬉しそうに伝えてくる紬に少し落ち込みながら返す。
何の成果も得られなかった。
そんな俺を見て理紗が声をかける。
「あなたは何を見つけたの? そっちの収穫も教えてよ」
【優しいな炎姫。コメント見て知ってるはずなのに】
【勇者の収穫は、常に誰かが勇者についてあげた方がいいって分かったことです】
【配信が健全なものになるものね】
……収穫か。
スケルトンの魔石は理紗も持っていることだろうし数だけ大雑把に説明。
そして本命の宝石を取り出す。
「落ちてた宝箱から拝借したんだ。これがあと八個ほどある」
「落ちてた、ねえ……」
「レオさん、多分それはミミックって呼ばれるモンスターだよ」
「何? やっぱりそうだったのか」
魔力の流れが他のモンスターと違って少し歪だったから、判断しきれなかった。
それなら後は次の階層に移動するだけだったんだが……。
「ミミックのいた場所に案内してよ。止めをささないと」
「良いもの落とすのか?」
「違うのよ。あなたが取り出した宝石は多分、階層跨ぐと消えてしまうわ。スケルトンが持っている武器と一緒。ドロップしたものでないと持ち帰れないのよ」
じゃあ俺の行動は無駄だったのか。
ミミックの特徴は宝箱に化けており、深い階層に出てくるものほど、本物と見分けがつかないくらいに隠蔽が上手いらしい。
姿を表すのは宝箱を開けようと前に立った時だけ。
同階層に出てくるモンスターより強力な代わりに、大きめの魔石とドロップアイテムを確定で一つ落とすと言う。
ミミックを倒せば俺が回収した宝石は消えてしまうが、どうせ階層移動でなくなるはずのもので、惜しくはない。
今からそのドロップアイテムの回収に行くのだろうが。
「もしかして俺がさっきやってた肉の回収も……」
二人がばっと目を背ける。
「あれも無駄だったのか」
「……多分そうだと思う。今まで試した人はいなかったから正確には分からないけど」
「でも! 新しい発想は大事だよ! レオさんは疑問に思ったことがあったら私たちに話してね」
二人の慰めが辛い。
意気揚々と豚のモンスターを解体していた俺を、どんな気持ちで見ていたのだろうか。
やがて目的地であるミミックと出会った広間に着いた。
理紗は赤の絨毯の上で警戒し、紬は翼を作り出して宙に浮かぶ。
「何もないわね。どこにあったの?」
「真ん中に置いてあったんだがなくなってるな」
「何か落ちてる。ガラス瓶みたいだけど」
三人で紬が指差した方向に向かう。
突き当たりの壁際。
そこには無数の引っ掻き傷のようなものが浮かんでいた。
壁前に落ちているガラス瓶には薬品のようなものが入っている。
【ミミックが家出した?】
【どう見てもドロップアイテムだろこれ】
【魔石は落ちてねえのな】
【それならミミックの宝石は勇者みたいに回収すれば手に入るってこと?】
【ミミック業界に激震が走る】
よく分からないまま来た道を戻り、扉がある部屋に入っていく。
理紗は扉の位置の確認だけして戻ってきたらしく、フロアボスはまだ討伐されていないらしい。
扉がある部屋に三人が足を踏み入れると、広場の中心に光が集まっていく。
見慣れたフロアボスの出現の兆候。
理紗が魔力を練り直し、紬も状態異常から守る魔法を理紗と紬本人に施した。
光が収まった時、見覚えのある宝箱がガタガタ震えながら置かれていた。




