90話 勇者ジョギング中
「昨日に引き続き探索していくよ」
配信を開始したってのに紬しか声を上げていない。
俺は特に会話することがないし、理紗は流れるコメント欄を眺めていた。
【配信待ってた!】
【勇者のこと出待ちしてたけど会えなかった】
【ストーカーもいます】
【ダンジョン前凄い人だかりだったね】
「出待ちしても受け答えしないからやめてね」
「そんなことしたらレオさんいつ帰れるか分からないよ」
理紗の言葉に紬も同意する。
そしてカメラに向かって今回の探索の内容を理紗が説明を始めた。
「今回はとりあえず三階層は更新したいかな。今のところはその予定。後は次から出てくる状態異常持ちだけど、レオが紬の魔法無しで試してみたいらしいの。危なくなったら回復させるから、みんなそのつもりでいてね」
【確かに下層のフロアボス殺せる毒を耐えれるような体には必要ないか】
【ヒーラーが必要ない探索ってのも珍しいな】
【万が一があるからわざわざそんな危険なことしない方がいいけど……】
【死んだら教会で蘇生させてもらったらいいだろ】
【ゲームかよ】
二十六階の扉を開けてすぐさま次の階層まで移動する。
速さは理紗が乗っている赤色の絨毯に合わせて約三十分ほど。
ランドマーク持ちの魔物を狩っているからこそ、この速さで移動出来るようで、それがないと扉まで最低でも四倍は遠くなるらしい。
扉の方向は把握しているため、理紗の魔法と俺で襲ってくる魔物を排除しつつ向かう。
落とした魔石は紫の絨毯に乗っている土人形がしっかり回収していく。
【あの……何故に勇者は走っているんでしょうか?】
【人形が楽して移動しているのに、主人が肉体労働。ホワイト企業だな】
【投擲の道具にされるのに?】
【昨日のことを忘れているかのように仕事を全うする、健気な幸子と運子】
【名前付けやめれ】
「レオさんが走っているのは、鈍るのが嫌だからって言ってた。最近、体動かしてないから余計に、らしいけど……」
「私たちが走らせてるわけじゃないから勘違いしないでよね」
【体を動かしてない、だと……】
【デスパレードに巻き込まれたでしょうよ】
【これ以上前衛のハードルを上げるのはやめてください。お父さんもこれ出来るって聞いてくる娘のキラキラとした視線が辛いんです】
【お父さんなら出来るよ!】
【勇者の被害者多いな】
【ハードルの高さ宇宙くらいまで上がっちゃったから……】
【……夢の中でなら、出来るよ】
【俺も妄想の中でなら】
「みんなも大変そうだね」
「憧れるのはいいけど、レオになりたいって考えるのはやめといたほうがいいわよ。ある意味チーターみたいな人だから」
「俺に憧れるって、俺なんか大した人間じゃないぞ」
理紗の方を見て告げる。
こちらに走ってきているマッドドッグ目掛けて石を蹴り飛ばすと、マッドドッグは穴だらけになり魔石に変わった。
【ほら、もう武器も使ってない。お行儀が悪いですよ勇者くん。せめて武器は使ってあげて】
【いいもん。前衛の力で負けても、サッカーの腕前なら勝てるもん】
【ボール破裂するからな。でもその自信悲しくならないか?】
【缶蹴りならワンチャン】




