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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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28話 勘違い

 

 迷宮にはいくつかのタブーがある。例えば同じ階層を短期間で破壊し続けること。これはどの階層でやっても同じ結末になるだろう。破壊した階層外の魔物、そのダンジョンで出現するはずのない魔物が大量に排出されてしまう。そして生み出された魔物はやがて地上へと進出する。これは海外のダンジョンでとある国が行った施策の一つなのだが、その時にはダンジョンの周囲一帯死体の山が積み上がる結果になった。


 それ以降、意図的な破壊工作は禁止されており、ダンジョンカメラが再発防止の抑止力となっている。


 それと同じくらいレオが触れた光る蝶は、探索者に恐れられているモンスターだった。直接的な攻撃力は皆無。魔法を無効化する力を持ち、一定時間透明化する能力を持っているこのモンスターが唯一外敵に使う技。

 死への誘い。デスパレード。様々な呼ばれ方をしているが、その名の通りこれに巻き込まれて生き残れたものは一人もいない。


 ギルドも救助を諦めるほどのモンスタートラップ。その最中にいる勇者レオは……自分をただの迷子だと勘違いしていた。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 濃い緑と土の香りが鼻腔をくすぐる。ダンジョンの中にいたはずだが、外に飛ばされたのか?

 歩き出そうとした俺の前にダンジョンカメラがすごい勢いでコメントを投影し始める。


【勇者デスパレード知ってるのか?】

【ここ最近なかったから説明受けてないんじゃね】

【怯えてないもんな。その可能性はある】

【デスパレードを乗り越えた人ってまだいないんだよね?】

【ここは何処のダンジョンの階層に飛ばされたんだろう】


「悪いな。コメントしてくれても俺は読めないんだ」


 ちゃんと帰ると言っておきながら何処かに飛ばされた俺を揶揄っているんだろうか。人里が近くにあるのなら場所を聞くのも手だが……。

 背後に気配を感じて反射的に回し蹴りを放つ。


『絶対人は殺しちゃ駄目だよ』


 理紗の言葉が脳裏に浮かんで足を止めようとするが時すでに遅い。ギリギリまで力を抑えたが相手は大木を薙ぎ倒しながら森の中に消えていった。


「……人か?」


 ちらりと見えた相手は人間の姿をしていた。というよりも……。

 俺の攻撃でダメージを負ったのか、相手はよたよたと覚束ない足取りでこちらに歩いてくる。

 その姿は俺と瓜二つで鏡を見ているようだった。


【分かった。こいつドッペルゲンガーだ】

【何処のダンジョンだ?】

【分からん。けど他に何もいないことを考えるとこの階層のリソースは多分こいつに集まってる】

【下層なのは間違いない、けどこれやばくね?】


 人殺しはしないと理紗と約束した。彼女に借りがある現状では反故にするわけにもいかない。

 そんな俺が取れる手は……。


「自己紹介しようか。俺の名前はレオ。あんたの名前──」


 相手は虫の居所が悪いのか中々の速さでこちらに突っ込んでくる。踏み足は地面に亀裂を残し、俺の前までくると大剣を振りかぶる──直後、後ろに回り込んで奴の剣身を掴んで止める。

 始動を止められた相手は何が起こったのか分からずに、大剣を手放してつんのめるようにして前に倒れた。


【真剣白刃取り?】

【下層のレアエネミーだぞ?】

【もうこいつ武器いらないじゃん】

【この階層は勝てそうだな】

【何階層クリアすれば帰れるんだろうな】

【最高記録が五階。その時は魔法耐性持ってるやつにやられて⚪︎んだ】


 奴が落とした大剣を地面に突き刺して、再度説得を始める。


「さっきの攻撃は悪かったよ。急に後ろに来たら蹴り飛ばすだろう普通……。いやいや、あれは俺が悪かった。だから──」


 俺の言い訳がましい言葉が勘に触ったのか、男は戦闘手段を拳に変えて攻勢を強めた。

 先に攻撃してしまった手間、やり返すのも忍びないと極力相手に負荷がかからぬように受け流していく。


【相手がモンスターだと気がついてない系?】

【こんなに早く動ける人間がいるわけ……いたわ。同じ画面に映ってた】

【音声モードに切り替えてくれ】


 何度防いでも相手の怒りが収まる様子はない。

 ……仕方ないか。大剣を床に置き自分の顔を指差した。


「一発は一発だ。大人しく殴られるからその代わり、近くに人里があるなら教えてくれないか?」


 男はそれに応えるように拳を大きく振りかぶる。これで相手も納得してくれるだろう。迫る拳を抵抗することなく見届けた。


【さて、問題です。画面に映っている二人のうちどっちがモンスターでしょうか?】

【そりゃお前、顔面殴られてぴくりともしていない方がモンスターに決まってるじゃないか】

【相手見てみろ。殴った衝撃で指負傷してんだぞ】

【あんなに硬いんだって分かってたら手加減しただろうに……】



 どうやら相手は俺との約束を守る気はないらしい。もう片方の手で殴りかかろうとしているところを見てため息を吐く。

 ……拷問して吐かせればいいか? 理紗との約束を歪んだ認識で守ろうとしていた……そんな時だった。


『レオ、そいつはモンスターよ。殺してもいい』


 ダンジョンカメラから無機質な声が聞こえてくる。他のコメントはいまだに文字で流れているにも関わらず、その言葉だけしっかりと聞こえた。

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