51話 強化
すぐに捕獲されることになった黒色の魔法の絨毯。
自由に飛び回っていた他の絨毯も、この時ばかりは動きを止めて、成り行きを見守っていた。
「黒い魔石食べちゃったの?」
理紗の言葉に黒い絨毯はびくりと動揺し、二つに折り畳まれる。
「ぺってしな! ぺって!」
鏡花の言葉を否定するように左右に揺れる。
こいつなりに役に立とうとしたのかもしれないから、怒りも湧いてこない。
それに魔石を与えたら性能が良くなる、なんて情報が知れたのはこいつのお陰でもある。
「まあ、いいさ。魔石は探索してればいくらでも手に入る。教えてくれたお礼だ。これ食べるか?」
無色の魔石を手渡すが、黒色の絨毯は受け取らない。
黒い魔石を吸収してお腹がいっぱいなのかと思ったが、そうではないようだ。
「もしかして黒い魔石以外は吸収出来ないってことかも……」
理紗の予想に黒い絨毯は大きく上に上がって反応する。
それならばと、黄色く光る魔石を拾い上げ、同じ黄色の魔法の絨毯に放り投げる。
「それ、取り込めるか?」
黄色い絨毯は投げられた魔石を包み込むと、一瞬で吸収する。
黄色い絨毯はその身を大きくすると嬉しそうに飛び回った。
緑の魔石は同色の絨毯に渡す。
「あんなに簡単にあげていいの?」
「他にも魔石はあるからな。ゴブリンとドッペルゲンガーの魔石は残しておくよ」
理紗にそう答えると、納得したように緑色の絨毯に戻る。
疲労回復効果が気に入ったらしい。
これがあれば永久機関だなんだとぶつぶつ呟くさまは怪しげではあったが、喜んでくれているのなら悪い気はしない。
そして元々俺が持っていた属性石を取り出そうとしたが、何も出てこなかった。
後で食べようと思っていたオーガの死骸は普通に取り出せる。
亜空間の中から魔石が消えている。
考えられるのは……。
「お前の仕業だな」
「どうしたレオ! 聖剣に話しかけて?」
「いや、何でもない」
黒い絨毯の行動は、聖剣のそんな姿を見てしまったがゆえのことだったのかもしれない。
聖剣は怒られてなるものかとばかりに、自ら亜空間に戻っていった。
魔法の絨毯は一旦置いておいて、残りは土人形とガントレット。
土人形はいくつか出回っている代物で、ある程度の研究はされている。
こいつには無色の魔石を使って兵隊を作り出すことはできないが、代わりに土属性の魔石を使えば強力な兵隊が作り出せるようだ。
試すのはもったいないからしないが、一度戦ってみたいなと漏らしたら、あのゴーレムほど強くはないからやめてくれと、二人に諭された。
そして鏡花が言うには、魔法の絨毯と並ぶほどの希少価値を持つこの一品。
「普通は電気を作り出すのは雷の属性石を使わなくちゃいけないんだ。それが無色の魔石で代用出来るなんてあり得ないの」
鏡花は目を輝かせながら説明する。
そして色々調べた結果、こいつは二人とも問題なく使えることが分かった。
武器としての性能も高性能。効果は前代未聞。
だからこそ、こいつは市場に出さない方がいいと鏡花は忠告する。
理由は魔法の絨毯の話と一緒だ。
ガントレットを調べようにも失敗した時のリスクがでかいし、何よりこいつの価値が高すぎる。
最低でも同じ性能の武器が出てくるまでは、この武器の価値は上がり続けていくだろう。
それこそ国が予算をかけて購入するくらいには高い。
だが高価な魔道具やドロップ武器に、予算が組まれることはほとんどない。
国すらも購入を躊躇する理由は、かけた金額の割に成果がほとんど出ていないかららしい。
高性能なものほど失敗する可能性が高く、低階層でドロップする単純なものですら、成果を得ることは稀なのだそうだ。
しばらく生活していけるほどのお金は、今から魔石を換金してもらうことで手に入る。
ガントレットはしばらく亜空間の中で死蔵する形にはなるが、買い手が現れない場合は、理紗や紬に使ってもらおう。
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