87話 帰還前の話し合い
「じゃあ今日の配信はこの辺で。後は帰るだけだから配信切るわよ」
「みんなも一緒に練習しようね〜」
理紗はダンジョンカメラに軽く手を振りながら配信を終わらせる。
紬も屑魔石をダンジョンカメラに見せながら配信を切った。
これは俺も何か言った方がいいのか?
「……身体強化を鍛えたら水の上くらいは走れるようになる。船酔いする奴はそっちの方が楽かもしらんぞ」
紬のように愛想を振り撒くのは少し抵抗があったので、身体強化のいいところの宣伝をやっておく。
【水の上くらいはって、そりゃあんた空走ってるけどさ……】
【海外勢から忍者呼ばわりされてるからな】
【おつした! 今日は有益な情報感謝】
【頑張って屑魔石で練習します】
【もう値段上がってるから屑魔石なんて呼べないぞ】
【まじで? 知り合いに融通して貰おう】
ダンジョンカメラの配信を切って亜空間に仕舞うと理紗がこちらに歩いてきた。
「理紗、すまんな」
「なんで謝ってくるのよ。気持ち悪いわね」
突然の俺の謝罪に理紗はこちらを茶化すように返してくる。
今日の探索予定は階層数で決めていたわけではない。
帰宅時間が十七時ごろになるように予定されていた。
理紗と紬の練習に時間を割いたといっても、まだ十五時にもなっていないだろう。
こんなに早く切り上げたのは何か別の要因があるはず。
「早く切り上げるのは俺のためだろ? 謝るのは当然だ」
「……何でこんなことはすぐ気がつくのよ。あなたは言っちゃ駄目なことは言ってないから気にする必要はないわ」
理紗が早めに切り上げた理由を説明する。
ダンジョンの前に自分の武器をコーティングして欲しいと、集まってくることを危惧していたようだ。
……その考えはなかったな。
エアリアルでは俺が何かしたものを、好き好んで使おうと考える人はいなかった。
「武器のコーティングはあくまで魔力操作が出来ない奴のためのものだぞ。自分で強化出来る人にとってはむしろ邪魔になりかねん技術だ」
常に魔力を吸収され、一定の力しか強化されない。
部分的に強度を高めようと魔力で強化しても、それが塗り込んだ箇所に適応されてしまい、普通より余分に魔力を使ってしまう。
エアリアルでは魔力強化が出来る前提で、刃先だけをコーティングする者もいたが、魔力による強化が出来ない人には無用の長物。
刃先を強化するためには、まず持ち手をコーティングして魔力が流れるようにしないといけない。
こちらの問題点は配信で説明したはずだが……。
その話をすると、理紗は難しい顔をする。
「多分それでも人が減ることはないと思うわ。楽に武器を強化出来るってなるとね……」
「魔石とレオさんの魔力だけでいいってなると、図々しい人は押しかけてきちゃうかも」
「紬のような回復魔法だったらある程度の相場が決められているんだけど、新しい技術だからね……。相場が決まるまでに押しかけて得をしようって輩もいると思うわ」
理紗と紬が話し合い、判断材料が少なすぎるということで、しばらくはコーティングの依頼は受けないようになった。
安すぎると後で問題になるし、高すぎると恨みを買いかねない。
それに一部の人にやると、他の者たちから不満が出る。
一刻も早くコーティングが出来る人が現れるといいが……。
「屑魔石のコーティングって結構魔力使うんだよね?」
「紬だと一度に五回が限度だろうな」
紬の問いに答える。
紬と理紗は魔法使いで、身体強化も使わない前衛と比べると、魔力容量も鍛えられている。
だから前衛が魔力操作出来るようになったとしても、そんなに数をこなせるとは思えない。
「これは言ってなかったんだが、小さな箱に屑魔石を入れてその周りに普通の魔石を敷き詰めると、魔力が抜ける量を抑制出来る」
「一度に魔力を込めきれない人はそれで代用出来るってこと?」
「余計に金がかかるけどな」
「じゃあ魔力操作だけ出来たら後は何とかなるんだ。それなら案外供給は増えそうね」
魔石は使いきれないくらい余っているから、と理紗が呟く。
その後はゲートを開き帰還する。
情報を公開して二時間程度だから、今日はまだ楽に帰れるだろう。
この時ばかりはそう思っていた。
お陰様で先日、ブクマ1000を達成することが出来ました。
感無量でございます。
記念と言っては何ですが、今日の夜もう1話追加で投稿しますのでお楽しみに。




