252話 聖剣は好き嫌いが多い
安全地帯の近くで配信を一時停止する。
二人を様子を見るに、しばらくは階層更新を優先しても問題なさそうだった。
「レオは直接触れずに収納できるのよね? カースドウエポン持ち帰る?」
「ショップで素材に使えるかもしれないね」
「収納はできるが武器屋はないんだろ? あまり持っておく意味もないと思うけどな」
そう言いながら、カースドウエポンを纏めて収納した時だった。
俺の前方に向かって突然吹き出す暴風。
幸いなことに背後にいた理沙たちには被害はなかったが、思わぬ出来事に皆固まる。
「え、何? 何が起きたの?」
「レオさん、イタズラはやめてよ。びっくりしたよ」
「俺が何かをしたわけじゃないんだが……」
そう言いつつも、聖剣の仕業だということはわかっている。
キラキラと光を放つ暴風は地面に近いところに集まっていき、すぐに消え去った。
地面に残されたのは、カースドウエポンの残骸。
辛うじて何であったのかわかる程度に、バラバラになってしまっている。
亜空間には使っていない他のドロップ武具も眠っているが、聖剣が直接干渉したことはない。
よほど一緒にいるのが嫌だったのだろう。
このまま廃棄してもいいが、ダンジョンショップでは様々な素材の組み合わせが試されており、あまり評価の低かった素材が高騰する、なんてことも起きているらしい。
なのでこいつらもできるなら持って帰りたい。
破壊されたことにより、紬でも回収できるようになったので、一旦彼女が回収して保管することになった。
安全地帯で休憩を挟んで探索を再開する。
今回の目標は四十五階のフロアボス――テンドルスフィアの討伐だ。
俺は既に戦った相手なので、今回は紬と理沙の二人で挑むこととなった。
出来るなら理沙と紬、一人づつ勝負したかったのだが、フロアボスの再出現させるためには一度ダンジョンから離れる必要がある。
なので今は五十階層のフロアボス撃破して、下層へワープを出来るようにすることを優先する。
それがチームとして一番いい選択だと理沙は言う。
その言葉に反論する者は出なかった。
理沙や紬にはまだまだ余裕がある。
その理由として、やはり身体強化の力は大きいようだ。
今までは不意打ちの一つでも受ければ大怪我を負う可能性が高く、下手すれば死んでいた。
なので攻略するために選べる選択肢が狭く、無理がきかない。
だが今は違う。急に接敵されても自分一人で対処することができ、魔力が増えたことにより出力でも圧倒できる。
試行錯誤しながら強くなっていく彼女たちは、まさしく成長期だった。
【まさに鎧袖一触って感じだね】
【難しい言葉使うの止めてください。マウントですか?】
【全然難しくねえだろ】
【ニート心が傷つきました】
【浪人生心も傷つきました】
道中のモンスターは、二人の魔力を温存するために俺がモンスターを処理していく。
探索を開始して二時間ほどでフロアボスの前まで来ていた。
「流石にちょっと緊張してきたわね」
「りっちゃんにとってはリベンジだからしょうがないよ。まあ僕は初見だから負けてないんだけどね。今日勝てばりっちゃんの上を行っちゃうかな?」
「そんなわけないでしょ。今の私なら、苦戦することもないわよ、きっと……」
「前回も一緒に来たんじゃないのか?」
【炎姫の敗北はファンクラブ2255の動画だ。後で確認しておけ】
【聖女のカメラ目線のはにかみはファンクラブ697だ。これは使えるぞ】
【自分の好みを押し付けてんじゃねえよ。……ありがとう。お世話になりました】
大きく息を吐きながら心落ち着かせようとしている理沙に、紬がからかいをいれる。
「前回は倒せる見込みがなかったから僕は中に入らなかったんだ。りっちゃんも試しに入り口近くで攻撃してみるって感じだったから、そんなに必死になって戦う予定じゃなかったしね」
「テンドルスフィアは魔力抵抗が強いのよ。だから私との相性最悪なの。あの触手にやられるのだけは死んでも嫌だったから、階層更新は先延ばしにしてたんだけど、今日はその恨みをやっと晴らせるってことよね」
どうやら緊張がほぐれてきたらしい。
理沙は強気な態度で扉に向かうと……ゆっくりと振り返り。
「後生だから、もしあのクソモンスターに私が捕まったら、私もろとも殺ってちょうだい。遠慮はいらないわ」
「そんなに問題視することなのか?」
切実な声色でお願いする理沙に聞き返す。
隣を歩く紬もどことなく同じ雰囲気を醸し出していた。
【……さてと、そろそろ録画いれるかな】
【有給取ってよかったと思わせてほしい】
【興奮してきた】
【みんな期待してるよ。頑張って】
【意味深な言葉やめれ】




