43話 本音
ダンジョンカメラは階層主の戦闘で壊れてしまっている。
文字を空中に投影することはなくなったし、理紗たちの言葉も聞こえなくなった。
今から話す言葉は理紗達に届くことはない。
だが今はそれで良かった。
己の胸の内を彼女たちに伝えることは怖いから……。
答えることがないダンジョンカメラに思いの丈をぶつける。
「なあ……理紗。俺が死にたかった理由、分かったよ。多分俺は、一人で生きるのが辛かったんだと思う。人に嫌われることが怖かったんだと思う」
情けない弱音を吐露していく。
「誰からも必要とされないのはしんどいんだ。誰にも認めてもらえないのは苦しいんだ。だから……」
今理紗たちと一緒に行動しているのは、彼女たちの善意に甘えてしまっているからだ。
殺してほしいなんて迷惑なことを言ってきた、俺なんかと一緒に行動してくれた。
そんな俺が彼女達をこれ以上束縛するわけにはいかない。
ダンジョン配信義務はBランクまで。
それなら俺はAランクを目指さなくては……。
「帰ったらしばらく一人で生きてみるよ。頑張って生きてみて、
それでも死にたくなった時は、せめて理紗たちの目の届かないところで死ぬようにするから。……面倒くさいこと頼んでごめんな」
言いたいことは言った。
ダンジョンカメラを亜空間に戻そうとした時、カメラから無機質な声が届く。
『変なことを言ってる暇があるのなら、とっとと全部倒して戻ってきて』
壊れていたと思っていたところに返答が来て固まる。
「あっ……いや、聞いてたのか?」
『映像は見えないわ。音声が飛び飛びだけど聞こえるくらい。激しい音が聞こえてるってことは戦闘中なんでしょ? 勝てそうにないの?』
「大丈夫だ。勝てない敵ではない」
さっきまでの状態なら少し怪しかったが、聖剣が守ってくれたお陰で窮地から脱することが出来た。
聖剣の主は俺だと胸を張って言うことは出来ないが、少なくとも相手よりかはマシには思ってくれているようだ。
それに相手は冷静さを失っているのか、先程の力は使ってこない。
『ならいいわ。何か勘違いしてそうだから念のため言っておくけど、私達はあなたと嫌々行動してるわけじゃない。あなただから一緒に……』
言葉が途切れる。限界を迎えたのかも知れない。
ダンジョンカメラを亜空間に仕舞うと大きく息を吐く。
「悪いな勇者。俺はお前に殺されてあげることはできない」
『僕のものだ! 女もお金も! 全部僕の……』
聖剣の刀身を優しく撫でて力を解放して、最後に刃の部分に優しく触れる。
かすかな痛みと共に一滴の血が聖剣に落ちると聖剣の輝きが増した。
この勇者と同程度の実力を持つ魔物ならこんなことをする必要はない。
だが、相手が勇者を名乗っているのならば話は別だ。
一部の勇者の中には、一度殺されたくらいでは死なないような加護を持つ者がいる。
そんな加護を持つ勇者に幾度となく命を狙われてきた。
そこで辿り着いた秘策。
「お前がどんな存在かも分からん。だが勇者を殺す方法は誰よりも心得ている」
どの魔物よりも、どの人間よりも勇者を返り討ちにしてきた。
研ぎ澄まされた感覚は相手の一挙一動に反応する。
最後に異形の勇者が大きく腕を振りかぶった時、全力で突っ込んだ。
俺の踏み込みの力に耐えきれず、地面が爆発したように破壊される。
そして異形の勇者の元に躍り出ると……。
「お前の加護ごと断ち切らせてもらう!」
振り切った斬撃は勇者の体を跡形もなく消失させる。
光が舞い散る中、どこからともなく男の声が聞こえてきた。
『ああ……やっと解放される。なあ勇者。君が堕ちた時、どんな姿を与えられるのかな? 僕はそれが楽しみで仕方がないよ』
男の言葉は何のことを言っているのか分からない。
どこか冷静さを取り戻した男が語り終えると、周囲が崩れ始めた。
シャンデリアが落下し、色とりどりのガラス窓が立て続けに割れる。
逃げ場を探していると、祭壇の近くに見覚えのあるベルが出現したのを見て、駆け出した。
道中、勇者が落とした黒い魔石を回収。
亜空間に放り込み、何故か既に起動している帰還用のポータルに飛び込むと……。
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