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異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が、地球で魔王とダンジョン配信始めました  作者: 冬狐あかつき


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26話 手料理

 


 五階層のフロアボスを倒し終えた後、二十五階層を目指して進むことになった。理紗から全部の魔物を倒し切る必要はないと教えてもらい、こちらを襲ってくるものだけを淡々と処理していく。

 逃げることもせず、盲目的に勝負を挑んでくる相手を染みついた動作で半ば反射的に体を動かして倒す。

 一行は特に苦戦することもなく、サクサクと進んでいた。


【空いた口が塞がらないってこのことを言うんだな】

【勇者って力負けしたことある?】

【お母さんちゃんと二本足で立ってた?】



「レオ! 疲れてない?」


「問題ない。それよりダンジョン攻略ってこんな感じなのか? ほとんど歩いてるようなもんだが……」


 15階層のフロアボスであるオークを倒し終えると、理紗が声をかけてくる。


【普通は階層の合間に休憩入れんだよ】

【前衛が魔力酔いしないとここまでサクサクなのか】

【こんなの見ちゃったら他の前衛の配信なんて見れねえよ】


「そうね。でもお昼にしましょう。紬が軽食作ってきたみたいなの」


【手料理……だと】

【いつもはダンジョン前の店でテイクアウトして済ませてるじゃん】

【十万で買います】


 話を振られた紬が少し恥ずかしそうにしながらこちらに歩いてくる。彼女が頭の上に手を伸ばすと、いつのまにか可愛らしい意匠が施された箱が出現していた。


「アイテムボックスか?」


「そうだよ。魔法師の中では結構収納できる方なんだ!」


【五百キロ入るんだっけか?】

【普通のダンジョンに潜るんだったら十分な容量だね】

【俺もそこに収納してくれ。絶対役に立つから】

【ボックスの中カビが生えそう】


 そうして開けられた紙の箱からはぎっしりと料理が詰まっていた。パンの中に新鮮な野菜や肉が挟まれている。

 外側のパンは軽く焼かれていて、ふわりと良い香りが漂ってきた。


 ……紬は良いものを食べてるんだな、と少し羨ましく思いながら二人から離れた場所に移動する。

 そんな俺を見て、理紗が不思議そうに声をかけた。


「何で離れるのよ。こっちで一緒に食べましょう?」


「……ああ、分かった」


 言われた通り、近くまで歩いていくと、こちらも食糧を取り出す。それは紬が作ったのと同じパン料理だが、俺の手の中にあるものは痛みかけていて嫌な臭いを発していた。


 これは亜空間に長く入れていたから腐っていたわけではない。

 そもそも亜空間は時間が止まっているから買ったときの状態が保たれている。

 ──勇者を殺して力を得たと知れ渡ってからは、まともな品質の料理を売ってくれる者はほとんどいなくなってしまった。


「あの……それ食べるの?」


 恐る恐る紬が聞いてくる。


【美味しくなさそう】

【どこで買ったんだよ】

【自分で作ったんじゃね?】

【料理下手男か?】


 良い匂いの料理を広げている横で、こんな臭い香りを漂わせたら食欲も失せるか……。

 少しくらい食事を抜いても何とかなる。パンを亜空間に戻すと紬に向き直る。


「俺は後で食べるよ。しばらく横になってるからゆっくり休んでくれ」


 再び離れて行こうとした俺の皮鎧を理紗が掴んだ。


「なに勘違いしてるのよ。紬は料理を見せびらかしてきたんじゃないの!」


「いや、いま手元に金が……」


「無料に決まってんでしょ! お馬鹿さん。良いからここに座って大人しく食べなさい」


【何か涙出てきた】

【好意を寄せられることが少なかったのかな】

【普通は気づけそうだから、そうなんだろうね】

【拙者と同じでござるな】

【お前とは違う。一緒にするな】


 座り込む俺の前に紬が紙箱を差し出す。


「好きなのとっていいよ!」


 ぎっしりと詰まっているパンを見て一番端にあった、卵と野菜が入っているものを手にした。

 紬がそんな俺を見つめている。……これは早く食べろと言うことか?

 あちらではこんなに良いものを口にする機会は少なかったし、美味しい料理ほど毒が入っていることが多かった。


 ごくりと唾を飲み込み一口かぶりつく。体に電流が走ったと錯覚するほどの衝撃だった。

 新鮮な緑の野菜は単体でも美味しく、パンも甘みが感じられて鼻を抜ける香りは至福の一言。

 そして何より美味しかったのは卵だ。何かと絡めてあるのか粘り気のある卵は口にするたびに脳内を刺激する。

 気がつけば手元にあったパンがなくなってしまった。名残惜しく感じながらも、お礼を言おうと紬に顔を向ける。彼女はそんな俺を見て満面の笑みを浮かべていた。


「どう! 口に合った?」


「……ああ。猛毒が入っていたとしても食べたいくらいだ」


【褒め方下手か】

【分かったぞ。さてはこいつモテないな】

【お前よりはモテる定期】

【残念勇者】


 俺の言葉を聞いた紬は少しむくれる。


「料理に毒なんて入れるはずないでしょ! レオさんはもっと女心を学ぶように!」


「紬! 早く私たちも食べましょう。お腹ぺこぺこだから」


 その言葉を聞いて顔を引き攣らせていた理紗が紬を止めて、二人も食事を始めた。

 あの味を意識しないように中空に目を向けてぼーっとしていると、度々理紗から手渡しでパンを渡される。


「まだ食べられる?」


「食べられる……けど、俺に気を遣ってくれなくても大丈夫だぞ。それは二人が食べてくれ」


「女二人がこの量を完食出来るわけないでしょ。残っても勿体無いから処理するの手伝ってよ」


【優しい。優しいよ炎姫】

【あんなに美味しそうに食べてくれたら私もあげたくなる】

【分かる。食べてる時だけ頬が緩んでるもんな】

【食べ終わった時の残念そうな顔とその後の無表情】

【でも絶対自分から取らねえの見てると少し心が痛え】


 結局、半分以上のパンがこちらに回ってきた。全て残さず平らげていくと紬が驚きの声を上げる。


「すごいあの量を完食するなんて……。レオさんは大食いなんだね」


「二、三日ご飯を食べられない日もあったからな。食べる時に食べられるだけ食べるのが日常だった。それより料理を恵んでくれてありがとう。あんなに美味しい食べ物は食べたことなかったよ」


「大袈裟だよ! あの程度の料理なんていくらでもあるって!」


 紬が俺の言葉を笑い飛ばしているが、これは紛れもない本心。これだけのものを死ぬまでに食べれるとは思わなかった。

 どこか嬉しげな紬をよそに探索を再開する。

 そして到着した二十五階。俺たちが出会った場所だった。


お読みいただきありがとうございます。


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お気軽に応援の程、何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
せっかく配信してるんだし、勇者の理性について性格とか思想とか経験とか聞き出すように公開してみたら同情票いっぱい増えそう
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