96話 お宝入手は探索の醍醐味
さっきからコメントの量が多いが、あちらで何か進展があったのだろうか?
どちらにせよ一時間後に分かることだが、扉を見つけられなかった代わりに、お宝を持って帰ったら二人も喜んでくれるはずだ。
赤黒い宝箱は外周部に宝石が取り付けられており、箱の後ろから枯れ木のようなものが出ている。
最悪、この箱を持ち帰ることができたら御の字。
装飾品としてでも中々の金になりそうだと、小さく笑みを浮かべる。
【待って! 早まるな勇者!】
【炎姫に誰か伝えろ! ミミックは打たれ弱いけど攻撃力はかなり高いぞ】
【伝えたけど無駄だった。それと炎姫からの伝言。気が弱い人は今すぐ見るのを止めるのをお勧めするってさ】
【どう言うこと? 勇者が怪我するかもの状況なんだぞ】
宝箱に手をかける。
すると宝箱の後ろから出ている枯木のような物体に変化があった。
老人のような細く萎びた手足に変わり、立ちあがろうとするが……。
【あれ? 何が起きてる?】
【動かねえっ、てかこれ勇者が押さえつけてね?】
【すげえ必死でもがいてんな】
【嫌な予感がするぞこの流れ】
何故か動き出そうとした宝箱を上から押し込めると、今度は宝箱の中からギチギチと音が聞こえる。
中を開けて確認すると無数の牙が並んでいた。
「こいつもモンスターなのか? いや、でも理紗はスケルトンしか出てこないって言ったしな……」
宝箱の口を両手で閉じる。
その間、宝箱から伸びた手が、ポカポカと俺の体を叩いてくるが無視して考え込む。
【俺の心配返せよ!】
【勇者が今から何するか賭けようぜ】
【宝箱ごと炎姫の元に持って行くに百円】
【ミミックの攻撃に苛ついた勇者が叩っ切るに千円】
もう一度中を開けて確認するが、箱の底は影に覆われて確認することができない。
力を緩めると宝箱は、俺にじゃれつくように開閉を繰り返す。
……少し可愛げがある気がしてきた。
「誰かこれを飼ってるやつはいるんだろうか? 金持ちは手間がかかるペットの方が好んでいると聞いたことがあるが……」
あちらでは貴族の一部には力を示すために扱いの難しい生き物をペットにしていた者がいた。
探せばこちらでも何人かはいるはずだ。
【どこ情報だよそれ】
【知り合いがミミック飼ってたら縁切るわ】
【ミミックのパンチも全く効かないのな】
残念なことに、この宝箱は俺の亜空間に収納出来ないようだ。
持ち帰るにはこのまま持って帰るしかない。
なんだか俺に懐いている気もするし、魔法の絨毯に包んで持って帰るか?
試しに取り出して聞いてみることにすると。
「こいつをお前に包んで持って帰ろうと思うんだが……」
言い切る前に白の絨毯は入り口近くに逃げていく。
どうやらこいつは嫌われたらしい。
【やめたげて! 絶対暴れるから!】
【これは炎姫の元に持っていくが正解か? 賭けは俺の勝ちだな】
【魔法の絨毯が拒否してるからまだ正解じゃないよ】
【そもそもミミックを持って帰ろうって発想がおかしい。触れるな危険の代名詞だぞ】
だが勿体無い。
少なくとも箱の周りについてある宝石には相応の価値があるはず。
可愛いと思った手前、なんだか申し訳ない気もするが手短に処理していくことにした。
【宝石をもぎ取ってる?】
【ミミックってこんな悲鳴あげるんだな】
【うちの犬がビビって吠え始めた。ペット飼ってる人はイヤホン推奨】
【人間って残酷ですね】
【一緒にしないで】
あらかた取れたか?
途中、ぎいぎいと鳴いていたが今は大人しくなった。
落ち込んでいるのか、ほとんど動かなくなった宝箱を置いて、来た道に戻る。
そして次の道への探索を再開するのだった。
【相手がミミックでも心折れたとこ見ると胸が痛くなるな】
【絶対的強者による搾取】
【炎姫の閲覧注意は正しかった!】
【正解は生きたままミミックの宝石を取り出して、そのまま置いて帰るでした】
【分かるわけねえだろこんなの!】
【賭けに負けた人は勇者に投げ銭しなよ】
【哀れミミックは宝箱としての役割を全うした】
……お宝ゲットだぜ?




