53話 レオの部屋
幼い頃世話になった傭兵から、文字を読めることの重要さは口を酸っぱくして教えられている。
この世界でも文字を学ぶ必要はあるだろうが、理紗達が教えてくれるのか。
「報酬はいくらがいい?」
「そりゃレオのから──」
「タダよ。これはチームとして必要なことだから」
「レオさん変な契約書にサインしそうだしね。字を覚えるのは早い方がいいよ」
……まあ今度何か贈り物をすればいいだろう。
お礼としてではなくて、ただの贈り物なら受け取ってくれるはずだ。
文字の勉強は明日から。
まずは場所を知るべく、俺に用意された部屋に案内されるようになった。
受付に渡された鍵を使い部屋を開ける。
かなり大きな部屋のようだ。
理紗と泊まった部屋より大きい。
……これは、一人用か。
鏡花以外の視線が一点に集中する。
「……鏡花さん。何でベットが二つ並んでいるんですか?」
「この部屋を手配したのって師匠だよね?」
「それは……気分で変えれた方がいいかと……」
「それは贅沢だな」
俺の言葉を聞いて鏡花に質問していた二人が呆れたような表情を見せる。
部屋も広いし、少なくとも二つあって困ることはない。
「まあ、いいか」
「レオさん……どっかの痴女に夜這いされないようにね」
「鍵があるから大丈夫だろ。鍵を壊して入ってきた奴は野盗と変わらん。手荒く歓迎してやるさ」
心なしか声が小さくなった鏡花が部屋の説明をしていく。
トイレと風呂は別々になっていて、その他の部屋は三部屋もあった。
ベッドが二つ置かれていて、本を収納出来る棚が置かれてある寝室。
ベッドは柔らかく、いい質感で何も文句なかった。
リビングは一番広く、大きめの机と小さな机二つ置かれてある。
大きめの机の方にはこれまた柔らかそうな座椅子が四つ。
小さめの机の周りには座布団が置かれてある。
そして何とテレビが二つ。
これが無料なのは何だか怪しい気もするが……。
「部屋自体は良さげな部屋ね。良かったじゃないレオ」
「少し殺風景だから、今度おすすめのぬいぐるみ持ってきてあげるね、レオさん!」
理紗と紬が驚きもせずに普通に受け入れている。
この世界が裕福なのか、理紗たちが金持ちなのか……。
まだ分からないが、怪しい取引ではないようだ。
鏡花は突然ぶるりと体を震わすとこちらに体を向ける。
「そうだレオ。お風呂の説明してなかったよな。今からうちが説明するから……」
「風呂の使い方は理紗と一緒に泊まった時に教えてもらった。だから多分大丈夫だ」
「え?」
「──ちょっとレオ!」
感情の読めない平坦な声で話す鏡花に返答するが、鏡花は引き攣った笑顔のまま固まっている。
何か言ってはいけないことを口走ってしまったのだろうか。
鏡花は不気味な笑い声を上げ始め、ボソリと呟く。
『ビーストフォーム』
言い終わると同時に、鏡花の体の周りに魔力の流れが生まれる。
鏡花の頭、お尻、両手に重点的に集まった魔力はその形を変えた。
頭には真ん丸とした茶色の獣耳。
腕も毛が覆われていき、手のひら少し大きくなり、ピンクの肉球が見える。
そしてお尻からは短めの尻尾。尻尾は鏡花の普段着の白衣から突き出ているわけではない。
「ちょっと鏡花さん! こんなところで魔法使わないで下さい」
鏡花が四つん這いになって構える。
お尻に出来た尻尾はフリフリとゆれていた。
「問答無用! 裏切り者は許すまじ。あんたを今からギッタギタにし──ひゃっ」
「おっとすまん! 感触あったのか……」
恥ずかしそうにお尻を抑えて俯く鏡花。
今までにない鏡花の反応に謝るが、鏡花は何も答えない。
そんな中、俺の肩に理紗の手が置かれた。
「……レオ、文字を学ぶ前に女の子との関わり方を学び直しましょうか? セクハラってしってる?」
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思われた方、お手数おかけして申し訳ございませんが、ブックマーク、下の⭐︎にて評価していただけると作者のモチベに繋がります。
お気軽に応援の程、何卒よろしくお願いいたします。




