80話 魔力操作
【この力って生きてる吸精種相手にも使えるの?】
【使えたら魔法使い殺しに対抗出来るようになるのか】
【聞いてくれ炎姫】
「レオ、この力って吸精種のドレインも防げるの?」
「雑魚なら防げる……が、高位の相手なら精々、吸収量を弱める程度だ」
この魔石を持っている魔物は、他者から魔力を奪う力を持っている。
魔力の奪い方は各自バラバラで、触れた対象から奪うものもいれば、特殊な力場を生成して、そこにいるだけで魔力を奪い取るような力を持つものも過去には存在した。
「そんなうまい話はないか……。でもいいこと知ったな。なら尚更出来るようにならないと」
何故かこれまで以上にやる気に満ち溢れている理紗は、真剣な眼差しで少し離れた場所で練習を再開する。
確かに魔法使いにとって吸精種は厄介な存在だろう。
魔法の通りが悪く、場合によっては相手を回復させてしまう。
だが奴らにも弱点はあった。
「吸精種は総じて体が脆い。戦士の一人くらい連れて行けば楽に処理できるぞ」
「それは無理だよ。吸精種が出てくる階層までついてこれる前衛なんて中々いないよ」
紬が苦笑いを浮かべながらこちらに歩いてくる。
「吸精種はりっちゃんの階層更新を阻んだ相手だからね。本気にもなるよ」
理紗はほとんどソロか紬の二人で探索をしていたと言っていた。
身体強化も使えない非力な体じゃ殺しきれないか……。
「その時だけ前衛を雇おうとは考えなかったのか?」
「それだと学校の外の勧誘になるんだ。何回か探してみたんだけど、パーティー加入の条件付きで諦めちゃった」
終わったら抜ければいいんじゃないか、と思ったがこの世界のパーティーは少し面倒くさいのかもしれない。
「ほとんどの前衛はドロップ武具頼りの戦い方なんだ。だからりっちゃんに合うような前衛は、もう既に強いパーティーに囲われてるの」
【応募してくる奴は体目当ての男しかいないしな】
【いたな。王子様って名乗ってる痛い奴】
【こっちは勇者様だけどな】
【勇者様は思春期ゆえの暴走だと思えば可愛く見える】
ダンジョンのドロップアイテムは高額だ。
それは探索期間の短い俺でもよく分かる。
ランダムに落ちるドロップアイテム、その中で身に馴染む武器を手に入れるのはどれほどの確率か。
「そりゃ大変そうだな」
「他人事みたいに言って……。だからレオさんに出会えたことは奇跡のようなものなんだよ。例え武器が壊れたとしても戦える前衛って、世界中探しても多分レオさんだと思う」
「俺も強力な武器頼りなのは一緒だけどな」
紬のお世辞にそう返す。
聖剣がなければたちまち俺の戦闘力が減退してしまうだろう。
【イレギュラーを素手で殴り倒してる奴が何言ってん?】
【巨大なゴーレムもおもちゃにしてたよな?】
【ドッペルゲンガーの攻撃も無抵抗で受けてた】
【あの戦いを見た妹が、目を輝かせて俺に同じことを要求してきた】
【即死確定で草】
『この世界であなたの力は、あなた自身が想像している以上に強力で、他の人間の力はあなたが思い描いているより遥かに非力なの』
理紗に言われたこの言葉。
だがそんな俺でも、聖剣がなければ勝てなかった相手は数多くいる。
それを証明するために、亜空間から一つの石を取り出した。
「これを見ててくれ」
「その石は何? 魔道具?」
「いや、落ちてたのを拾った普通の石だ。極端な例になるが、もしこれを武器として使うとすると……」
石を近くまで来ていたマッドドッグに向かって投擲する。
全力で投擲された石は空中で粉々に砕け、マッドドッグに降り注いだ。
石礫はマッドドッグの茶色の毛皮に穴を空け、体を貫通して地面に接触する。
衝撃で石は形を保つことができずに、ちりとなって飛散した。
残る一体も同じようにして処理する。
「どうだ。分かったか?」
「……結構なお手前で」
どうやら俺の考えは伝わっていないらしい。
【勇者が最強だってことが分かったよ】
【勇者見てると魔法使いいらなくね? って思えてくる】
【自慢したかったのかな?】
【勇者が海で水切りしたら外国まで飛びそう】
【もし俺が勇者の子供だったら、一生キャッチボールやらない】
【ほーれ、ボール投げるぞ→グローブ貫通】
【……あり得る話なんだよなあ】




