32話 三回戦 サンダーバード
不安定な足場に目の前に広がる光景。
反射的に聖剣を取り出した。
辺りを見回すと無数の絨毯が浮いており、俺自身も真っ赤な絨毯上に立っていた。
下を覗き込むと地面は遥か遠いところにあり、予想外の場所に圧倒されてしまう。
どこか空気も希薄で清冽な気配を纏っており、これまでに戦ったことのない環境に武者震いが止まらない。
【こんな階層あるんだな】
【足場との距離離れすぎじゃね?】
【最上位の前衛ならワンチャン届くくらいだと思う】
【ここ見たことある。下層潜ってたパーティがランダム階層移動の罠を踏んで飛ばされてた】
【そのパーティはどうやって攻略した?】
【ノーコメントで】
【あ……】
『レオ。相手は鳥型のモンスター。それと属性持ちかも』
……属性持ち。あちらでは結構見かけることがあったがこちらにきてからは初対面だ。
属性持ちは魔物に小さな精霊の魔力が宿った存在とも言われているがこちらではどうなのだろうか。
気配を感じ見上げると左右で二対の羽を持った巨大な鳥の魔物が雲の切れ間から飛来した。
魔物は体内の魔力を練り始めると羽毛が逆立っていく。
そしてばちばちと力の一端を周囲に漏らしながらこちらに近寄ってくる。
巨鳥が羽を振りかぶると同時に左前方に浮かんであった絨毯に飛び込む。
次の瞬間、俺がいたところの絨毯は雷に打たれたように炎上しながらゆっくりと力を失って落ちていった。
【足場破壊とかえげつねえ】
【またチャージ始めたってことは連射はできないんだな】
【戦士殺しじゃんこれ】
【魔法でもきついぞ】
【狙われても次の足場に飛び移れないからな】
聖剣で倒すのもいいが、ここは戦闘に使えると言っていた泥人形の力を見せてもらおう。
泥人形を手に取り、魔力を流し込んでいく。
泥人形が一定量の魔力を取り込むと激しく振動を始める。
そして泥人形の口から二体の泥団子が吐き出されると、大きさが膨張していき、土でできた兵士の姿に変化した。
人形はそれぞれ剣と盾、槍と盾を手にしておりなかなか様になっている。
身長は俺の倍近くあり……何が言いたいかと言うと……。
「──せまっ! こんなところで出すんじゃなかった」
泥人形に足場を奪われた俺は聖剣の力を使って空中に立っている。
泥人形は巨鳥の放つ雷を自前の盾で受け止めるが、攻撃の余波が絨毯を焼き尽くしてしまい二体ともそのまま落下してしまう。
【この人遊んでる?】
【普通に空中に浮いてんじゃん】
【土人形が手をバタバタさして落ちてくの可愛い】
【この人のこれは魔法? それとも魔法具?】
【三十年童貞を貫いたら出来るようになるでござるよ】
【だから海外ニキに嘘の情報教えんな】
『レオ、見てて不安になるから真面目にやって』
ダンジョンカメラから注意を受ける。
真面目にやってたつもりだったのだが。
だがこれで分かった。この人形の使い方が……。
土人形を再び作り出すとそれを両手で掴みあげる。
土で作った割に強度が感じられるのは魔力で出来ているものだからだろうか。
仕組みはあのゴーレムに近いに違いない。
俺は持ち上げた人形を魔力を貯めている巨鳥に向かって投げつけた。
人形は巨鳥の翼に穴を開けて遥か遠くに消えていく。
「なかなかいい魔道具だな」
聖剣を手にしていなかった時代にこれと出会っていれば、重宝してたかもしれん。
投石のために石を拾い集める必要もないし、人形自体、なかなかの強度がある。
魔力さえあればいつでも使えるのならば、弓を使うよりも断然懐に優しい。
理紗の言葉を疑ったことを謝罪したいくらいだった。
【作り出した護衛を投擲のための道具にする主人】
【炎姫ちゃんと使い方説明してあげて。これじゃあ人形ちゃんが不憫だよ】
【感情移入草】
【スロー再生で見てみたら投げられた人形も槍を突き刺そうとしてんだな】
【槍は弾かれて、その後人形の体が貫通しているところに同情してしまう】
巨鳥が怒り狂ったように四方八方に雷を放つ。
雷はいくつかの絨毯を焼き焦がすと、巨鳥は高速で移動を始めた。
前後左右、不規則に動いて避けようとしているのだろうが……。
土人形を元に戻して聖剣を握り直す。
聖剣で大気を切りつけながら跳躍を繰り返した。
【勇者何してん?】
【頭おかしくなった?】
【高所恐怖症なのかも】
準備を終えると今度は巨鳥の元に飛び込んでいく。
警戒していたのか、巨鳥は回避に専念。
巨鳥は思い通りに動いてはくれず、かなりの回数追いかける羽目になった。だが……。
「詰み……だな」
巨鳥が俺の攻撃を避けるために左前方に移動する。
そこで先程宙に残していた聖剣の斬撃が起動。
巨鳥を大きく切り裂いた。
だがそれだけで終わることはない。
巨鳥の体が発生した暴風によって飛ばされて次なる斬撃の罠へと強制的に移動させられる。
それを何度か繰り返していくと巨鳥は地に落ちる前に魔石に変わる。
巨鳥が倒されると地面がすごい勢いでせりあがってきた。
数分ぶりの地面に着地すると俺の近くに巨鳥の魔石と色違いの七枚の絨毯が落ちてくる。
【まさか空を飛べるようになる魔法具?】
【世界初じゃん】
【しかも7枚って足場壊されるの多かったらもっと少なかったのかな】
【それはあり得るけど、かなり鬼畜だね。相手も積極的に足場潰しにかかってたし】
【勇者が空飛べて良かったな】
そして次の移動を待っていたのだが、待てど暮らせどやってこない。
『次の転移は六時間後らしいから仮眠取ってもいいかも』
仮眠は三時間もあれば事足りる。警戒の糸を切らなければ最悪、眠っている最中に飛ばされても不意打ちを喰らうことはないだろう。残り二時間の自由時間。先程手に入れた絨毯を並べて検証をすることにした。
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