254話 今後の予定
テンドルスフィア撃破後、フロア移動はしないで話し合うことになった。
配信を切り、今のうちに問題点を吐き出しておく。
「食料に関しては大丈夫そうね。レオの保管している物資を使わなくても十分足りるわ」
「出来ることならモンスターの肉を食べたいもんね。休憩は後一回くらいでいけるんじゃないかな? それと次の階層からモンスターの生態系も交わってくるから、僕とりっちゃんは立ち位置を意識した方がいいかも」
「俺はどこに立ってた方がいいんだ? しばらくは二人でモンスターを倒すのか?」
鏡花の話だと、これ以降の階層のモンスターも、今まで討伐してきたモンスターに毛が生えた程度。
イレギュラーをポンポン倒す俺からすれば、期待はずれの相手だと言われている。
「うーん。普通に戦闘に参加してくれて大丈夫だけど、全て持っていかれると困っちゃうかな。まあ僕たち二人でも苦戦することはないだろうから、そこまで気にしなくてもいいよ」
「本番は五十階層のフロアボスだしね。こればっかりは私たち二人で倒したいんだけどそれでいいかしら?」
「別に構わない。学校のルールがあるんだろ?」
理沙の学校は探索者の養成学校なので、階層更新していくと様々な援助を受けられる。
その中で二人は五十階層踏破報酬である、基礎教養の授業の免除を求めていた。
二人からすればそこまで難しい内容ではないらしいのだが、拘束時間が長く、ダンジョン攻略の妨げになっている。
……まあ理沙の方はゲーム時間の確保が主な目的のようなのだが、それでも探索時間が伸びるのは喜ばしいことである。
しかし、学校外の人間とパーティーを組む場合、中層から下層といった深度の境目となるフロアボスは、学生の力を持って討伐したと認められないと援助の対象外になってしまうらしい。
だからこその二人での単独討伐。文句を言われる筋合いがないくらいに、完璧な結果を見せつけて認めさせる。
それが探索前に伝えられているお願いだった。
そして下層に潜れるほどの実績があると認定されれば、泊まり込みの探索も気軽にできる。
快く了承して、今度は五十階層のフロアボスの話になった。
「相当自信がありそうだが、対策を立てているのか?」
「元より攻略のネックになっていたのは魔力不足による継戦能力の低さだから、ボス前で休養して回復させたらそのまま押し切れると思うの」
「僕も戦えるようになったし、りっちゃんも好きに動けば戦力倍増だよ」
新宿ダンジョンの特徴として、上層にあたる部分のフロアボスは全て確定。
中層もほとんど同じで、ごく稀に普段出てこないモンスターがフロアボスとして出現するが基本的には同じ。
そして五十階層は出現するモンスターが絶対に変わらないらしい。
「相手は五体の石像よ。回復役が一体に、後衛の魔法使いが二体。後はタイプの違う近接戦闘型が二体いる。私たちだけで倒し切るように動くつもりだけど、魔法使いの攻撃はレオにも届くかもしれない。油断はしないでね」
「前衛も体が大きいだけで、強力な力はないと思う。だからそんな物欲しげな表情を浮かべないで。心苦しくなっちゃうから」
「大丈夫だ。俺は我慢ができる男だからな。……どんな魔法を使うかだけ聞いてもいいか?」
どうしても気になり質問すると、二人は顔を見合わせてため息を吐く。
「どうしても戦いたいのなら別日にレオさんだけが挑んでもいいよ」
「一体が束縛系統の魔法。もう一体が石礫を放つ魔法よ。多分威力は身体強化をしてたら大丈夫なレベルだと思う。鎧系のドロップ武具を持っている人は無理矢理受け切る人もいるから」
「……そうなのか。なら二人とも頑張ってくれ」
「興味無くすの早いよ! そりゃデスパレードでもっと格上の相手してたけどさ。……ちょっとくらい心配してくれてもいいじゃんか」
「心配するほどの相手なのか?」
「それは……そうだけど乙女心として心配してくれたら嬉しいっていうか、お前が危ない時は守ってやるぜってシチュエーションには……」
ぶつぶつと独り言を言い始めた紬。
反応に困り、理沙に助けを求めるも、彼女は視線を合わせないようにしながらお茶を飲んでいる。
「……紬も今となっては立派な戦士だ。中途半端な心配は侮辱にあたるから、適当な言葉は使えない」
「そっか、そうだよね! ねえりっちゃん、僕、凄腕の戦士だって! 褒められちゃった」
「そこまでは言ってないわよ」
「またまた〜、羨ましがらなくてもいいんだよ」
上機嫌になった紬は、理沙にちょっかいをかけながらウザ絡みをしている。
理沙は助けてほしそうにこちらを見るが……。
「レオ! 目を逸らさないでよ、仲間でしょ!」
「さっき助けてくれなかった」
「それとこれとは別……じゃないけど、こうなった紬は本当に面倒臭いの! チームは楽しさも苦しさも分かち合うものよ。二人で協力しましょう!」
「……お茶が美味いな」
「ちょっ! 裏切り者」
二人が乗る助け舟にはもう穴が空いてしまっているのだ。
なのでどちらかが犠牲になるしかない。
戦士とは何たるやを熱く語り出した紬の口は、しばらく止まることはなかった。




