71話 ダンジョンアンチ
チャレンジメニューは成功しても失敗しても、二度頼むことは出来ないらしい。
成功する人なら一生ここでタダ飯を食べることが出来るようになってしまうから、当たり前の話なのだろうがかなり残念だ。
心地いい満腹感に襲われながら部屋に戻る。
ギルドの外に出ると、ここの食事処と同じように、チャレンジメニューを出しているところがあるらしいから、そこを探すのもいいだろう。
だけどしばらくはギルドの食事で済ますつもりだ。
探索者の資格証を使って支払いをすれば、かなり安い値段で食べれるらしいし、料理も美味かった。
食事の帰りに、ギルドに併設されているコンビニで購入した飲み物を、冷蔵庫の中に入れ直す。
やっかみこそあれど、命を狙われることのない生活は、エアリアルにいた頃よりも気楽に生きていける。
まあ、それもギルドにこもっているから安全なのかもしれないが……。
翌日、部屋に置いてある四角い置物から小気味いい音楽が流れる。
これは鏡花からの説明にあった。
「受付からの呼び出し音か……」
鏡花から渡された部屋着のまま受付へと向かう。
黒のシャツと、デニムのズボン。
サイズがぴったりなのは少し驚いたが、鏡花の目利きによって用意されたものらしい。
受付は比較的混んでいたが、俺を見つけるとあちらから声をかけてきて個室に案内された。
「こちら魔石の代金の見積もりになります。ゴブリンキングと思われる魔石は350万円。ドッペルゲンガーの魔石は380万円です。このお値段でよろしかったでしょうか? 良ければここにある空欄にサインをお願いします」
両方とも300万を超えているな。
理紗や鏡花からもそれくらいが相場だろうと聞いている。
受付の女の言葉に頷き、空欄にれおと書き残す。
やっとまとまったお金が手に入ったと、ほくほく顔で部屋を出ると、入り口の方で何やら騒ぎになっている。
「探索者はモンスターと同じです! こんな街のど真ん中で意気揚々と生活しているのは一般住民には恐怖でしかありません! 直ちに隔離するべきです」
十人程度の集団が何かの絵を掲げて大きな声で叫んでいる。
「すみませんが出ていってもらえますか? 私有地でのデモ活動は禁じられております。これ以上続けるようでしたら身柄を拘束することになりますが?」
「触らないで化け物! 私はみんなの認識を正してあげてるの!」
そう言い放ちながら集まってきた警備の人たちに連れて行かれる彼女達を見て、周りの探索者は辟易しているようだった。
◆◆◆◆◆◆◆
「昼間そんな奴らが騒いでたんだ」
「その集団はダンジョンアンチよ。私たちの学校にも度々きてるけど、本当にムカつく」
昼前の話を理紗たちに伝えると眉を寄せながら理紗が答える。
彼らは子供が通う学校にも出没するらしい。
「レオさん絡まれなくて良かったね」
「あんな奴らにどうにかされるほど弱くはないさ。見る限り戦闘経験すらなさそうな素人だったぞ?」
「ダンジョンアンチの大半が魔素適性のない一般人よ。子供の頃は探索者に憧れていたくせに、自分に才能がないと分かるとダンジョンアンチに成り下がるの」
理紗や紬の同級生の中にも同じような人たちがいたらしい。
彼らは能力適性がないと分かると、理紗たちへの態度が一変してしまったのだそうだ。
聞く限りではそれなりの数がいるらしいが……。
「そんなに探索者が嫌ならどこかに集まって暮らせばいいだろうに。家も土地も金さえあれば買えるんだろ?」
「そんなところがあったら、スタンピードが来たら間違いなく全滅するわよ」
「魔石のエネルギーや魔道具の恩恵は黙って受け取ってるのに、探索者のことは毛嫌いしてるんだよ」
戦闘が出来る者を自ら追い出そうとしているんだったら、それくらい承知の上だろうと思ったが、彼らはそうではないらしい。
二枚舌で自分の都合がいいところは目を瞑って、気に食わないことだけ大きく声を上げる。
エアリアルでは間違いなく首を切られて終わりだから、殺されずに主張を続けていられるなんて少し驚きだ。
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