29話 誤解
「人じゃない? こいつが?」
【やっと気がついた】
【ナイスだ】
【炎姫の仕業か】
【勇者の配信設定弄ったんだ】
【パスコード共有しといてよかったな】
相変わらず読めない文字が投影されていく。だが再びダンジョンカメラから無機質な声で返答があった。
『理紗と紬。二人のコメントだけ自動音声で流れるようにしたから、それだけ気にするようにしてね』
【みんなの声も自動音声で流せばいいじゃん】
【いらん情報が入ってくるだろそれじゃあ】
【炎姫って自分のこと名前で呼んでんの? 少し興奮しますた】
【こんなやつとか】
こちらには変わった魔物がいるんだな、いや……モンスターだっけか? 一つの魔物に複数の呼称があったりして覚えるのが大変だ。
ならばとこちらも目線を落とす。モンスターと呼ばれた俺とそっくりの男は、素手での攻撃を諦め、俺が落とした奴の大剣を取り戻そうとしているところだった。
奴の手が大剣の持ち手を掴んで引っ張ろうとしているが、俺の足で抑えているため今のところ徒労に終わっている。
大剣以外効かないと理解しているからか、俺の体に攻撃を仕掛けてくることはせず必死で回収を試みている様は何処か滑稽に見えた。
【ドッペルゲンガーに同情してきた】
【構図がいじめっ子といじめられっ子だもんな】
【相手が炎姫の見た目を引き継いでたらもっと興奮したのに】
『とりあえずここの説明するから早くそいつを倒してあげて』
【炎姫も少し同情してんじゃん】
【こんなレアエネミー見たくなかった】
【彼は誰ですか? 有名な人ですか?】
【海外勢も来てんじゃん】
【そりゃくるでしょ。久しぶりのデスパレードの犠牲者なんだから】
【何人かドッペルゲンガーが遭難者だと勘違いしてんのウケる】
倒れた魔物の元に歩いていくと、体が泡立つように溶けていき、小さな魔石を残して消えてしまう。魔石を手にしたと同時に遠方から光が伸びる。追加の魔物かと、警戒するがそうではないようで、ダンジョンカメラが今の状況の説明を始めた。
それで分かったことはここには様々なダンジョンの階層に出現する魔物がランダムで召喚されるらしい。
飛ばされた階層の魔物を倒してしばらく経つと、次の階層に飛ばされまた戦闘をする必要がある。
中には深い階層の強力な魔物が出現することもあり、今までで生き残りはいないんだとか。
ごくりと唾を飲み込む。まさかこんな形で願いを成就できるとは思ってもいなかった。
『絶対帰ってきてね。二人の約束覚えてる?』
【まさか結婚?】
【死亡フラグやめれ】
【俺、この戦いが終わったら結婚するんだ】
理紗との約束。最低一週間は行動を共にする。忘れるはずがない。
「覚えてるよ。ところで一つ聞いておきたいんだが」
帰ってくることを望んでいてくれている理紗に聞くのは心苦しいが……。
【告白? 告白だよな?】
【もちろん返答はごめんなさいです。残念でした】
【嫉妬民おつ】
【まあここで死ぬからどうでもいいや】
【速攻でバンされてら】
【炎姫も見てるのに阿保な真似するなあ】
『いいけど。帰ってからの方が良くない?』
「今じゃないと駄目なんだ!」
興奮のあまり声を張り上げてしまった。ダンジョンカメラからは少し間をおいて、短い返答がくる。
『分かった。聞く』
「何回戦えば強い魔物に出会えるんだ?」
変な誤解を生まないように優しく問いかけたつもりだったが、次の階層に飛ばされるまで返事がくることはなかった。
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