8話 出口に待ち受ける者たち
話し合いの結果、俺もついて行くことになった。食料は溜め込んであるため、しばらく一人で生きていけはするが、あえてここに住む人達と敵対する必要はない。
無理難題を押し付けられるわけでもなく、たまたま手に入った小さな魔石で解決するのなら尚更だ。
地面に残された魔石を拾って、俺を案内してくれるらしい赤毛の少女の元に戻ろうとすると……。
「ちょっと! そのローブも一緒に持ってきて!」
赤毛の少女が紫のローブを指差した。
オークの胃から出てきたであろうこれが必要になる程困窮しているのだろうか?
赤毛の少女のお願いに、嫌々ローブをつまみ上げる……が、体の中にあった割に汚れてないし、臭くもない。
「こんなの何に使うんだ?」
「何にでも使えると思うよ? あれだけのモンスターのドロップアイテムだから特殊な効果もあるだろうしね」
俺の質問に金髪の少女が答えた。この者達には価値があるものなのか……。
「じゃあこれやるよ」
ローブを教えてくれた金髪の少女に差し出す。
「冗談だよね? レアドロップだよ?」
レアドロップが何か分からないが少なくとも俺には必要ない。一緒に持って行って換金してもらうのもいいが……。
「恩を売っただけだ。これで俺を騙し難くなるのなら儲け物だからな」
「分かってないなあ〜。そう言う時は君にプレゼントだって言うんだよ?」
「こんなのが貢ぎ物になるのか?」
「あ〜いや……まあいいや! ありがとうね」
金髪の少女は呆れたようにため息を吐くとローブを受け取る。それを大事そうに胸の中で抱え込むと……。
「僕の名前は日下部紬! 紬って呼んでね」
「分かった紬。何か赤毛の少女が苛々してそうだから早く行こう」
赤毛の少女はこちらを鋭い目つきで睨んでいる。
「苛々なんかしてない! それに私は北条理紗って名前があるの! 赤毛の少女なんて呼び方しないで」
「分かったよ。北条理紗。案内よろしくたの……」
「──理紗!」
「……理紗。案内よろしく」
訳が分からない。自分で名前を教えておいて正しい名前から訂正させるなんて。
それならば初めから理紗と名乗れば良かったのでは、とも思ったが下手に言い返して顰蹙を買うことは避けたい。
道中、俺は紬と理紗と話しながら歩いて行く。男二人はこちらに近寄ってすら来ないため、二人の名前すら分からない。
恐らく男二人はまだ粗相をしたことがバレていないと思っているのだろう。戦士が魔物に怯えて粗相をしたなんて知られたら仕事がなくなる。
二人の少女には知られているが、そこから伝わる心配はなさそうだ。男二人に女二人、彼らは恋人同士の可能性もあるし、魔物が出る場所で共に行動していたと言うことは信頼できる仲なのだろう。
なので味方が不利になるような言動は彼女たちもとるまい。
「ところでこいつはなんだ? 中に妖精でも入っているのか?」
ぴょんぴょん飛び回るダンジョンカメラなるものを指差す。二人の少女が触れるとまた何かの文字のようなものが出現するようになり、男二人は逆に出てこないようにしている。
「これは……何て説明したらいいかな」
「普通に配信カメラでいいんじゃないの?」
悩む理紗を見て紬が助言する。
配信カメラ? 言葉は聞き取れているはずなのに意味が分からん。
「……そうだ! からくり道具みたいなものよ」
からくり道具。玩具の類か? それかこいつがどこかの扉を開ける鍵になっているのかもしれんな。
「何となく分かった」
「そう? よかった。何よ紬、その顔は……」
「べっつに〜。随分と楽しそうに話すんだね。なんて思ってないから」
二人が腕を掴みあって戯れだした。顔を真っ赤にして詰め寄る理紗を見ると何かの逆鱗に触れたに違いない。……彼氏の前だからか?
「……こっち見んじゃねえよ」
振り返って剣を持つ男の様子を確認すると、不機嫌そうに手であしらわれた。
まあ、俺が気にすることでもないなと思い直し、後はただ先導する彼女たちについていく。
しばらく進むと何度目かの扉に到着した。
今回の扉は灰色で、道中にあった扉の半分以下の大きさだ。
その扉に前を歩く女性陣が近づくと、独りでに開いた。
今までは扉を開くと同じような石壁に囲まれた空間が広がっていたが、今度は違った。
あまりの景色の変わりように言葉を失う。
見たこともないような高さの建物が立ち並び、面妖な箱に乗った人間が移動している。
そして俺達を出迎えてくれるように大勢の人間が待機していた。
彼らは皆同じようなレザーアーマーに身を包み各々武器を携えている。
「この中に貴族がいるのか?」
女性陣に聞くが頬を引き攣らせて答えない。
「──止まりなさい!」
前方で年配の男性が叫んだ。物取りが出たのか?
だとしても俺には関係ないため無視をして、右にいた紬に顔を向けると……。
「さっき言ってたギルドってところに案内してくれないか? 金が余ったらその金で酒でも飲んでいいから」
「……今はやめといた方がいいんじゃないかな?」
紬は今から何か予定が入っているのかもしれない。 無理を言ってはいけないと今度は理紗に質問する。
「どこで魔物の討伐依頼が見れるか教えてほしい。もちろん塩漬けの依頼で構わないから」
情報屋で聞こうにもこの世界のお金を持っていない俺は頼むことが出来ない。しかし、俺の持ち物を換金しようとしても相場が分からないから、ふっかけられても分からない。
だからまずは情報家としての矜持を持ってそうなやつを見つけてある程度の相場を聞く。そのために情報屋に支払うためのお金が必要であった。
「──おいっ! 君に言っている! 灰色の髪の君にだ!」
再び中年の男が声を荒らげる。
辺りを見回すと、色々な髪色をした人たちが歩いているが、灰髪は見当たらない。
「……もしかして俺を呼んでる?」
「そうだ! 何度言ったら理解するんだ全く。武器を置いて大人しくこちらに来なさい」
中年の男は目が悪いのだろうか? それか魔石を押収して小金を稼ぐために言っているのかもしれない。
「武器なんて今は持ってないぞ」
「嘘をつくな! 大きな大剣を持っているだろうが! それを一旦こちらに預けろと言っている」
誰かが情報を漏らしたのか? しかし今は確かめる術はない。
「悪いがそれは出来ない相談だ。あれはじゃじゃ馬でな。俺から離れると癇癪を起こすんだ」
「馬鹿にするのも大概にしろ! もういい! お前がそのつもりならこちらも策がある。やれ!」
前方に待機していた五人ほどの男女が先端が筒のようなものをこちらに向ける。そして次の瞬間、筒の先から何かが打ち出された。
周囲から悲鳴が上がる中、俺は三回ほど手を振る。
「どうだ。痺れて身動き出来んだろう!」
確かに中年の男の言う通り、手のひらの中に入ってある石ころのようなものから、ピリピリとした感触を感じる。
「もしかして遊んで欲しいのか?」
わざわざ道具まで使って投げるより遅く飛ばしてきたのは何か意味があるに違いない。
一番はしゃいでいる中年の男を見てそう思った。
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