75話 隠蔽の性能
二十六階への扉を抜けると青い緑の香りが鼻腔をくすぐる。
二十五階までの石の壁に囲まれた階層とは違い、26階は野外と見紛うほどに変化があった。
「此処からの階層は環境がガラッと変わるの。驚いたでしょって言いたいところだけど……」
「レオさんはデスパレードで経験してるもんね」
理紗と紬が苦笑いを浮かべる。
確かにあの時は出てくるモンスターに合わせたように環境が変化していった。
【嬉しくないネタバレの仕方だな】
【予習はバッチリだね】
【予習の難易度高すぎるだろ】
【今回の目標はどこまで?】
「今日の目標階層は決めてないけど、ランドマーク持ちは狩って行くつもり」
「移動時間でレオさんのことも色々語りつつって感じかな?」
【強さの秘訣を教えてたもれ】
【好きなタイプはなんですか?】
【厨二病に罹患したのはいつからですか?】
デスパレードで飛ばされた階層は広いとはいっても、一対一の戦闘が基本だった。
探索も特にいらず、次の階層へ続く扉を探す必要もない。
だが中層からはそれが一変する。
扉の場所や地形、敵の数が定期的に変化してしまい、探索の難易度を格段に上げていた。
ダンジョンの種類によっては、ある程度のモンスターを倒さないと、次の階層への扉が出現しないようなギミックも存在しており、ただ走り抜け続けて攻略するといった進み方も制限されている。
だがまだ理紗たちにとっては問題のない階層のため、不安要素の確認を行なっていく。
この階層にいる敵はマッドドッグと呼ばれる犬型のモンスターだ。
こいつらは常に二匹で行動していて、群れることがない。
鼻が効く動物型。いい結果になるといいが……。
「片方間引くわよ」
「お願いりっちゃん」
《線香花火》
理紗の呟きと共に、こちらを威嚇するように吠えたてるマッドドッグの首に魔力の粒が付着する。
マッドドッグはそれに気がついた様子はなく、理紗が生み出した爆発をモロに受けて、その首を地に落とした。
マッドドッグはそのまま小さな魔石に変わり、生き残りは逆上した様子でこちらに突っ込んでくる。
「少し怖いけど……何かあったらよろしくねレオさん」
「失敗しても怪我はさせないから安心して行ってくれ」
紬は俺の言葉に頷くと、こちらに駆け寄ってくるマッドドッグに単身近づいていく。
マッドドッグは絨毯に乗っている紬に見向きもせずに理紗の元へ突撃した。
理紗の元に向かったマッドドッグも、首を爆破され魔石に変わる。
「あれだけ近づいてるのに気がつかないってことは、獣の嗅覚くらいは誤魔化せてるってことでいいかしら?」
「そうだな。無防備な状態で近寄っていた紬をあえて無視するのは少し不自然だ」
【聖女の匂い程度なら気がつかれないのか】
【探索が伸びて体臭が濃くなった時も同じ反応なのか気になる】
【聖女の体臭……臭くてもご褒美です】
「臭くなんかない! 勝手なこと書かないで!」
「どうした紬?」
「なんでもないから気にしないで……」
突然叫び出した紬は、理紗と何かボソボソと話しをしている?
「……大丈夫、だよね?」
「大丈夫だって。バカみたいなコメント見て真に受けるんじゃないわよ……」
そしてこちらに戻ってきた理紗と紬の絨毯を入れ替えて検証を再開する。
引き続き日間入り出来てます。
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