83話 土人形の戦闘
「帰るまでに三階層は進みたいわね。私のせいで時間潰しちゃってごめんなさい」
「焼肉でいいぞ」
理紗の言葉に、紬も申し訳なさそうな顔をする。
そんな二人を見て短く告げた。
元より彼女と探索を続けるのなら、二人の魔力量の強化のために、階層を進み続けるだけでは足りないだろう。
どこかで足踏みをしなければならない。
「虫以外でお願い」
理紗は俺の言葉の意図を読み取ったのか、浅く肩をすくめて返答する。
次の階層に続く扉は見つけている。
だから後はこの階層にいるランドマークを倒すだけ。
「少しこいつを試していいか?」
「人形を使うの? 魔力の無駄じゃない?」
「大した消費じゃない。こいつがどれだけやれるか知りたいんだ」
亜空間から取り出した土人形を見て、理紗が不思議そうに聞く。
「……僕の魔力半分持っていったんだけどな、それ」
俺が土人形を二体召喚したのを見て、恨めしそうに紬が呟いた。
【どのくらいの戦闘能力あるんだろうな】
【心なしか人形も嬉しそう】
【どっからどう見ても無表情なんだが?】
【これ召喚するのに聖女の魔力半分持っていかれんの?】
【売ったとしても買い手いなさそう】
人形は左手に盾、右手にそれぞれ剣と槍を持っている。
こいつらが出された命令に対してどれだけ融通が効くかどうか。
それが知りたかった。
「あっちに光るモンスターが一匹いる。それをお前らで始末してきてくれ。剣兵は邪魔なモンスターの排除。槍兵は守りに徹するように。敵にやられそうだったら俺の命令は無視して構わん」
俺の命令を聞いて二体の人形は指差した方向へと走っていき、二匹のマッドドックと戦闘になった。
剣兵がマッドドックに突撃し、槍兵がその後ろにぴたりとついていく。
剣兵に飛びかかるマッドドックに対して、槍兵が盾で弾き飛ばす。
マッドドックは小さな悲鳴を上げて、地面を転がる。
力では土人形が圧倒している。
遠見の魔道具を使って戦況を確認していた理紗が呟く。
「何か変な感じがする」
「攻め手の技術が拙いんだ。防御に徹している槍兵と比べると雲泥の差だ」
マッドドックは、ジリジリと距離をとって攻撃の隙を伺っていた。
あらかじめ指示を与えられていた剣兵が攻撃を仕掛けるも、背後に逃げられて間合いの外に逃げられる。
土人形は人型だ。
追い立てるにしても、マッドドックのような速度は出せない。
【お前の勝利に賭けたんだ! 負けるな!】
【……何でも賭け事にすんのな】
【人形系の魔道具は、範囲外に出ると動けなくなるぞ】
【マッドドック程度の衝突ならびくともしないんだね】
【他の所有者も近くに置いて弾除けみたいに使ってるもんな】
俺の横でコメントを眺めていた紬が口を開いた。
「あんまり離れすぎると動けなくなるかも」
「それならそれでいい。戦闘能力も大体分かったしな。今後は落ちてる魔石を拾い集めてもらおう」
土人形が作り出した兵隊には活動出来る範囲がある。
それは鏡花からの説明で聞かされていた。
これは実際の距離に応じて決められているので、空間拡張でされているギルドの訓練場ではそもそも確認が取れず。
外で確認することなんて出来なかったため未だ正確な範囲が分からずにいた。
「りっちゃんも私も基本的に空中で行動するから仕方ないか……」
空を飛ぶ二人を守るような立ち回りは、土人形には難しい。
紬も納得したようだ。
長引く戦闘。
マッドドックの前に立っている存在が人間なら、もっと早く終わっていただろう。
鏡花の調べでは、人形と人では敵意の向けられ方が違うらしい。
そこで剣兵が驚くべき行動に出た。
【剣を投げた?】
【仕留めきれてない】
【俺の五万が!】
【盾があるからやられはしないと思うけど】
剣はマッドドックの背中を軽く切り裂いて、地面に突き刺さる。
好機と思ったのか二匹のマッドドックが、盾しか持たない土人形に詰め寄った。
土人形も盾を構えて迎え打つ。
バックラーより一回り大きい程度の盾では、二匹を止め切ることは出来ない。
怪我を負っていない方のマッドドックが、土人形の持ち手に喰らいつこうとするが、その前にマッドドックの頭に槍が突き刺さった。
ダンジョンに関しても空間拡張はされていますが、人が使っている空間拡張よりも遥かに高度な力のため距離制限に引っかかってしまいます。




