94話 階層移動
ヴェノム種の魔石を紬に放り投げる。
毒は特に効果はなく、少しばかり不快な気分になるだけだった。
かといって安心はしていられない。
階層が上がっていくとこちらの耐性を貫通してくる毒はあるだろうし、勇者の加護である二度目の毒の無効化がこちらで通用するかも分からない。
「低階層のモンスターが作り出す毒は問題なかった。解毒も必要ない」
【中層は低階層じゃないぞ。上層をメインに探索している人に謝れ】
【中層は低階層だろ。罠もほとんどないし】
【階層マウントですか? なら勇者に勝てる奴はいないな】
【デスパレード? 強力なドロップアイテムが手に入る良イベントだろ】
【最強で草】
豚のモンスターを処理しつつ、紬と理紗は屑魔石を使いながら、魔力操作の練習も並行して行っている。
どうやら理紗も紬に先を越されたのが悔しいらしく、紬の煽り文句をまともに受けていた。
「りっちゃんの魔石は明るくて綺麗だね。夜、ベッドの側に置いておいたら?」
「ちょっと出来るからって調子に乗って……。今に見てなさい! 私の方が先に身体強化までいくんだから!」
【ベッドの側には俺を置いてくれ】
【ナイフ使ってダーツやろうぜ】
【それは……ご褒美なのか?】
【強者すぎだろ】
【ネットでちらほら成功例出てきてるな。炎姫のSNSで魔石コーティングも魔力量の制限いらないこと分かったし。世界変わるぞこれ】
【前衛の天下くるか!】
【みんなで空飛ぼう!】
【非常識勇者は、一旦別のところに置いておこうか】
二人のじゃれあいを横目に見ながら、俺はランドマーク持ちと次の階層への扉を探す。
ランドマーク持ちはすぐに見つけることができた。
豚のくせに木の上で隠れるようにしてじっとしており、落ちていた石ころを投げつけて始末する。
残りは次の階層への扉を見つけるだけなんだが、一向に見つからない。
聖剣の力で全ての木を伐採してやろうか、と考えていた時だった。
「──レオ! あったわよ」
遠くから理紗の声が聞こえる。
声の先に歩いていくと理紗が一際大きな木を指差していた。
「どこに扉があるんだ?」
「後ろに回って見なさい。びっくりするわよ」
指示に従い、大樹を回り込むと……。
「この木自体が扉なのか。でもさっきはこんなことにはなってなかったぞ」
木には扉の紋様が浮かび上がり、俺が近づくと音を立てて開いた。
ここはさっき通ったはずだ。
こんな扉を見逃すようなヘマをした覚えはない。
「ギミック型だったようね。一定量のモンスター討伐が引き金となって扉が出現したんだと思うわ」
「りっちゃんが魔力操作全然出来なくて、魔石投げ飛ばした時に偶然見つけたんだ。見つけたお礼なら、魔力操作失敗したりっちゃんに言ってあげて」
「──この紬! 何でそのことを言うのよ! 偶然見つけたでいいじゃない!」
「本当のことを伝えないと。僕たちはパーティーなんだから……」
笑みを浮かべる紬に理紗が詰め寄るも飄々とした態度で受け流される。
そして俺を先頭にして開かれた扉の中に入る。
次の階層はガラリと雰囲気が変わっていた。
パッと見た限り洞窟のように見えるが、その規模は桁違いに広かった。
枝分かれした道。道幅は俺が手を広げて、10人は通れるほどだ。
薄暗く、壁に取り付けられている蝋燭と発光している虫が視界を照らしている。
「この階層の敵自体はそんなに強くないんだけど、正解のルートを見つけるのが大変なの。だからレオと私たちで別れて探索することにしましょうか」
そう言うと理紗は探索の説明を始めるのであった。




