40話 同類
敵が現れる気配がないので部屋を見回ることにした。
壁に嵌め込まれている絵は大体が魔物と戦っている時のものが多かったが、中には女性を横抱きにしていたり、金銀財宝を手にしていたりと随分と順風満帆な生活を送っていたようだ。
これを見て男のモチーフが自分ではないことが確定した。
恐らく歴代の聖剣ネストの所有者の一人がモチーフになっているのだろうが……。
歩みを進めていくと、美しいガラス窓が集まっている前に豪華絢爛な祭壇画のようなものが設置されてある。
登場人物は同じ聖剣を持つ男。その人生の終わりを描いているようだった。
魔物と戦っていたはずの男は、同じ人間によってたかって殺される。
その人生にどこか親近感さえ感じてしまう。
俺も一歩間違えたら男と同じ末路を辿ったのかもしれない。
そっと祭壇画を撫でた時だった。
祭壇画の背後にある美しい色合いのガラス窓から強い光が発生する。
それに続くように周囲のガラス窓も輝きだした。
それぞれのガラス窓から広間の中心に向かってひかりの筋が伸びていき、一つに集束する。
恐らくこれは階層主の召喚……だが、感じ取れる魔力の濃さは今までとは桁違いだった。
ガラス窓からの光が止まると広間の中央に集まった光が一匹の魔物を召喚する。
右手はリザードマンのような爬虫類系の腕が生えており、左手は獣のような剛毛に覆われている。
胴体は俺の体よりも二回りは大きく肥大しており、残る下半身は……ムカデのような体躯をしていた。
強烈に漂う腐敗臭。小刻みに震えるその頭は絵画で見た男によく似ている。
倫理観が定まっていない幼子が、遊びで作ったようなその体。
生物としてのあり方が歪だった。
絵画の絵が真実ならこの男はエアリアルで死んだはず。
聖剣がエアリアルに残されていたことからもそれは間違いないだろう。
それならば勇者もエアリアルで生まれ変わるものだと思っていたが……。
『もう魔王は生まれることはないのでな』
こちらに送られる時の創造神の言葉を思い出す。
理紗は生前の記憶を所持したまま、こちらに転生した。
これは理紗が特別だと思っていたが違うのか?
考えても答えは出ない。
召喚された異形の魔物が襲ってくる気配はなかった。
体はみじろぎもせず、口元だけがかすかに動いている。
中空を見つめている目は元は黒目だったのだろうが今は白く濁っており、目が見えていない可能性があった。
魔物の前に立つとようやくこちらに気がついたようで、緩慢な動きでこちらを一瞥する。
異形の魔物は目を大きく見開くと、こちらに向かって赤褐色の右手を伸ばしてくる。
『がえせ! それは……ぼくの』
しわがれた低い声色は人が出す声とは思えない。だがその口から発せられた言葉は紛れもない人の言語だった。
「お前は、何だ?」
創造神による言語理解の加護が発動するのは今のところ人間だけ。
それはダンジョンで出会った魔物や、外を歩いていた人以外の動物に話しかけて確認している。
『ぼく? イヒっ! なんだ、ぼくは……ぼくは……ユウシャ』
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