76話 二人の選んだ戦い方
どうやら魔法の絨毯は魔力の揺らぎを隠蔽することができないらしい。
絨毯に乗って理紗や紬、交互に魔法を行使しようとした結果、両方とも獣が何かに勘付いたように隠れているはずの彼女たちを警戒するような仕草を見せた。
恐らくは獣の視界には捉えられていない。
だが誰かが魔法を行使しようとしている、くらいには認識できるのだろう。
「この程度の相手に気取られるなんて、隠蔽はあってないようなものだな」
「何言ってるのよ。上出来よ」
「もっと魔力を込めたら完全にバレそうだけど、小さい回復魔法くらいだったらモンスターのヘイトがこっちに来ないもんね」
【一番ヘイトが集まる魔法使いがこれならアイテムボックス持ちの運搬役だったら安全に運べそう】
【炎姫は赤の絨毯確定か】
【こんなの見せられたら尚更余った絨毯が勿体なく感じるな】
【まだ言ってんのか。売っても意味ないって炎姫が話してただろ】
そして再び探索の再開。
彼女達も絨毯に乗り込んでいったのだが……。
「紬、本当にそれでいいのか?」
「うん。私も置いていかれないように強くならなくちゃ……」
紬が選んだのは紫色の絨毯だ。
移動速度に取り柄があるこいつも、隠蔽効果のある絨毯と速度は変わらない。
ちらりと背後の絨毯に目を向けると黒色の絨毯には三人のダンジョンカメラが乗せられている。
「それはいいが、戦闘中も乗っていればいいだろう? わざわざ降りなくても……」
「レオ、それじゃあ駄目なのよ。紬の魔法はまだ発展途上。回復特化と言えども、機動力は他の魔法使いの何倍もあるわ。それが完全に制御出来るようになれば、守る必要のないヒーラーになるかもしれない」
だから守られているばかりではいけないの。と理紗が告げる。
回復魔法の使い手は、ダンジョンに潜らずとも大金を稼ぐことが出来ると聞いた。
それに加えて空を飛べるようになる稀有な魔法を扱える彼女は、どうしてそこまでして強くなろうとするのか……。
「そうか、なら理紗も降りて戦うか?」
「私は嫌よ」
すんとした表情で俺の提案は断られる。
理紗も強くなりたいと言っていたのではなかったのか? と疑問を浮かべると、慌てた様子で理紗が説明を始めた。
「私が今、足りないのは魔力量なの。だからモンスターを倒すために少しでも魔力を節約しないと……」
少し言い訳のようにも聞こえるが、エアリアルにいた時も魔物にとどめを刺した者と、その他の人間とでは受ける恩恵の量が違った。
貴族の嫡子などは、幼き頃に自らが持つ兵隊や冒険者を使って魔物を討伐を繰り返しているし、そんな依頼が貼られてあるのを何度も見たことがある。
「動かないとりっちゃん太っちゃうかもしんないよ?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。私は痩せ型です」
紬の軽口に理紗が胸を張って答える。
その言葉通り理紗は太っているようには見えないが……。
【聖女と比べたらほっそりとはしてるな。どこかとは言わないが……】
【それはいつも断ってるグラビア撮影に参加してくれたら俺たちも納得出来るんだ】
【貧乳好きの吾輩を満足させるためにはもう少し引き締まることをお勧めしよう】
【誰だよ! 変態どもに隙を与えたやつは!】
カメラに殴りかかろうとしていた理紗を、紬が苦笑いで止めている。
恐らく空中に投影されるコメントで何か嫌なことを書かれたのだろう。
周辺のモンスターを掃討して、比較的安全になったことでコメントの空中投影を再開していた。
三十体ほどのモンスターを狩っていくと理紗がこちらに顔を向ける。
「扉の場所は見つかったわ。階層を移動する前にランドマークのモンスターを討伐して行きましょう」
「ランドマーク持ちはもう見つけてる」
「本当? 近くにいるの?」
理紗が俺の指差した先を、遠見の魔道具を使って確認する。
筒形の魔道具を覗き込んだ理紗は、魔道具を調整しながら見回ると驚きの声を上げた。
「よくあんな遠くの敵が見えたわね」
「魔力で強化すれば誰でも見えるだろう」
魔力を使って強化する。
エアリアルでは野外の探索には必須の技術だ。
だけどこの世界では当たり前の技術ではなかったようで……。
【魔力を使って視力を強化する?】
【それって魔法じゃないの?】
【詳しい情報pls】
書き忘れていたので追加で。
最初に理紗に会った時にゲートを使って帰らなかったのは、25階のフロアボスがイレギュラーだったので帰還用のベルが出現しなかったからです。




