78話 屑魔石の使い道
五感強化を教えるかどうかは後回しにして、まずは身体強化を教えることに。
二人が戦士だと苦労するだろうが、彼女達は魔法使い。
魔力を扱う術は心得ているはずだ。
いや、それよりも……。
「魔法使いがいるのに誰一人、身体強化は使えないのか?」
「強制的に魔法を植え付けられるって、表現する人もいるくらいには、魔法の覚え方が特殊なのよ」
エアリアルでは魔法使いも当然ながら身体強化も扱える。
魔力を扱う力は彼らの方が一日の長があるから、小手先の技術である身体強化は魔法を扱うよりも楽らしいので、そこでつまづいたなんて噂話は聞いたことがない。
魔力の存在も知らない一般人が、次の日に魔法使いになっているようなこの世界ならではの問題なんだろうか。
「身体強化のやり方は、練り上げた魔力を外に放出せずに体を覆うようにして留める。これだけだ」
これがまず一段階目。それが出来るようになれば今度は部位ごとに強化を施せるように練習していく。
だがこの段階で二人は苦戦することになる。
「……ちょっと、初めから難易度高くない?」
「回復魔法になっちゃうよ……」
【俺もやってみたけど無理だった。練り上げた魔力を動かそうとしたら自分の魔法に変換される】
【これってやり方合ってるの?】
【コメント見る限り誰一人として成功者いなそうだな】
理紗の周囲で小さな火花がパチパチと発生し、紬の周りには柔らかい光が漏れ出している。
これは体の中に魔力を留めることが出来ずに、魔法となって体外に排出しているのだろう。
俺からすればこっちの方が羨ましい。
「あなたが最初にやった時はどう練習したの?」
「俺は最初から出来たな」
「出来が悪いのは私たちだけか……」
肩を落とす理紗に傭兵団の頃を思い返す。
新人の中には魔力の流れを制御出来ない奴らもいた。
『お前こんなこともできねえって、あんなチビ助に負けて恥ずかしくねえのか?』
『チビ助言うな! くそジジイ!』
『レオが怒ったぞ! 喧嘩だ喧嘩! 場所空けろ!』
あいつらもそう時間がかからずに身体強化まで漕ぎ着けた。
確か練習は……。
「この魔石分かるか?」
刺々しい形をした一つの魔石を亜空間から取り出す。
「屑魔石よね。それがどうしたの?」
「これは屑魔石って呼ばれているのか?」
「魔力を吸い取る性質がある魔石はそう呼ばれているわ。溜め込んだ魔力を後で使えたら価値があるんだろうけど、空気中に漏れ出てしまうから二束三文にしかならないのよ」
同じ魔石もこの世界にあるようだ。
エアリアルから持って来た魔石で聖剣に食べられずに残っているものは、こんな性質のやつしか無かったため、高値で売り払えないのは少し残念だが……。
「レオさん。その魔石は何に使えるの?」
「これが身体強化の練習になるんだ」
訝しげな視線を向けてくる理紗に説明するために、俺が実践して見せる。
魔石の上半分が見えるように握り込むと、魔力を吸収していることを示すように、うっすらと光を放った。
「今は何もせずに吸収されている状態。魔力は心臓部から生まれることは知っているか?」
「それは大丈夫。よく知られていることだよ」
別世界の人間だから体の仕組みも違うのかもと、不安に思っていたが、肯定する紬の言葉を聞いて安心する。
「それなら話は簡単だ。今、この魔石は俺の心臓部から強制的に魔力を吸い出しているということは、心臓から外部への魔力の流れができているんだ。身体強化は全身、部位問わず魔力を集中させることで使うことが出来る」
引き込まれている魔力の流れを強制的に止める。
魔石の干渉力と俺の魔力操作。二つの力が争った結果、魔石は光を失った。
「こんな練習方法があったなんて……」
「これは魔法の使えない戦士にとって、魔力の流れを認識することが出来る修練になる。魔石に魔力を吸収させないように出来たら、魔力操作の感覚が掴めている証拠だ」
【勇者先生がトレンド乗ってら】
【屑魔石の相場がすごい勢いで上がってる】
【遊び人に転職したワイ、低みの見物】
【ニートも見てます】
こぼれ話。
理紗と初めに出会った時、本来なら普通のフロアボスが召喚されるはずでした。
ですがレオ召喚の際、余剰に溢れ出した魔力が干渉してイレギュラーが出現。
何が言いたいかというと……悲しい事故でしたね。




