35話 三秒ルールは通用しない
次の階層は荒れ果てた平原だった。
地面は乾燥していて、枯れ草が広がっている。
今回の相手は探さずともすぐ目についた。
小さめの岩石に座りかかるようにして瞑目している一匹の魔物。
外見はゴブリンに近い。緑色の肌に尖った耳。
だがその身に宿す屈強な肉体はエアリアルでも類を見ないものだった。
知能が低く、裸で武器を持っているだけのゴブリンとは全くの別の種族。
新たな出会いに心臓が高鳴っているのを感じる。
布製の黒い衣を身に纏い、両手には似通った形の黒いガントレットを装着している。
右腕のガントレットには甲の部分に黄色の宝石が埋め込まれていて、左のガントレットにも同じように赤色の宝石が埋め込まれている。
【ゴブリンだよなこいつ】
【頭巾さえあれば忍者服なのに。80点】
【コスプレ大会じゃないんでここ】
【てか勇者不味そうなパン手放せよ】
【それな。後生大事に持ってるのシュールすぎて草】
ゴブリンもどきは武の香りを感じさせる滑らかな動作で立ち上がり、空に向かって咆哮を放つ。
その声に呼応したように、ゴブリンの周りに無数のフライアイが召喚されていった。
【近距離戦のゴブリンと遠距離攻撃が得意なフライアイ。嫌な組み合わせだな】
【ゴブリンは瞬殺すれば良くね? フライアイは倒したことあるんだしさ】
【お前デスマーチ見たことないの? 初回の階層ならともかく、こんな後になって上層の雑魚が出てくるわけないじゃん】
【多分こいつらも下層の魔物だろうな】
まずは相手の出方を窺うか?
はやる気持ちを抑えるように少し距離を取る。
いつでも反応出来るように身構えていたところ、ゴブリンもどきが驚くべき行動にでる。
ゴブリンもどきは隣にきたフライアイに左拳を叩きこむと、フライアイは避ける間もなく貫かれた。
【同士討ち?】
【フライアイを殺したぞ】
【スタンピードか?】
致命傷により発光を始めるフライアイ。
ゴブリンもどきの手の中に魔石をひとつ残して跡形もなく消滅してしまう。
自分で呼び出して殺すとは何とも性格が悪い。
だがその行動にも意味はあったようで、ゴブリンが魔石を右手の黄色い宝石に近づけると、魔石は一瞬にして取り込まれる。
するとバチバチと音を鳴らしながらガントレットが電気を纏った。
【魔石を使って魔法を再現した?】
【戦士の救済武器キター】
【いかんせん手にしたのが勇者】
【勇者には必要なさそうだもんね】
ここまで来るともう片方のガントレットの効果も気になるところ。
いつでも戦闘に入れるように、聖剣を召喚しようとして、ミスに気がついた。
利き腕の右手には食べかけのパンが握られている……。
パンは聖剣の力によって風に運ばれてゴブリンの近くまで飛ばされていく。
ゴブリンは首を傾げながらもお腹が空いていたのか、落ちたパンを手に取ると警戒することなく口に運んだ。
味わうこともなく丸呑みされるパン。
数十秒後、俺の前にはゴブリンが泡を吹いて転がっていた。
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