62話 エルフ化
探索者のエルフ化。
これはとある日本の研究者が立てた仮説で、高ランク探索者の一部に見られる特徴に、若返り効果や老化の抑制があるといったものだ。
この世界にエルフがいるのかと少し疑問に思ったが、創作物の中にはエルフという概念が存在しているらしく、結構人気のある種族らしい。
ダンジョンが発生して、三十年程度。
比較する材料が少なく、この仮説を提唱した研究者は一笑に付された。
ダンジョン発生直後の探索者は今ほど環境が整っておらず、深い階層を目指す人も少なかった。
だから、仮にその仮説が真実でも、必然的に第二世代と呼ばれる、ダンジョン配信ブーム後に探索者になった者たちの今後で、この仮説の答えが分かるようになるだろう。
「レオさんのいる世界では、魔物を倒さなくても長寿な人はいたの?」
「ちらほら、だな。あまり多くはないが、そいつらは精霊憑きと呼ばれて大事にされてた」
「精霊憑きか……私は精霊視は出来なかったからあんまりよく分からなかったけど、レオは見れる人だったの?」
理紗の質問に答えるかどうか少し迷う。
あちらの人間にバレたら厄介なことになるが、理紗や鏡花は魔物側。
そんなに気にすることもないか……。
「精霊の姿は見たことはないが……精霊憑きみたいなものだな」
「精霊憑きは魔物側にもいたけど、皆自分より格下の精霊は認識出来てたはずよ。そんなに弱い精霊に憑かれているの?」
……そうなのか、初耳だ。
人間は自分の体に宿る精霊の力を制御出来るものはごく僅か。
大成すれば凄腕の魔法使いになれるが、大体はその力を持て余して、精霊を神格化している教会の神子として惰性で生きているものがほとんどだ。
「弱いかどうかは顕現したことがないから分からんが、位は大精霊だ。理紗たちも見たことあるだろ?」
「……響き的に凄そう。私たちが見たことあるってことは、もしかしてレオさんをここに送ってくれたっていう創造神?」
「あり得ないわよ! 創造神がたかだか人間一人に力を貸すはずない。ここに来たのはレオが成し遂げた功績を……」
どうやら理紗は気がついたようだ。
何かを考えるようにして小首を傾げる。
「まさかあれが大精霊の御神体? ……いや、でもそんなものを人が扱えるなんて思えない……」
「ちょっと! 私にもわかるように説明して!」
ぶつぶつと考え込む理紗の袖を紬が引く。
「多分、理紗の思ってる通りだぞ」
「聖剣は大精霊が作ったものなの? それならこっちも納得出来そうなんだけど……」
精霊が愛した鉱石や武器には、精霊の力が少しばかり宿ると言われている。
理紗はそのことを言っているのだろうが……。
「違う。さっき自分で言ってたろ? 聖剣は大精霊の御神体だって」
「精霊って武器になるの?」
閉口する理紗に変わり、紬が聞き返す。
「そうらしいぞ? 俺は面と向かって見えたことはないから詳しくは分からんが……」
「……そうらしいって、随分と適当な話ね。創造神に言われた話ではないの?」
「違う。これは……聖剣を管理していた、とある教会に所属していた女に教えてもらったことだ。奴も精霊憑きでな。文献を読み解いた上で、知覚出来る精霊に確認をとったらしい」
「その女はレオの仲間? あなたは女と旅をしていたの?」
どこか無表情になった理紗が聞く。
「……そいつは俺と話した後に教会から派遣された勇者によって処刑された」
そんな理紗の質問に、少し間を空けて答えた。
 




