92話 天才的発想 勇者のIQ200 もう誰にも止められない
二十九階は身幅の大きい大木があちらこちらに生えていた。
視界の端に、大人ほどの大きさのブタがうろついている。
「ここからヴェノム種がランダムで出てくる。紬! 私に守りのヴェールちょうだい!」
「分かった!」
紬はそう言うと手のひらを持ち上げ、口元まで持ってくる。
手のひらの上に光の玉が生まれると、紬は息を吹いて理紗に飛ばした。
光の玉は理紗の体の中に入っていき、全身を薄い光が覆う。
「それで状態異常を防げるのか?」
「時間制限はあるけどね。魔法を変えたら防御力を上げたり、体力を回復させたり色々できるけど、この使い方が多いかな」
身体強化を使えない戦士の防御力を上げたところで、相手を倒せるまでにはいかないだろう。
前衛は時間稼ぎに徹していたと言っていたしな。
「レオさんには使わないよ。それでいいんだよね?」
「駄目そうだったらその時に回復してくれ。多少毒を食らったところで危険になるような鍛え方はしてない」
【普通、毒を食らったら危険になるんです】
【常識の敗北】
【前衛ってのは毒を食らっても普通に戦える人のことを言うんだぞ】
【前衛の風評被害やめてください。毒を食らったら回復が必要。相手の攻撃をまともに受ければ怪我を負う。これが前衛です】
【前衛はか弱いんだよ。打たれ弱いんだよ】
【本職の探索者が全力で自虐してて笑う】
巨大な豚のモンスターは鼻息荒くこちらに突進してくる。
「こいつはヴェノム種じゃないわ。私が倒そうか?」
「いや、調べたいことがある。俺に任せてくれ」
一歩前に出ると理紗は赤色の絨毯の上に座り込む。
紬は理紗の元で待機して様子見するようだ。
肉をドロップする特殊なダンジョンがあると聞いた時に、ふと思ったことがある。
他のダンジョンではどうなのか?
モンスターを殺したら魔石に変わるのは理解した。
では仕留めなかったらどうなる?
【……悪魔の所業】
【子供が見れなくなってんじゃんかよ。勇者何してんの?】
【死なない程度に解体してる。もう一度書くぞ。死なない程度に解体してる】
【足を切り落としてアイテムボックスに仕舞ってる】
【なんで満足そうな表情してんだよ】
【戦闘シーンなら普通に見れるのにこの抵抗感はなんだろうか】
【牧畜の仕事の人、大変な仕事をありがとう】
「あの……レオ?」
「どうした、そんな顔して?」
「痛めつけたいわけじゃないのよね?」
どこか青ざめた表情の理紗がこちらに聞く。
「ダンジョンで肉はドロップしないって言ってただろ。でも、殺さなかったら肉を回収できるんじゃないかって思ってな」
殺さなければモンスターは消えない。
だからこいつをどこかの木に縛り付けておけば、肉を回収できるのでは?
そんな考えで編み出した秘策。
二人も喜んでくれるだろう。
【消えちゃった】
【どう見ても失血死ですね】
【豚公どうか安らかに……】
【ねえ、本当に勇者? 魔王でもその発想しないよ】
……なんということだ。
横たわっていた豚のモンスターが小さな魔石に変わってしまった。
案の定、亜空間に入れてあった前足も取り出すことができなくなっている。
「これは俺一人では処理出来んかもしれんな……。理紗、切断した断面を焼いて血を止めれないか? それか紬が傷を回復させて……」
「──大丈夫! 大丈夫よ。そんなことしなくても、肉が欲しいんだったらいくらでも買ってあげるから。だから少し大人しくしときなさいね」
「あの……レオさん、次に何か変なことする時は一言どっちかに相談してね」
切実な表情を浮かべて頼んでくる二人に圧倒されて頷く。
その後、次々に襲ってくる豚のモンスターは、俺の元に到着する前に、理紗の魔法によって倒されていった。
お陰様で日間ランキング継続中です。
面白いと思われた方、下の⭐︎から評価のほどよろしくお願いします。




