41話 異形の勇者
返せ、返せと子供のように要求してくる勇者と名乗った存在を前に、俺は何も出来ずにいた。
奴の言葉が真実ならどちらにも所有権があるのは確かだ。
両者とも聖剣の主であったのなら決めるのは俺じゃなく……。
右手に握られている聖剣をちらりと見る。
主を決めるのはこいつの権利。
俺の一存で決めるわけにはいかない。
そのはずだったんだが……。
聖剣を掴もうとしてくる赤褐色の右手を、半ば無意識に左手で払う。
これは危険を感じたからでも、奴の腐敗臭が嫌だったからではない。
独占欲に似た何かに突き動かされた結果の愚行だった。
手を払われた異形の勇者が不愉快そうに眉を寄せると、両手を前に差し出す。
『お前、じゃま、呑まれろ』
不可思議な波動が俺の体を包んだ。
警戒して後ろに飛び退こうとするが、奴の姿はどこにもなく……。
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「同族殺しの勇者だぞ」
「早く出てってくれないもんかねえ」
「どこかでのたれ死んでくれたら言うことないな」
俺は何故かエアリアルに帰ってきていた。
名も忘れた小さな村。
そこの住人がこちらを蔑むような視線を送る。
地球に来るまではこれが日常。
他人から線を引いて、気にも留めないで生きてきた……はずだった。
住民の視線が重くのしかかる。
逃げるように振り返り、村の外に早足で歩いていると、複数人の子供が駆け寄ってきた。
「ねえ、お兄さん裏切り者の勇者なんだろ? おっとうが言ってた」
「ぼくのお母さんも言ってた。早く死んだ方がいいって」
足が止まり、無邪気に語りかけてくる子供の言葉を瞠目して耐える。飽きてどこかに行くのを待っていたのだが。
「レオはいつ死ぬの? 迷惑だから地球まで付き纏わないでよ」
「……理紗?」
聞き覚えのある声に動揺し、目を開けてしまう。
声のした先に視線を巡らすも、そこには誰もいなかった。
子供たちを振り切るように村の外に走り出す。
頬をつたう雫。ぼやける視界を無視して足を動かす。
……今はただ、一人になりたかった。
村の外に出ると、宝石を散りばめられた豪華な鎧を纏った一人の男が立っていた。
男は俺に気がついたようでこちらに向かって歩いてくる。
「君が異端の勇者か。太陽の教会からの依頼でね、君の命をとりにきた。悪く思わないでくれよ」
男はそう言うと大剣を取り出す。男の右手に握られた大剣を目にした瞬間、背筋が凍った。
「なんでお前がその武器を持ってる?」
心にさざ波が立つ。現実を受け入れられない。
男は大剣を掲げると口角を上げた。
「不思議なことを聞くんだな。今も昔もこれは僕のものだ。聖剣ネストは君の所有物じゃない」
男は聖剣を手にこちらに突っ込んでくる。
速さは避けられないほどではないし、身のこなしから感じ取れる男の技量も俺の遥か格下だろう。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
頭ではそう思っているのに……一向に足が動いてくれなかった。
迫る聖剣。どこか他人事のように見ていると、そんな俺のことを叱咤するように暴風が吹き荒れる。
男は舌打ちを残してたまらず吹き飛ばされる。
そして次の瞬間、脳内に身に覚えのない記憶が流れ込んできた。
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