30話 ゴーレム
しばらく待つと光り輝く蝶に飛ばされた時と同じ、幾何学的な光の陣に導かれて移動する。
飛ばされた先の環境はこれまたガラリと変わっていた。
地面は荒涼としており、ところどころ溶岩が流れている。そして辺りにはいくつもの大岩が点在していた。
【敵がいねえぞ?】
【またしんどそうな階層だな】
【フロアボス隠れてんのか?】
一際大きい岩に目を向ける。高さは俺を五倍しても余りある大きさで、とても懐かしい気配を発していた。
「気づいてるぞ。やる気がないのならそのまま叩っ切るが?」
言い終わると大岩が動き出した。粉塵が舞い上がり、岩肌が不思議な模様で覆われた。そして不恰好な手足が伸び、頭が生まれる。
子供が粘土で作った人形のような外観だが、その身に宿る魔素は、こちらにきてからは類をみないほどの相手だった。
【ゴーレムか】
【よく気がついたな】
【大剣じゃきついんじゃね?】
【でもさっきのと比べると格は落ちるか?】
【フィールド適応タイプなら危険です】
【海外勢が何か知ってるみたい】
このタイプの魔物はあちらで見たことは何度かあった。そのほとんどが魔術師が作り出す人為的なものがほとんどでさほど強くはない。だが長い旅の中で一度だけ自然発生したものと相対したことがある。
「お前は……どっちなんだろうな」
俺の質問には誰も答えない。戦ってみれば分かることだと聖剣を取り出すと、ゴーレムが巨大な腕を地面に叩きつけた。
地面が波打つように変化し、こちらに迫ってくる。空中に逃げれば攻撃を避けることはできるが、わざわざそんなことをする必要もなさそうだ。
聖剣の刃を横から優しく撫でる。聖剣が光を纏ったのを確認すると大上段から振り下ろした。
聖剣から発生した斬撃は鯨波の如く迫る地面を広範囲で穿った。
【また見たことない攻撃】
【ゴーレムまで貫通してるじゃん】
【胴体消滅してら】
【勇者最強】
残った手足が激しい音を立てて地面に落下する。
系統は魔術師が生み出したものと似ていた。だがここで考え違いをしていた。術者がいない今、魔力の供給を断たれた相手は復活できない。
あちらの常識をこちらに当て嵌める。それが失敗だと気がつくのはそう時間はかからなかった。
次の階層に飛ばされるまで警戒を解いて待っていた時、突如腹部に衝撃が走る。
視線を落とせば先程の相手が、等身大の大きさまで小さくなって、こちらに拳を打ち込んでいた。
俺の体はそのまま弾き飛ばされて壁に激突し、大きな亀裂を残す。
【殺したはずでは?】
【伏兵だと思う】
【違います。環境適応型のゴーレムは破壊されたらそれに応じて体の体積を変えられる】
【海外勢が知ってるってことは、外国でよく出るモンスターなのかな?】
【下層のフロアボスで出ることが多い。その時は被害が大きいから離脱推奨】
【そうか……離脱すればって出来るか!】
壁から背を離すとパラパラと小石が落ちていく。あちらでは眠っている間でも警戒を解く真似はしなかったのに、どうやらこんな短期間で腑抜けてしまったらしい。お腹を抑えて確認する。痛みはない、だが自分の醜態を理紗に見られていると思うと情けなかった。
『大丈夫? このゴーレムは跡形もなく破壊しないと駄目みたい。情報が遅れてごめん』
敵の能力が分からないなんて当たり前。そんな世界で戦ってきた。
「いや、あれは俺のヘマだ。格好悪いところ見せたな」
ゴーレムと呼ばれた相手は近くの大岩に取り付くと、再びあの巨大な姿に元通りになる。
【これを一人で倒すとなるとエグいな】
【向こうではどうやって倒してるんだろ?】
【魔石で作った爆弾を大量に用意します。破壊した部分を爆弾で粉々にして復活を阻止。後は頑張ります】
【なるほど頑張るか……自分もそれならいけそうだ】
【精神論キター】
復活するための素材がこれだけあると少し面倒だ。ダンジョンをあまり破壊しすぎると、他の人に迷惑がかかってしまい、罪に問われる可能性もあると言う。まずは大岩を処理していった方がいいか?
途中で斬撃を止めるなんて芸当は聖剣の機嫌がいい時にしか成功しない。だが、少し前にフロアボスの魔物に触らせたことから、こいつは非常に不機嫌になっている。
考え出した策は……。
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