93話 ヴェノム種
理紗は、俺にモンスターを近づけてなるものか、とばかりにモンスターを処理していく。
豚のモンスターは体格こそ立派だが、頭が悪いらしく、理紗の魔法を気取ることすらできていない。
猪突猛進の豚の突撃に合わせて、あらかじめ魔法を待機させておくだけ、それだけでモンスターは地面を転がっていく。
攻撃を受けた豚のモンスターは頭が別の場所に転がっており、爆撃で肉の焼けるいい匂いがふわりと広がった?
「この匂いを嗅いでいると、お腹空いてくるな」
「私はさっきの光景が頭から離れるまでは何も食べる気しないわ」
「……僕も。レオさん、これ食べていいよ」
紬はアイテムボックスから握り飯を取り出すとこちらに手渡す。
ギルドの中にあるコンビニに売っているものとは違い、可愛らしい小包に入れられていた。
【おにぎり? 手作り?】
【誰が握った? 聖女か? 聖女のお母さんであってくれ!】
【聖女のお母さん……有りだな】
【熟女好きもいます】
「美味い。ありがとう紬」
「どういたしまして。喉に詰まらないように食べるんだよ」
保護者のように伝える紬。
俺はおにぎりを頬張りながら、ランドマーク持ちを探すべく周囲を見渡した。
マッドドッグのいた階層とは違い、大木のせいで遠くを見通すことはできない。
地道な作業になりそうだと思っていたところに、何かが近寄ってくる気配を感じる。
「理紗、お客さんだけどどうする?」
「見えてないのによく気がつくわね。私がやるからあなた……」
理紗は俺が指差した方向に向き直りながら魔力を練る。
そして大木の裏から出てきたモンスターを見て動きが止まった。
相手は豚のモンスターだが、その体型は酷く膨れ上がっていた。
足の短さと合わせると、風船が歩いてきているようにも見える。
「蹴り飛ばしたら起き上がれないんじゃないか?」
そんな俺の言葉に理紗は反応せず、豚のモンスターから離れるように飛び退る。
「紬!」
「念の為レジストかけ直す!」
理紗の言葉よりも先に、紬は魔法を発動していた。
先程と同じように光の玉が理紗と紬に吸収される。
ということは……。
「こいつがヴェノム種か」
「どうするのレオ。試すって言ってたけど?」
「やってみるよ。二人は離れていてくれ」
【その前に握り飯頬張るのやめろよ】
【アイテムボックス使えるんだったら仕舞えるでしょ】
【意地でも完食しようとすんのな】
【ヴェノム種の前で早食い披露。馬鹿にしてんだろこれ】
【他のやつがやったら危険な真似をして人を集めるくそ配信者だけど、勇者がやったらよく食べててえらいねってコメント流れるのまじで……】
【勇者可愛く見えてきた】
魔物はこちらに威嚇するように唸り声を上げる。
そしてただでさえ大きな体を膨張させると、大きく息を吐き出した。
息には微量の魔力がこもっており、これが毒を持っているのだろうが。
くそっ……タイミングが悪かった。
「息が臭いな」
【絶対感想それじゃない】
【あなたは今毒を浴びています】
【純粋な海外ニキ。そのままの君でいてね】
【私は今、毒を浴びた勇者を見ています】
【お前は日本人だろ。誤魔化されねえぞ】




