60話 三人の年齢
あの後、必死のお願いによって虫系の魔物の肉は俺が責任を持って処理することになった。
確かに虫系統の魔物は厄介な毒や寄生虫がいる可能性が高いがそのほとんどは加熱により死滅する。
残ったとしても微弱な毒なのだが……。
「レオさんの口から微弱な毒って説明されても説得力ないよ! 下層のフロアボスクラスのモンスターがつまみ食いして死んじゃったの忘れた?」
「毒がなかったとしても虫だけは無理。都会暮らし十七年舐めるんじゃないわよ!」
紬と理紗が愚痴を漏らす。
そこで一つ気になったことが……。
「理紗は十七歳なのか?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「もっと若いものなのかと思ってたんだ。成人前と聞いていたからな」
「ここでは十八歳が成人なの。ダンジョンには十五歳から潜れるから、そこからが成人として考える人もいるけど、世間的には十八歳が成人の年齢ね」
「そういえばレオさん、何歳なの?」
紬の質問に少し考える。
俺の世界で誕生日を覚えている連中は身分の高いごく僅かな人たちしかいない。
身分の低い者たちは、年初めに歳をとるようにしている。
俺がここにきて一週間も経っていないから、次の年齢にはまだ先だとすると……。
「二十一だな。この世界の年跨ぎがいつになっているか分からないから次に年を取るのがいつかは分からん」
それを聞いた二人が驚いたような表情を見せた。
「レオさんそんなに若かったの?」
「鏡花さんより若いじゃない!」
鏡花は何歳なんだろうか?
人の年齢を聞いたことは、全てを失って旅に出る前にしか覚えがない。
「……六十歳くらいか?」
「鏡花さんの前では、冗談でもそんなこと言わないようにしてね」
昔、傭兵部隊の隊長である女性に向かって、間違った年齢を言ってしまい、酷く怒られたことがある。
そのこともあって、理紗に恐る恐る問いかけると、呆れたように否定される。
「何かおかしなことを言ったのか?」
「そんなの分かりきったことでしょ……いや、ちょっと待って……あっちの世界の人間って何歳まで生きるの?」
「そんなの人によるだろう。百歳で死ぬやつもいれば、千に届くやつもいる」
あちらに生きていて何でそんなことを知らないんだ? と思ったが、理紗は魔物で人では無かった。
人との交流はしていないとすれば、分からないのも当然か……。
「レオさん、長生きする人ってもしかしてこの前言ってたエルフとかドワーフみたいな種族だったりする?」
「奴らはもっと長生きだぞ。住み着く土地に左右されるが、寿命を迎えたとすれば少なく見積もっても五倍は生きるはずだ」
エルフやドワーフといった種族はその身に精霊を宿していて、人よりも神に愛された者たちだ。
「……そうか。だったらあの仮説も真実味を帯びてきたわね」
「仮説? もしかしてこの前ニュースになってたやつ?」
「そうよあの時はまだ笑い話にされてたけど、魔素に溢れていた人がそうなんだったら、こちらも同じような環境になる可能性が高い。そう思わない?」
理紗のその言葉に、紬がごくりと唾を飲み込む。
緊迫した空気。その中で俺の屁の音が鳴り響いた。
「どうした二人とも俺を見て? 構わん。続けてくれ」
「乙女が真横にいるのにおならをするんじゃないわよ!」
「……レオさん。流石にそれは擁護できないよ」
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